神戸地裁判決

「市芦強制配転は不当労働行為」


強制配転処分に取り消し命令

 1986(昭和61)年から1988年にかけて行われた市立芦屋高校教諭9名に対する強制配転は、組合を嫌忌した芦屋市教委の組合活動を阻害するための不当労働行為であるから、「転任処分を取り消す」との判決が、9月30日、神戸地方裁判所で出され、芦屋市教委の違法な処分が断罪された。

 最初の処分から13年、長期にわたって教諭を学校から排除した責任は、松本壽男元教育長、北村春江現市長(元教育委員長)、小林剛明元管理部長とその追従者が負わねばならない。
 また、これらの違法処分を放置、追認してきた現教育委員会にも大きな責任がある。現教育委員会は、この判決を受け入れ、一刻も早い不利益の回復をはかることで、その責任を負わねばならない。

 さらに、本件のような職権濫用による不利益処分に対して、公平委員会(高沢委員長)はその違法性のみならず不当性も考慮して、裁判所にもまして早期に幅広く職員の救済を行わなければならないにもかかわらず、その機能を全く果たさなかった。
 これは公平委員会の存在意義が問われる重大な問題である。

違法な処分で取り消しを免れない(判決要旨)

 

 判決は「被告市教委は、教育効果の向上という教育行政上の目的を達成するために、職員をその管理下にある教育機関に適切に配置すべく、職員の転任について広範な裁量権を有する」としながらも、「しかしながら、右の裁量権は無制限なものではなく、当該転任処分に合理的な必要性がなく、他の不当な目的から出たものであることが明らかであるなど、社会通念上著しく妥当性を欠くもので、その裁量権を逸脱ないし濫用したと認められる場合には違法、無効となる」「とりわけ、教員については、教育基本法6条においてその身分の尊重が定められていることに照らし、他の職種への転任の必要性・合理性についてはこれを慎重に判断する必要がある」と、強制配転の違法性の判断基準を明確に示している。この基準はこれまでの判例を踏襲したものである。

 そして、各原告8名の強制配転に関して、被告芦屋市教委が主張してきた、過員解消、配転先の公務の必要性、本人特定の理由、人事交流の必要性、配転先での職務内容の合理性等緻密に検討され判決に至っている。個々の処分を検討して、以下の認定をしている。
・配転には公務の必要性は認められない
・市芦高における異動の必要性が乏しい
・人員選択に合理性が乏しい
・教職経験が生かされる配転先ではない
 配転の必要性・合理性の立証責任は被告市教委にあったにもかかわらずそれが果たせず、あるいは彼らが示した配転理由は原告の供述と証拠によりことごとく粉砕された。
 裁判所は、公務の必要性・人選の合理性等の欠如を認定した上で、以下のように明確な判断を下している。
 

異例な異動にもかかわらず手続きが性急である

 
 「本件のように、教員を学校教育以外の職場に転任する処分でかつ被処分者の意志に反することが容易に予想される場合、転任に際しては事前に本人の意向を打診し、転任先について説明を行うのが望ましい。」「被告は、原告らの意向を聴取することなく、また、異動の内示についても、行わないか、又は転任処分の直前に行っているが、このことから直ちに本件処分が違法であるとはいえないにしても、教員を被処分者の意志に反して学校教育以外の職場に転任する手続きとして性急であったことは否めない」(判例を踏襲)

 「鈴木については、学期途中と言う異例の時期の、教員の意志に反する学校教育以外の職場への転任処分であるにもかかわらず、事前の通知が行われておらず、異動の必要性・合理性にも乏しい。」「昭和62年度転任処分(6人)及び深沢についても、教員の意に反する学校教育以外の職場への転任処分で、しかも芦屋市において前例のない学校教育経験者の指導員への転任処分であって、異動期間も特に定められていないにもかかわらず、適時に事前の通知が行われたとはいえず、必要性・合理性についてもこれを充足していたとはいえない。」
 

教諭を12年間も学校教育の現場から隔離することは、異常で、人事交流とは認められない

 
 「本件転任処分のうち、昭和62年度転任処分は定数条例の改正による過員の解消の必要性を一つの理由としているが、61年度鈴木、63年度深沢について過員解消の必要性を認めがたい。」
「被告は、本件転任処分の理由として、人事交流の必要性を主張する。
 しかし、本件処分後、市芦高では度々教員の異動が行われ、原告を復帰させる機会があったにもかかわらず、・・・12年以上経過した現在に至るまで未だ学校教育の現場から離れているのであり、右状況は、芦屋市において市立高校が市芦高のみで、人事が停滞しがちであるなどの被告の主張を前提としてもなお、教員免許を有し、学校教育に携わってきた原告らに対する人事措置として異常なものといわざるを得ず、被告の主張する人事交流の目的に沿った措置が採られていると到底認められない。」
 

松本・前田の言動から「組合敵視」は明らか!

 
 判決は、「松本教育長及び前田校長の言動について」の項で、彼らが組合を嫌悪し、敵視していた事実を認定している。
 「『建設を忘れ、破壊か現状維持に没頭するどこかの輩とは違う』と、暗に分会を批判した文章に続けて『この間9名の非組合員が誕生した』と記載した事実が認められる。右の文章からは、同人(前田校長)が本件転任処分当時、分会を敵視し、非組合員の誕生を歓迎していたことが窺われる。」
 「週刊教育PROには、退任後の松本教育長の発言として、『私が教育長に就任した時は組合加入率は96%くらいでしたが、私の在任中に75%まで減りました。心ある先生は皆、私についてきましたから』等、教職員の組合を敵視し、市芦高から分会組合員を排除する目的で転任処分を行ったことを示す文章が記載されている。」「被告は、右発言の有無が明らかでなく、誇張されたものである旨主張するが、雑誌が教育に関する専門的な雑誌であることを考慮すれば、編集者が、松本教育長が何ら発言していない内容について不正確な理解の下に記事を執筆したとは考えがたい」「松本教育長が在任中も分会を敵視していたことが推認される。」
 

組合を嫌悪し、組合活動阻害を目的とした配転で、社会通念上著しく妥当性を欠くので取り消しを免れない

 
 判決は前述の全てを総合的に判断して、「これらの事情からすると、本件転任処分は、被告(市教委)が、原告らを分会における組合活動を理由に市芦高から排除し、当時対立状況にあった分会の勢力を弱める目的で行ったものと推認せざるを得ず、このうち昭和62年度については、同校の過員解消の必要性という動機も存したことは認められるものの、転任処分の対象として原告らを選んだ主要な動機は、同人らの組合活動を嫌悪したことによるものであったと認めるのが相当である。」と不当労働行為性を認定している。その上で、
 「右のような不当な目的による本件転任処分は、教育行政目的に資するものではなく、社会通念上著しく妥当性を欠くもので、任命権者に与えられた裁量権を逸脱する違法な処分というべきであり、取り消しを免れない。」と、画期的な処分取り消し判決を下した。

市教委は控訴せず、判決に従い責任を取れ!

 神戸地裁判決により、「不当労働行為による転任処分であり、取り消しは免れない」との判断が下された。
 芦屋市教委は、直ちに判決に従い責任を取らなければならない。
 12年という長期にわたる配転は異常であり、人事交流の目的に沿ったものではないことは誰の目にも明らかであるが、この判決によって「処分取り消し命令」という形で司法においても確認された。
 被告芦屋市教委は原告らにこれ以上の不利益を与えるべきではなく、控訴を断念し判決に従う責任がある。
 責任という点では、芦屋市公平委員会(高沢委員長)も同罪である。
 不利益処分を受けた職員を公平な立場に立って救済することを本来の任務としているにもかかわらず、同委員会は、当局の下請け機関となりさがって、芦屋市教委の行った処分を補強・追認した。
 判決は、その内容において、こうした「不公平委員会」をも断罪している。
 また、処分当時、教育委員あるいは教育委員長の職責にあり、「松本教育改革」の推進者でもあった現北村市長は、本件処分を含む「松本教育改革」をネタにして市長当選を果たしている。
 北村市長もまた責任を免れない。
 さらに、誰にもまして責任を取り得る立場にあり、取らなければならないのは、この処分を追認してきた現教育委員会であろう。
 任命権者である教育委員会は、神戸地裁の判決を受け入れ、原告らの権利・身分の回復を一刻も早く実現しなければならない。


教育委員会は地裁判決を受け入れ、早期に権利回復をせよ!


1999年10月1日      兵高教阪神支部市芦高校分会、市芦救援会