あのダムの話だけでも10個くらいすぐに埋まっちゃうほど恐い思いは数多く...いかなけれゃいいんだけどね。小出しにしていきます。どれもまだ20代前半の頃の下久保ダムお話です。

前々の話から出てくるとおり、この手の話のパートナーは決まって"一義"君。もう既に"たつろー"はいなくなっていますから...

「下久保ダム」と呼称していますが、ダムと言うからには湖があるもので、このダムがあるのは神流湖。神流湖には赤い橋と呼ばれる「カップル殺人事件」の現場になった橋、金比羅橋があります。

懲りない面々(と言っても2人だけ)は、また新しい話を聞いてきました。それは..

「友達の秋和君が、女の子の逃げられない場所 (..?)、赤い橋の真ん中で、カーSEXをしていたら、窓から血だらけで髪の長い半分溶けたような女がウィンドーにへばりついてこっちを見ていた。」

という話。
こいつ...よくそんなところでしましたねぇ...と半分関心だったけど、そのときの彼の口調と顔はコッチがビビるには十分。さっそくその日の夜、一義君と一緒に赤い橋へ出かけました。(何故逃げられないところで? と言う疑問はあったけど。)

この頃、念願叶ってコルベット(車)を手に入れていたので、とにかくいつでも毎日でも走り回りたかったんですよねぇ。下久保ダムはそんな私の常駐巡回コースでした。ガソリン代えらいかかったけど。

鬼石町から神流湖に入る道すがら、窓を開けて空気に当たりながら行く。
なんとなぁくジメッとした空気に鳥肌たてながら、半分ワクワクです。
そろそろこのあたりから...という場所に近ずくと、一義も目で合図。とにかくあの危ない方のトンネルは通らないようにダムをわたり、「アライさんち」と呼ばれる猟奇事件があった家の脇の湖畔を走り、赤い橋に向かいます。

「あらいさんち」とは、私の知らない頃前の話なのですが、一家5人...父親、母親、子供3人の家族が住んでいて、ある日突然父親が乱心。家族全員の首を鉈ではねて、自分も首吊りをしたが....子供の首が1つ見つからなかった...とか言う逸話が残っている廃屋です。真意のほどはよく知らんから、地元の警察ににでも聞くと早いけど。とにかくこの廃屋、なぜか何年も残っているから不思議。ここでの怖い話はまた後ほど。

赤い橋の袂は、トンネル側からくると駐車スペースはあるのですが、反対側はちょっと道が荒れて難儀。それでも車を止めてあたりを詮索。さすがに空気の質が違う。なんかとっても重い。車のエンジンとライトはつけたままです。

「どーする? 反対側まで歩くでしょ? 」
「まぁそーだよねぇ。でも一人づつか、二人で一緒にかが問題だよな。」
「おまえ途中でビビラらすから、そーいうんだったら一人の方がいいけど...けどなぁ...」
「ここ来てそんな余裕あると思うかぁ。」

結局二人で歩いて渡ることになりました。
この橋、山の中の本来の意味での恐い吊り橋じゃなく、自動車もわたれるくらい結構大きめのしっかりしたアスファルトっぽい橋で、二人で並んで歩いても結構余裕のある道幅です。

「こえー...これって昼間渡っても恐いと思うぅぅー。」
「何でこんなところでエッチしたかなぁ...あいつ。」

湖の上に架かる橋ですから吹きさらしで風当たりがよい。結構ブワッて感じの風が時折吹きます。

「突然逃げたり大声出したりするなよな。」
「大声はださねぇけど、逃げるなってのはちょっと...逃げるかもしれない...」

余裕があったのか無かったのか..まだ冗談事言っている二人でした。
橋の真ん中あたりまで来たとき、ダム側の手摺りから下を見てみたりします。

「ここから落とされたらつらい物があるよなぁ...」
「そういう問題じゃないかもしれんぞ。」

馬鹿なことを言ってた時です。

グラグラグクラ・・・・・・

「おいバカッ!! 揺らすんじゃねぇよっ!! 恐ぇだろぉっ!!」

一義に叫びます。橋が急に揺れたのです。かなりの揺れ。

「揺らしてねぇよぉ。こんなに揺らせるかよこの橋・・・」

一義はすぐ後ろで踏ん張り立ちをしています。自動車が通れる橋、こんなに揺らせる人間はいませんよ確かに。
ドキンッ・・・瞬間的に心臓がバクバクになってきて・・・
(もしかしたら車でも渡ってきたのかな・・・)
でもヘッドライトもつけないでここを渡ってくる阿呆はいないでしょう。とにかく見える光は、橋のたもとにある自分達の乗ってきた車のものだけです。

「来たぁ・・・逃げるぞっ!!」

私は小走りに元来た方向に急ぎます。その時...

「わわわぁぁ・・・ちょっと待って! 待ってくれよ!! 足が・・」

声の方を振り向くと、半コケ状態の一義が両手で右足を必死で持ち上げようとしています。端から見ると、まるで片方の足だけが地面に接着されてしまったかのよう。

「足捕まれてるっ! 助けてくれぇ」

そうはいってもコッチも固まります。恐怖で。
私はオロオロするばかり。一応励ましの激なんぞを飛ばしてはいますが、もうパニック。

「何してんだよっ! 早くしろよっ!! ひっこぬけぇっ!!」
「うごかねぇんだよぉぉ この足がっ  ちくしょーー」
「俺、車持ってくるからがんばってろよ、湖にひっぱられるなよ」
「わーわーわーー!! 置いてくなよ、待っててくれよぉ。」
「いやぁ...置いてかないでぇぇ.....」

「え...!?」
「・・・だれ?・・・」

女の呻くような声です。かすかだけど二人ともはっきり聞こえました。私は一義と顔を見合わせて..

「聞こえただろ?」
「うん....女...だよな...」

橋のグラグラはいつの間にかおさまっています。じっと耳をすませて、辺りの様子をうかがい気配を感じ捕ろうと....さっきまで二人を大騒ぎさせていた恐怖が、何故か嘘のようになくなるのです。
なんか「来るなら来て見ろ」的な感覚になって、私なんかは臨戦態勢をとっています。オバケ相手に何をするのかって感じですが。 

1-2分...そんな感じでいたかな。でも何も起こらない。

「あ、足とれた...」

後ろで一義が、さっきまで地面に張り付いていた足をくるくる回してます。

「ゆっくり戻ろうな、ゆっくり。」

一歩一歩確かめるような感じで、黙ったまま二人並んで歩いていきます。なんか全然恐くない。
車まで戻っても、二人ともしばらく車内には入らないで、橋と湖の方をにらみつけながらウロウロ。かなりハイテンション...なんか極限越えてホンキでオバケ退治しそうな感覚でしたね。ホントに出てくれば逃げるんだろうけど。

帰り...特に何もない。不完全燃焼気味なの二人とも同じ。なんか解せない、釈然としないんだなぁ。交わす言葉も二言三言。

「女だったね...」
「うん...うめいてたよな...」

こんな感じ。
また明日来てみようって決めてその日は終わりました。

数日後、その声の持ち主かもしれない奴の姿を見ることになるのですが・・・