「準備はいいか?ノビ犬。」
「ん、あ・・あ、うん。」
巨人の呼びかけに、オレは生返事をした。まだだ・・。
早く、早く来てくれ、どラリもん。
——客入りは上々。今日はかもめ台小学校の学芸会。なぜかオレたち——・・つまり、オレと巨人はコンビを組んで漫才をすることになった。
巨人ってのは、乱暴者のイジメっ子。(でも、映画ではいいヤツ。)彼の歌声は高い殺傷能力を持っていて、某国の秘密組織もねらっているらしい。
「おう、ノビ犬。」
うわっ、ウワサをすれば・・・。
「おまえ、ちゃんんとペットボトル持ってきたんだろうな?」
ドキッ。オレはあわてて答える。
「あ、ああ、もちろんさ!!」
「もう少しで出番だから、ちゃんとネタ、確認しとけよ。」
そう言うと、巨人は階段のほうへいってしまった。
そう、今オレがソワソワと落ちつかナイのは、そのペットボトルのせいなのだ。何に使うかって?ツッコむときのハリセンのかわりさ。もちろんコレは、ネタ同様に巨人が考えたものだ。
オレは昨夜のどラリもんのセリフを思い出した。
「どラリもん・・・。」
ふと、教室に目をやると、演劇が終盤にさしかかっていた。ヤバイ!出番までもうあといくらもない。
体を、変な汗が流れているのを感じる。〈どラリもんを待つアセリ〉は、〈どラリもんへの怒り〉へと変わってきた。
気づくとオレは、独り言を言いはじめた。
「くそっ、どラリもんはアテにならない・・・。」
だいたい今までだって、アイツの道具のせいでヒドイ目にあってきてる(前科二犯)。・・そういや最近、アイツの押し入れの中で、油性ペンや修正液を大量に発見したなと思ったら・・。
「まさか、シンナー・・?。」
と、そこでオレの思考はさえぎられた。教室から司会が聞こえてきたのだ。
「次は、コンビ・ジャイアニズムによる『鬼太郎漫才』です。」
教室から拍手があがる。
———間にあわなかった・・・———。
いつのまにか、巨人も教室のドア前に戻ってきていた。
「いよいよ本番だ。ミスるんじゃねぇぞ。」
・・・・?どうやら巨人は、オレがペットボトルを持っていないコトに気がついていないようだ。
————・・よかった、バカで・・・。
「行くぞ。」
巨人が小声で言った。そして、教室に入ろうとしたその瞬間———。
———ノビ犬く〜ん・・・・。
え?だれかに呼ばれた気がして振り向く。
「ノビ犬く〜ん。」
ドラリもんだっ!どラリもんが、ペットボトルを持って、飛んできてくれた!!はははっ、やっぱりオレの親友だゼッ!!!
「ノビ犬くん、遅れてゴメン。」
「ううん。どラリもん、ありがとう。」
パシッ。オレは手を伸ばし、空のどラリもんからペットボトルを受け取った。
少し重い? きっとコレが、友情の重みってやつだろう。・・・と、その時は思ったのだ、が・・・・。
———巨人のつくったネタ『鬼太郎』は、なかなかおもしろいらしく、結構ウケていた。
そして、漫才も終わりに近づき、最後のツッコミ。いよいよペットボトルの登場だ。
「何をぬかしとんねん。もうええわっ!」
オレはちからをこめてツッコんだ。
ゴッ。
「え?」
妙に手ごたえがあった。そして、巨人は前に倒れこんだ。頭から流れる鮮血が、彼の純白の衣装を紅く染め始めた。
「なっ・・。」
ペットボトルを見ると、なぜか水が入っていた。しかも、凍っている!!
さらに側面には手紙がついていた。内容は次の通り——。
『シャベリツカレタ時ノタメニ、水イレトキマシタ。どラリもん』
・・・どうりで重いと思ったら・・・。
落語じゃねぇんだから、水なんて入れとくんじゃねぇよ!夏の部活動じゃねぇんだから、凍らせとくんじゃねぇよ!!
ピーポーピーポー・・・。救急車の音が近づいてくる。フッと、ツッコミがうかんだ。
——『て、ゆうか、気づけよ、オレ。』
巨人を殴ったとき、驚きと同時に一種の開放感のようなものを感じていた気がする。
でも今は、・・・今は違う!!
パトカーの中で、巨人を乗せた救急車を見送りながら、心の中でこう叫んだ。
———ジャイアン、死んじゃいやん・・・———。
こうなると、オレってお笑いに向いているのかもしれない・・・・。
よしっ!オレは決心した。今度シャバに出てきたら、お笑いを目指そう、と。
でも、その前に・・・真っ先にしなきゃならないコト、それは
———どラリもんをぶっこわすこと———。
そこまで考えて、オレは静かに目をとじた。紅い夕日が、とてもきれいだった。
あとがき
いやいやあ、長かった。もう、どラリもんシリーズやめたりましょか?マジで。
ところで、『巨人』てのは『ジャイアン』のことです。
ま、ぼくだけほとんど本名なんスけど、実は進化してます、ペンネーム。前回、『水辺野』で今回は『海辺野』。
以上、『浜辺野』珪藻でした。(どないやねん)