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どラリもん —NEW GENERATION— ACT 1
慶野 響

 「クソ あノ 野郎 ぶち殺ス すル!」
 ジャイアントは怒っていた。頭に生えた二本の煙突から真っ黒いダイオキシンを秒間500gのスピードで噴射しつつ、空を飛んでいる鳥を撃ち落としていた。
「まぁまぁジャイアント、すぐに見つかるさ」
 スネヲはジャイアントをなだめた。煙突の中に石炭をくべる。いくらかジャイアントは蒸気を噴き出したようだ。
「早ク 見つけル シろ! おレ 怒る しテル、アイツ 殺す!」
「大丈夫さ、この高性能探知機さえあれば……」
スネヲはニヤリと笑った。

「どラリもぉ〜ん!」
 いつも通りに世界で一番情けない叫び声をあげながらのび犬が35ノットの速度で地中を潜行し床を突き破り畳をぶち抜いて部屋に駆け込んできた。
「あれ? どラリもん?」
 しかしそこには、のび犬の期待していた、本人はネコと言い張る青いタヌキ型ボロットはいなかった。代わりに、部屋の真ん中に、高級ゴルフクラブの会員権が置いてあった。
「何だ、どラリもんの野郎、いやがらねぇのか。使えねえヤツだ」
 のび犬は急に、450度くらいがらりと口調を変えた。対どラリもん用泣き落としスペシャルをやめたのだ。
「ったく、こういう時にしか役に立たねえんだから、ちゃんといろよな、あのアホボロットめ……」
 のび犬は自分勝手なグチを叩きながら、ゴルフクラブの会員権を無造作につまみ上げ、自分のポケットにしまいこんだ。
 しかし、その時のび犬は知らなかったのだ。どラリもんが対ダメ人間用非常警戒網周辺事態有事対応撃退装置バージョン1.000987、略して『GODZILLA』を仕掛けていたことを。
「のびちゃん! 何やってるの!」
 見ると、ママが鬼のような形相というか頭から二本の角を生やして入り口に立っている。どラリもんの秘密道具『GODZILLA』によりママに即時連絡が行ったのだ。
 ママは必死に弁解を始めるのび犬を窓から放り出し、悠々と一階の部屋に戻っていった。

「くそーっ、どうすりゃいいんだ……」
 のび犬は屋根にしがみついていた。のび犬の部屋は上空500メートルの位置にある。その窓から放り出されたのび犬は、とっさに口笛を吹いて愛するシヅカちゃんに助けを求めたが、シヅカちゃんは出来過とイチャついていてやって来なかった。
「何ヤッテルンダイ、ノビ犬クン」
 のび犬の表情が明るくなる。上を見ると、思った通りどラリもんが窓からこちらを見下ろしていた。
「どラリも〜ん、助けてよ〜」
 のび犬は必死に哀願した。
「ヤダ」
 どラリもんの顔は引っ込んだ。
「分かったよ、机に隠していた『チョコ』入りどら焼き50個セットあげるから助けてよ〜」
 すると窓からロープが垂れ下がってきた。
「ケッケッケ、ちょろいもんだぜ」
 ノビ大はほくそ笑みながらロープを掴んだ。
 次の瞬間、のび犬の体は宙に舞っていた。そのまま3回転半ひねりを加えて10点満点を叩き出しながら光の10分の1の速度で落下していく。
「ロ、ロープが!?」
 そう、ロープには油が塗ってあったのだ。のび犬は死を覚悟した。
 どラリもんが顔を出した。
「コノクソヤロウガ、自分ジャナンモヤラネェクセニスグ人ニ頼リヤガッテ。少シ頭ヲ冷ヤシナ」
「冷やすどころかかち割られちゃうよ〜!」
 のび犬は落ちながら何とか叫ぶ。その時のび犬の頭に日本国首相の顔が浮かんだ。名案が閃いた。
「そ、そうだ、このままだと高級ゴルフクラブの会員権がなくなっちゃうよ?」
 それを聞いてどラリもんのヒゲがぴくりと動いた。のび犬はここぞとばかりに畳み掛ける。
「助けてくれたら『アンパン』でも何でもやるからさ〜!」
「チッ、ショウガネェナ。助ケテヤルカ」
 どラリもんはおなかについているポッケから怪しい物体を取り出した。そう、ひみつどうぐ『絶対合格絵馬』だ。
「ホラヨ!」
 どラリもんはそれをのび犬に投げて寄越す。
「これ、どうやって使うの〜!」
「ソレサエアレバ、絶対落チネェゼ。ヨカッタナ!」
「全然良くないよ〜!」
 のび犬の姿はついに見えなくなった。ていうか、どうして今まで会話できてたんだ?

「おイ スネヲ、のビ犬 野郎 まダ カ!」
 ジャイアントはかなり怒っていた。その証拠に、周囲の気温はすでに100度に達している。ジャイアントの足が近くの家を踏み潰した。そう、彼は怒ると巨大化するのだ。
「ま、待ってよジャイアント。もうすぐ見つかるはずなんだ」
 スネヲは焦っていた。彼はL字型の二本の針金を手にして、必死に歩き回っていた。
「モう 我慢スる できない、腹いセに お前 ぶチ殺ス!」
 ジャイアントは煙突から黒い煙を噴き上げ、拳を振り上げた。
「そ、そんな! 僕の命を奪おうってのか!?」
「そうダ お前のモのハ俺ノもの、俺のもノモ俺のモノ」
 その時、ジャイアントの拳の上に何かが落ちてきた。そう、のび犬だ。
 のび犬はそのままジャイアントの拳を貫き、途中で空中バタフライを敢行し軌道を変更してジャイアントの腹に突き刺さった。ジャイアントの体からプシューッと音を立てて空気が抜け、体がみるみる小さくなっていく。
 後に残ったのは、嬉しそうに空き地を駆け回ってトイレに顔を突っ込んで遊んでいるスネヲと、気絶したジャイアント(平常形態)だけだった。のび犬はそのままどこかへ飛び去ってしまったのだ。

 それから1ヶ月経ち、のび犬を失って悲しみのあまりご飯も喉を通らないママが、ハンバーガー(てりたま)をかっ食らいながら横になってテレビを見ていると、突然テレビが爆発し、ママは全治3分の大怪我を負った。家からは金目のものがなくなっており、当局では蒸発した息子(のび犬)が犯人だと見ているが、現場に残された、何かの青い破片は、未だに謎のままである。

Fin




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