大阪高裁勝利判決要旨

第1 当事者の求めた裁判
1 強制配転事件
(1) 控訴の趣旨
(2) 控訴の趣旨に対する答弁
2 懲戒処分事件
(1) 控訴の趣旨
(2) 控訴の趣旨に対する答弁

第2 事案の概要
1 事案の概要は,事項に当審における各当事者の主張を掲げるほかは,原判決記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における各当事者の主張
(1) 第1審原告ら(p4)
 省略
(2) 第1審被告(p10)
ア 本件転任処分の不利益処分該当性について(要約)
 (ア)  a 手当不支給のため給与が減少していること,
 b 教諭が指導員へ転任した例はない,
 c 免許資格を要し,学校教育に関する専門的な知識,経験を必要とする教員を業務内容を異にする事務職員である指導員への転任であること,
 d 指導員は指導主事と異なり,係長以上の職に就くことができない職であること,
 以上を理由に不利益処分とはいえない。
 (イ)〜(カ)は、上記a〜dについての説明。
イ 市立芦屋高校への復帰と訴えの利益について(復帰した3人について)
 (ア) 3名は既に市芦へ復帰しているので処分の効果は既に消滅しており、処分取り消しにより回復すべき法律上の利益はない。
 (イ) 既に復帰した3名は、将来に向かって法令上の不利益をおそれがなくなったから、処分取り消しによる回復すべき法律上の利益はない。
 (ウ) 転任処分が取り消されたからといって,教育調整額及び義務教育等教員特別手当の法的性格からして,同手当が支給されることにはならない。この点については別件で裁判所に救済を求めるべきものである。この訴訟での訴えの利益とはならない。
ウ 本件転任処分の適法性について
(ア) 総論
a転任処分は総合判断される、b松本教育長,前田校長が分会敵視していたとはいえない、c分会は教育改革に反対の態度をとっていたから本人の同意は困難であり,転任処分の手続きが性急であったとはいえない、d処分後人事交流の目的にかなう措置がなされていなかったとしても阪神淡路大震災のためで,非難されるものではない
(イ)転任処分の違法性について
市芦への復帰が遅れたのは,a阪神淡路大震災のため、b少子化により定員・教員定数の見直しのため
(ウ)転任処分の不当労働行為について
教育委員会,前田校長が組合活動を阻害しなければならない理由はない
(エ)復帰させられなかったのは
 a県市1対1交流の基本原則があった、
 b平成元年度以降の各教科の人事異動(a)英語科(b)社会科(c)理科(d)体育科(e)美術科に関する事情があった。例えば、市芦異動対象者の校務分掌への配慮、原告の配転先での担当事業の継続性、その時々の芦屋市の財務状況、異動方針、カリキュラムの見直しや学教審答申により学校運営・人事異動に慎重な対応が迫られていた、阪神淡路大震災の復旧・復興目的の人事異動の必要性等々、
 c原告らは芦屋市採用のプロパー教員であり、阪神淡路大震災により当初の異動方針の変容、教員定数の見直し、校務分掌の継続化の要請等の背景があり復帰が遅れた
(オ)転任処分(鈴木)についての補足
(カ)転任処分(森村、滝山、小川、麻田、石橋、吉岡)についての補足
 a〜f(共通)、g〜h(麻田)、i(石橋、吉岡)
(キ)転任処分(深沢)についての補足

第3 証拠関係
   証拠関係目録記載のとおり

第4 当裁判所の判断
 1 当裁判所の判断は、次の通り付加・訂正(語句訂正のみ)するほかは、原判決「事実及び理由」の「第四 争点に対する判断」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。
学校の教員の指導員への異動は身分ないし俸給に不利益を生ぜしめる
 第一審被告は、本件転任処分の不利益性について、a手当不支給のため給与が減少していること、b教諭を指導員へ転任した例がないこと、c免許資格を要し、学校教育に関する専門的な知識、経験を必要とする教員の、業務内容を異にする事務職員である指導員への転任であること、d指導員は指導主事と異なり、係長以上の職に就くことができないこと、などをもって不利益処分とはいえないと主張する。
 しかし、転任先の地位・職務に即応する給与・手当が支給されるのは当然であり、本件転任処分によりその支給総額に減少があったとしても受忍限度の範囲内のものである、と即断することはできない。そして、教員から指導員への異動が希なものであることを、不利益性の判断をなす際の一事情として斟酌しても不利益性がないということはできない。
 また、異動先の職務が教育職員に深く関係するという抽象的な説明だけでは、どのように深く関係するかは不明であって、このような程度の説明をもって上記の不利益性の存否の判断に資するものということはできない。
 さらに、係長以上の職に就かせることは、職の変更により可能であるとしても、本件転任処分により就任した指導員とこれからさらに変更がなされることによりつくことになる指導主事とは明らかに異なるといえる。
 以上のとおりであって、当該処分によりその身分・俸給に具体的な不利益を生ぜしめ、勤務場所・内容において何らかの不利益を伴うものか否かという観点から検討すると、本件転任処分は、第一審原告らの身分ないし俸給に不利益を生ぜしめるものであるということができ、第一審被告の上記(不利益処分にはあたらないという)主張は理由がない。

<学校に戻したからといって、訴えは無効にはならない>
 第一審被告は、3人は学校へ復帰しているから訴えの利益がない、と主張する。しかし、前項で認定・説示したとおりであって、本件第一審原告三名における不利益を回復するためには、本件転任処分の効力を排除する判決を求めることが必要となるのであって、上記主張は理由がない(第一審被告は、上記手当等相当分の支払いを求めるためには、異別の訴訟によるべきであると主張するが、第一審被告が主張するような上記異別の訴訟だけで目的を達することができるものではないといえる。)。

<転任させる必要性・合理性乏しく裁量権を逸脱する違法な処分で不当労働行為>
(鈴木先生について)
 第一審被告は、本件転任処分(鈴木)について、「①転任処分は総合判断である。②組合敵視していたとはいえない。③本人の同意を取るのは困難であった。④処分後適切な人事交流がなかったとしても、阪神淡路大震災があったから仕方がない。⑤大震災、少子化による教員定数の見直しのため復帰が遅れた。⑥教育委員会や前田校長が組合活動を阻害しなければならない理由がない。⑦県市一対一交流の原則があった。⑧事情により復帰が遅れた。⑨原告鈴木が適任であった」と主張する。
 しかし、転任処分につき一般論的には、各要素を勘案して総合的に判断すべきであり、また、各市の取り組み姿勢・方針に左右されることがあること、さらに、本件転任処分(鈴木)の後、市立芦屋高校を中心とする異動につき、その過員解消の要請、異動先が第一審被告所管下に限定されること、支障なき学校運営の維持等を考慮すべきであったということはできるが、前記認定・説示する(判決109頁末行から121頁8行目まで)とおり、本件転任処分(鈴木)について、過員解消の必要性は認めがたく、学期途中という異例の時期に、第一審原告鈴木の意に反する学校教育以外の職場への転任処分であるにもかかわらず、事前の通知もなかったのであって、第一審被告が第一審原告鈴木の社会科の教員としての教育経験を活かして、芦屋市準備委員会での連絡調整係としての宿泊衛生・輸送警備部門での業務の充実を図る目的を有していたとはいえず、第一審原告鈴木が現実に従事していた業務が第一審原告鈴木の教員としての経験を活かすものであったとも到底いい難い。したがって、結論として、第一審原告(鈴木)を指導部学校教育課(六三総体芦屋市準備委員会)に転任させる必要性・合理性は乏しかったといわざるを得ない。また、第一審原告鈴木は、昭和61年10月から平成11年4月まで、12年6か月間、学校教育の現場から離れていたのであって、この間、阪神大震災が発生し、その直後から一定期間は、その復興・復旧を最優先とする人事異動をなすべき時期もあり、これに加えて第一審被告が原審・当審で述べる第一審原告鈴木及びその他の者の人事異動に関する上記阪神淡路大震災以外の種々の要素が存在したことを勘案しても、第一審原告鈴木が上記十二年六か月間、学校教育の現場から離れていたことは異常であるといわざるを得ないのであって、これらの点を勘案すると、上記主張は言い逃れ的な主張であるといわざるを得ず、理由がない。そして、何よりも、分会における組合活動に対し、前田校長及び松本教育長が中心となってこれを嫌悪したことにより本件転任処分(鈴木)がなされたものであることを重視せざるを得ず(この点は、第一審原告鈴木以外の第一審原告らの本件転任処分についても同様である。)、これは、社会通念上、著しく妥当性を欠き、任命権者に与えられた裁量権を逸脱する違法な処分であるというべきであり、他の主張も理由がない。芦屋市教委の主張は、上記のとおり第一審原告鈴木を上記の転任をさせる必要性・合理性が乏しいとする認定・判断を左右するものではない。

<公務の必要性もなく、教員経験も活かさない職務である上、転任処分の対象に選択した合理的理由がない>
(森村先生について)
 転任処分につき、一般論的には、各要素を勘案して総合的に判断すべきであり、過員解消の要請、異動先が第一審被告(芦屋市教育委員会)所管下に限定されること、支障なき学校運営の維持等を考慮すべきであり、さらに本人の資質向上を期待し、教育行政目的の達成に寄与することを企画して転任処分が行われることがあるということはできるが、本項(原判決123頁8行目から127頁4行目まで)で認定・説示したとおり、本件転任処分(森村)において、第一審被告が第一審原告森村の教育経験を活かして購入図書の選定・読書指導等の業務の充実を図る目的を有していたとはいえず、また、第一審原告森村が現実に従事していた上記業務が第一審原告森村の教員としての経験を活かすものとも到底いい難く(第一審被告が主張するように、異動先での業務分担が、その所属長において割り当てられるものであったとしても、本来、高校の英語科の教員として採用され、それまで長期間、英語科の教員として勤務を続けていた第一審原告森村を市立図書館に転任させるのであれば、転任先の所属長に対し、第一審被告が主張するような当該転任処分の意味・教員としての経験を活かすという目的に即して第一審原告森村に対する期待等を連絡し、第一審原告森村がどのような業務に従事することが望ましいものと理解しているか、あるいはどのような業務に就くことを期待しているかという点についても第一審被告側から転任先の所属長に対して連絡等がなされた事実は窺えないのであって、第一審原告の、異動先での業務分担が配転理由と異なるからといって異動に必要性・合理性がないとはいえないとの主張は、本件訴訟になってからの第一審被告の立論であるといわざるを得ず、採用できない。なお、この点については、第一審原告森村以外の第一審原告らについても同様のことがいえる。)、結論として、第一審原告森村を転任処分の対象に選択したことにつき合理的理由は見いだすことはできない。分会を敵視していない、不当労働行為ではないとの主張については、後記(原判決159頁5行目から180頁10行目まで)のとおりであって、理由がない。また、戻すつもりであったが戻せない正当な事情があったとの主張については、本件転任処分(森村)の後、英語科についての異動があり、また、阪神淡路大震災が生起したのが平成七年一月一七日であり、その時点までで本件転任処分(森村)から既に八年が経過していることを勘案すると、上記主張は言い逃れ的な主張であるといわざるを得ず、理由がない。そして、教育改革に反対していたから同意が取れなかった、県市一対一交流が原則であったとの主張は、本件転任処分(森村)において、上記のとおり第一審原告森村を市立図書館に転任させる必要があったとはいえず、第一審原告森村を転任処分の対象に選択したことにつき合理的理由は見いだすことはできないという認定・判断を左右するものではない。

(滝山先生について)
 (略/同森村)本件転任処分(滝山)において、第一審被告が第一審原告滝山の社会科教員としての教育経験を活かして(第一審原告滝山が博物館学芸員資格を有していたとしても)緊急開発にともなう発掘調査に関する国庫補助の予算関係書類の作成、環境整備、文化財資料等の寄贈があった場合の書類作成、補助的業務としての発掘に関する大半の業務等の充実を図る目的を有していたとは到底いえない。また、第一審原告滝山が現実に従事していた上記各業務が第一審原告滝山の教員の教員としての経験を活かすものとも言い難く、結論として、第一審原告滝山を社会教育文化課に転任させる必要性があったとは到底いえず、第一審原告滝山を転任処分の対象に選択したことにつき合理的理由は見いだすことはできない。(後略/同森村)

(小川先生について)
 (略/同森村)本件転任処分(小川)において、第一審被告が第一審原告小川の社会科教員としての経験を活してみどり学級乳幼児部おける重度心身障害児の担当業務等の充実を図る目的を有していたとは到底いえない。また、第一審原告小川が現実に従事していた上記業務が第一審原告小川の教員としての経験を活かすものともいい難く、結論として、第一審原告小川を上記みどり学級乳幼児部に転任させる必要性があったとは到底いえず、第一審原告小川を本件転任処分の対象に選択したことにつき合理的理由を見いだすことはできない。(後略/同森村)

(麻田先生について)
 (略/同森村)本件転任処分(麻田)において、被告芦屋市教委が、原告麻田の保健体育科教員としての教育経験を前提として、本件転任処分をなし、本件出張命令(県体育連盟へ)を命ずることにより体育保健行政事務を学ばせ、行政運営の参考にするという研修目的を有していたとは到底いえない。また、原告麻田が本件転任処分及び本件出張命令に従い現実に従事していた業務が、(原告麻田の教員としての経験を前提として)被告芦屋市教委の上記事務を身につけることに資するものであったとはいい難く、結論として、本件転任処分をなす必要性・合理性は乏しかったといえる。(後略/同森村)

(吉岡先生・石橋先生について)
 (略/同森村)本件転任処分(石橋及び吉岡)において、被告芦屋市教委が、原告石橋および吉岡の理科(石橋)・美術科(吉岡)の各教員としての教育経験を活かして、上宮川文化センターでの各業務の充実を図る目的を有していたとは到底いえない。また原告石橋及び吉岡が現実に従事していた上記業務が各教員としての経験を活かすものともいい難く、結論として、原告石橋及び同吉岡を指導部学校教育課(上宮川文化センター)に転任させる必要性・合理性は乏しかったといえる。(後略/同森村)

(深澤先生について)
 (略/同森村)本件転任処分(深澤)において、被告芦屋市教委が、原告深澤の理科の教員としての教育経験を活かして教育研究所における業務の充実を図る目的を有していたとは到底いえない。また、原告深澤が現実に従事していた上記業務が原告深澤の教員としての経験を活かすものともいい難く、さらに、被告芦屋市教委が主張するとおり相当な範囲で人事権についての裁量が認められるものの、四方行元教諭ではなく、原告深澤を選択した理由について何ら納得できる説明がなされていないのであって、結論として、原告深澤を教育研究所に転任させる必要性及び人員選択の合理性は乏しいといわざるを得ない。(後略/同森村)

以上