記憶

a memory.....

 

俺の友達でプロボクサーがいた。

高校の同級生であり同じバイト仲間でもあった。

バイトが終わってそのグループ7・8人でカラオケとか

よく行ったものだ。そんな彼とももう5年くらい会ってない

だろう・・・今でも時々彼は何してるんだろうと

思うことがある。

 

その頃、思いがけない事が起こった。

ボクサーであった彼のことを聞いたのはそのグループの

中の友達からだった。

宮崎でスパーリング中に倒れたとのこと。意識不明。重体。

大学病院で彼が意識を取り戻したのはそれから半年後の事だった。

当時、彼には付き合っている彼女がいた。

俺達もよく知っていた人だ。なにせ同じグループだからね。

手術もなんとか成功した。しかし記憶が断片的に失われていた。

意識の戻った時、彼は言葉すら失っていたのだった。

しかし見る見るうちに回復していった。医者も驚くほど・・・

意識の無かった半年間の出来事。

その彼女はすでに別の男と付き合っていた。

その男もまた俺達、彼を含めて知っている人だった。

驚いた。しかしそれは彼女の決めた事、俺達は何も言わなかった。

新しいカップルは彼のもとに見舞いに訪れた。

記憶を失っている彼は彼女の事もしらなかった。

俺達の事は思い出していたのだが・・・

記憶を失うと1番身近にいた人ほど思い出せない事が

実際にあるらしい。

俺達も複雑な気持ち。その時彼女はどういう目で

彼を見ていたのだろう。

自然とそのグループが崩れ去ったのも言うまでも無かった。

 

その後彼は退院した。

彼女の事はまったく思い出していない様だった。

現にそのカップルの前でもなんの動揺すら見せなかったからだ。

彼と1度ゆっくり話す機会が出来た。

俺と話していくうちに多少でも思い出す事があるかもしれない。

そう思いながら俺は彼と話した。

しかし彼は問いに返事することもなくいきなり泣き出した。

驚いた。

話しによると、彼は彼女の事をもっと前に思い出していたらしい。

自分の彼女が別の男と付き合っているのを知っていたのだった。

もっと驚いた。

何も言えなかったらしい・・・

 

彼の気持ちもよくわかる。

自分の意識が戻った時にはもう自分の彼女は他の男と

付き合っていた。

どうしてわかってたのに言わなかった?とは聞けなかった。