先 祖 調 査
「さあ,ご先祖様を調べるぞ」 というと,どうしても焦りが出ますが、ものごとには 基本的なステップがあります。いままで長い間ご無沙汰してきたのですから, ここはあせっても仕方ありません。きちんとした手順で,段取りを踏んで進めて行くべきです。 身の回りから順に調べ、ある程度まとまったレベルになってから, それらの結果をもって外へ調べにいくというのが基本でしょう。(1)身の回りにあるものの調査をする ・ご両親やご親戚の話を聞く。 ・過去帳を見る。 (2)戸籍関係書類を調査する。 (3)寺や本家の過去帳を見せていただく。 (4)古文書,文献等の調査 ・主として,江戸時代から明治初期までの書類の調査 ・書籍,文献等の調査 といった手順だと思います。(1)身の回りにあるものの調査をする
ご先祖様のことをちょっとでも「知りたい」と思ったら,まずこれです。 身の回りの簡単に手が届くものにアクセスするだけでも,2、3代はさかのぼれます。
- ご両親やご親戚の話を聞く。
ご両親にお話を聞くと,「うちのガキもこんな歳になったか」と 喜んでくれることうけあいです。
お年寄りの方がまわりに居られる方は,お元気な間に一日も早く聞くことです。
そうして,きっちり整理することをおすすめします。
- 過去帳を見る。
お仏壇があれば,過去帳を見せてもらいましょう。 きっと多くのご先祖様が居られます。
お戒名だけではなく,俗名や没年,享年などありましたら,全て書き写させて いただきましょう。(2)戸籍関係書類を調査する。一口に戸籍関係書類の調査といっても,色々なものがあります。 かなり手間と費用がかかります。
戸籍調査には,個々には書ききれないテクニックやこつが多くありますが,まず基本的な ことを以下に紹介します。(2)-1 請求 (2)-2 解釈 (2)-3 テクニック(2)−1 請求
- ご自分の戸籍は,ご自分の本籍がある役所へ請求すれば簡単に 交付してもらえます。
戸籍には「謄本」と「抄本」がありますが,以下はすべて「謄本」です。
役所へ出向くか,遠方なら電話で問い合わせて請求して下さい。 もちろん郵便での請求もできます。代金は一通700円ぐらいで, 郵便局で「定額小為替」を発行してもらって同封します。切手はだめです。 本籍地や筆頭人,それに送付先住所氏名等を明記したメモを同封します。
請求理由も記載する必要があります。 私はいつも,「先祖調査,先祖供養」とします。
- 請求する戸籍は,未婚の方でしたらご両親のいずれかが筆頭人になったもの, 既婚の方でも,ご両親が筆頭になられた独身時代のものがよいと思います。
- 首尾よく戸籍謄本を入手できたら,じっくりとにらめっこして下さい。 ご両親やご兄弟の名前があるでしょう。
また,ご両親の父母の欄には,祖父母に当たる方が載っているはずです。 次に,その祖父母様の戸籍を請求しましょう。
- 祖父母様の戸籍は,おそらく昭和の初め,ひょっとすると大正,あるいは もう明治までさかのぼることになるかも知れません。
こういった古い戸籍の場合,その戸籍に書かれているご家族のいずれか おひとりでもご健在なら上に述べた戸籍謄本の請求と同じ方法で入手できます。
- ひとつだけ違うのは,貴方とその祖父母様の関係を示す書類の提示が必要なこと です。これは,上で入手したご両親の戸籍謄本のコピーで問題ありません。
- 請求する場所は,上の戸籍謄本のご両親の欄にある「○○市○○ 何の何兵衛 続柄」 の住所のある役所です。
・筆頭は,「何の何兵衛」にされて問題ないと思います。
・住所は,貴方の本籍地とは大きく離れているかも知れませんね。。。
- この例のように,古い戸籍を扱う上で,注意すべきことがあります。
それは,昭和20年以前の戸籍は,「筆頭人」ではなく,「戸主」を単位として 整理されているということです。字のごとく,「家の主」である家長を責任者 として,家毎に整理されているわけです。昔の家制度のあらわれですね。- たとえば,結婚して奥さんをもらっても,子供が産まれても,自分が 「戸主」となって新しい家を分家しておこさない限り,あくまでも, もとの戸主を中心とした「家」を単位で運用されていますのでお間違えなく。 昔の戸籍は,今のように結婚したら新しい籍を作るというようなものでは ありません。。
- ですから,年代的に古いものを入手する場合には,できる限り戸主名を 同時に記載することが必要です。
- 「何の何兵衛 続柄」の部分は繰り返されているかも知れません。 「○○村吉田仙庵長男吉田貞甫次男」 などとなっている場合もあるわけです。
この場合,最初の「何の何兵衛」は戸籍上の「戸主」のお名前と考えられます。 一般には,曾祖父様と思われます。
また,次の「何の何兵衛」は,この方こそ目的の祖父母様になります。 この方が,戸籍の筆頭で戸主である曾祖父様から見てどういう続柄で, その方のどういう続柄に当たるのが ご父母様かといったところが,「繰り返し」の解釈になります。
- このような戸籍は,下にも述べますがかなり大家族の戸籍であると 想像されます。ですからこのような戸籍に当たるとラッキーです。 一気に大変多くの方のことが分かります。
- つまり,昔の家制度では,戸主から見て,「隠居」したその父母や,息子夫婦, 孫まで,合計4世代が戸主を頂点としたひとつの「籍」に入っているといった ことも珍しくはないということです。今では考えられませんが,2、30人 の方がひとりの戸主のもとに,一つの戸籍にはいっているということもある ようです。
- ところで,もう大分時代がさかのぼっていますから,祖父母様のご家族の いずれもお亡くなりになっているということも起こり得ます。そうすると, その祖父母様の戸籍は「除籍」されています。それで,「戸籍謄本」の 請求ではなく,「除籍謄本」を請求することになります。
戸籍か除籍か判断できなければ,一度に両方を請求してもよいと思います。 代金や,関連を示す書類の同封をお忘れ無く。
- 祖父母様の戸籍や除籍を入手できたら,さらに曾祖父母様のものを請求して 入手しましょう。これでもう,明治まで,それも明治20年近くまで さかのぼれるはずです。
(2)−2 解釈
- 戸籍法は,明治以来何度か改正されています。
まず,明治四年に法律が制定されて,全国統一の戸籍が編纂されました。 これを一般に「明治五年式戸籍」といいます。別名「壬申(じんしん)戸籍」 ともいいます。
この明治五年式戸籍は,記載内容が現代にそぐわないため,既に完全に廃棄され, 現時点ではいっさい見ることができません。
- たとえば差し障りの少ない内容として,この時点では,まだ名字を名のる ことのできる人(家)はごく少なく,この戸籍もそれを反映した内容になって いることがあげられます。
- 次に,「明治一九年式戸籍」というのがあります。一般に,明治21年頃から 普及しはじめたようで,うまくいけば明治20年前後に作成された除籍謄本 も入手することができます。
ここまでさかのぼれれば,おそらく「ひひおじいさん」くらいまでは分かると 思います。
- さらに,大正時代に一度,それから,昭和維新の時に一度改正され,現在の フォーマットになります。
大正期の改正で,現在とほぼ同様の情報量の多い戸籍フォーマットになりますが, それ以前の明治一九年式ではよく分からないことがある場合が多いです。
たとえば,時代背景をそのまま表しているのでしょうが,「母」に関する 記載は極めて少ないものです。
- 戸籍法が改正されて戸籍の書き直しが行われると,以前の戸籍は「改正原戸籍」 (かいせいはらこせき)として保存されます。
- 昔の戸籍は,現在の住民票のようなものをかねていたようで,ごくわずかでも 住所が変わると新しい戸籍が編纂されていました。
- このような,原戸籍や少し前の戸籍(除籍)など,もらさず全て取り寄せるのが ポイントです。
ご先祖様おひとりについて,その方の人生全ての謄本をしっかり取り寄せるように しましょう。
- 除籍謄本は,除籍後80年しか保管されません。つまり,明治末に除籍された 謄本も,そろそろ廃棄される運命にあります。請求はお早めに。
除籍とは、、、そう,その戸籍に記載されている人が全員お亡くなりになった場合の 手続きのことでしたね。
- 除籍にしても原戸籍にしても,だれのものでも請求できるというものではありません。 基本的に自分から見て上の人に限られます。たとえば,おじいさんの戸籍は請求でき, それによっておじいさんのご兄弟のことが分かったとしても,そのご兄弟の戸籍 (除籍)は請求できません。
戸籍や除籍を全て取り終えしっかり整理し終わる頃には,おそらく1年近く経過している と思います。決して焦ることはありません。ここまでで整理のできたご先祖様は, すべて「ほぼ」確実にあなたが血の流れをいただいている,あなたの直接のご先祖様です。 冒頭にも申し上げましたように,長い間の無礼をわび,じっくりと対話すればいいのです。ここまでの調査のみで書き上げた家系図の例をこちらに示します。
この段階で,かなりの系図が書けます。少なくとも,ひおじいさんくらいまでは,わかること 確実です。同時に,分からないこともいっぱい出てくると思います。
数行上に,「ほぼ」確実に と,「ほぼ」の部分を強調して書きました。場合によっては, 家制度優先で,血縁がきちんと戸籍に反映されていないこともあるようです。こういったこと に気が付かれたら,きちんと整理しておきましょう。そして,次はさらに肉付けをしていきましょう。
(2)−3 テクニック
- 明治十九年式戸籍の特徴として,嫁に来られた人や養子に入られた人の実家の「母親」 の名前が分からないことが挙げられます。
これを探す方法です。母(不明) +−−本人(娘の場合や養子の場合がある) +−−−−−−−−−−−+ 父(十九年式で分かる) +−−実家の跡取りさん一般に父親の名前は戸籍から分かりますので,まずそれを請求します。その戸籍が 首尾よく入手できれば,母親の名前もたいてい分かります。
しかし,これを入手できることはまずないといってよいでしょう。古すぎます。
そこで,実家の跡取りさんの名前を調べ,父親亡きあと,お母さんがその方の 籍に入っているとして,それを調べます。
跡取りさんの名前を知る方法は簡単: 法務局で「旧土地台帳」の謄本の交付を 受けます。
- 旧土地台帳というのは,明治中期(明治22年頃)の地租改正から昭和12、3年まで 利用されていた土地所有者を登録する台帳です。今も無料で公開されています。戸籍のように, 複写の制限はありません。こちらを参照下さい。
一般に,土地は父から子へ,子から孫へと相続されますから,その土地の代々の 名義人を追えば,相続の様子,つまり,上の跡取りさんの名前も分かるという わけです。
- これが入手できれば,あとは,その跡取りさんの名前を戸主として,お母さんの 除籍(名前不明として)を請求します。もちろん,そのお母さんとのつながりは きちんと証明しておきます。
といっても,ここでできる証明は,お父さんとの関係までです。しかし,跡取り さんの戸籍には,前戸主としてお父さんの名前がありますから,これでよいで しょう。
- いうまでもありませんが,当時お土地をお持ちでないことが明らかでしたら, この方法は使えませんね。
(3)寺や本家の過去帳を見せていただくいよいよ「外に出ていく」ときです。といっても,基本に忠実に,なるべく身近な ところから調査することです。
このステップにはいると、それまでの戸籍調査とは調査の内容、方法とも一変します。
過去帳を見せてもらっても,それで調べられるものは必ずしも血縁のあるご先祖様とは 言えません。いわゆる「家」のながれの上に立ったご先祖様ということになります。
当時の時代背景について考えれば,容易に想像できることだと思いますが, たとえば,ご先祖様といっても,少なくとも直接には血をいただいていない方だったり, それどころか,まったくそのご先祖様からの血はまったく自分にはながれていない ということすら起こり得ます。
いずれにしても,あなたの「家」を一生懸命にもり立ててこられたご先祖さまです。 そういったことがわかれば,それはまたそれで,その方をスタートとした血縁なり, 家なりを追っかけていけばいいと思います。ところで,身近な資料といっても,戸籍調査でもう明治期までさかのぼれている はずですから,すでに100年前です。そんなに身近に資料が残っているはずはありません。
この年代で一番手近なものは,お寺や,ご親戚本家筋の過去帳だと思います。本家とは何かといった問題もあるでしょうが,ここでは議論しません。。。。
- 寺の過去帳は,一般に葬式を出した場合に記入されます。ですから,今の旦那寺と 異なるお寺で葬式をしてもらった場合には分からないでしょう。
また,まわりの檀家さん全てのことが一度に分かりますから,お寺さんによっては 「公開できません」といわれるところもあると思います。それはそれで仕方ありませんが, 要は気持ちです。何年,場合によっては10年計画でお寺さんにアクセスしてみて下さい。 きっと開けます。ご先祖様が,そうなるように仕向けて下さいます。
- 神道のお宮さんでも,寺の場合と同様の記録が残っていますから,アクセスできます。
- 本家の過去帳。これはわかりやすいものです。ご兄弟が一度に分かります。 俗名や続柄まで書いてある場合もあるようです。
見せていただくには,やはり礼を尽くすこと。自分で調査・整理した上の系図を持参して きちんとお話をすれば,気持ちは通ずると思います。ひょっとすると,きちっとした系図が 残っているかもしれませんね。
- このようなちょっと離れたところへアクセスするには,まず手紙できちんとご挨拶し, これまで調べてきた内容を書いて,事情を述べ,そして用件をお願いすることに なります。きちんとした紹介ルートがあればよいと思います。郷土の資料館や,図書館, あるいは教育委員会などからの紹介の言葉も添えると良いと思います。
いずれにせよ,昔のつながりをさかのぼって調べていくわけですから,礼節と根気と を持ち続ける必要があります。(4)文献等,古文書の調査これは大変です。非常に手間がかかります。
- 書籍,文献等の調査
公になっている文献で,関連しそうなものは結構あるものです。 たとえば,それぞれの町や村の歴史をひもといた書籍,○○町誌や○○町史 など。蔵書は,全国の県立図書館に多いようです。多くの場合,郷土史 として扱われます。これらの本は教育委員会で発行しているものが多く, 問い合わせれば親切に教えてくれます。
- 主として,江戸時代から明治初期までの書類の調査
まず調査すべきは,この時代の戸籍に当たるものです。 この時代は身分がしっかりしていますから,それを押さえた調査をするのが 早道です。
士分なら,各藩の公式記録「分限帳」や「士族帳」などを探しましょう。 これは,旧藩庁のあった町の教育委員会に問い合わせると糸口がつかめると 思います。無い場合も多いかわりに,しっかりとした本に編纂されて出版 されている場合もあります。
また農工商でしたら,名主や庄屋といった家に古い記録が残っているものと 思います。こういった記録は,各家で古文書として保管されていたり, あるいは蔵整理の時に捨てられたり,うまくいけば,各市町村の教育委員会で 一括保管していたりします。これらも教育委員会にアクセスすることが まず一歩目でしょう。
- 明治5年式戸籍は廃棄されていますが,多くの場合,こういった古文書は ものさえあれば閲覧可能です。要は見つけられるかどうかがポイントです。
- 日本の戸籍は,飛鳥時代に全国統一の戸籍が作られて以来,明治5年まで 「全国統一」というものはありません。少なくとも江戸時代は連邦国家 のようなものですから,その邦々によって,つまり藩によって呼び名も 違いますし,もちろんフォーマットも違います。要するに政治体系が違う わけです。。。。
- 実は最も大変なのは,古文書解読です。これは見つけられるかどうかと並ぶ, 大きな問題です。
みみずが這ったような字で,墨で書いてある文字を自由に読み下すのは 想像しただけでもかなり大変なことだというのがお分かりいただけると思います。。。
以上,色々書きましたので,私の場合の実例をお示ししてまとめに替えます。 ◆明治19年式戸籍が入手できる市町村 熊本県阿蘇郡阿蘇町 一宮町 広島県豊田郡安浦町 兵庫県神戸市 など。 多くの町は最近は電子化が進められており,80年で廃棄されるところが多いようです。 困ったことです。。。 ◆書籍 笠岡市史(岡山県笠岡市教育委員会発行) 小田郡志(天理大学図書館蔵書) 尾道市史,尾道市医師会史 岡山県郡治誌(笠岡市市史編纂室蔵書) 等々 本の検索はこちらからできます。 現在出版されている本の調査はこちらでどうぞ。 ◆古文書 広島県立文書(もんじょ)館 広島県豊田郡安浦町教育委員会,文化財保護委員会 呉市入船記念館 笠岡市教育委員会,市史編纂室 矢掛町教育委員会 高梁市教育委員会 他 ◆過去帳 広島県豊田郡安浦町 浄土宗瑞雲寺 岡山県笠岡市甲弩 真言宗神護寺 家系は,どこまででもさかのぼれます。 子孫が絶えることはあっても,先祖が居られないということは絶対にありません。 貴方の知らないご先祖様が,貴方がもつれた糸をほぐしてくれることを, きっと待っておられることでしょう。 さあ,あなたも今日からスタートです!!家系図にもどる