1999 Dialy
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11月22日ヨル 「流星群」

 結構好きみたいだ。岬の公園でキスした夜は、流星群だったから、確か11月18日だった。かなり嬉しいけど、こいつと付き合うの大変だろうな。俺と付き合うあいつも十分大変だけど。



11月26日ヨル 「家族」

 家族らしい環境に育たなかったのだろうか?お手伝いさんに育てられたようなことを言ってたけど、これまでの会話の中に親の影がほとんどないように思える。俺といるときだって、ふと見ると寂しそうな顔してるよね。それは今の生活の不安だけか?俺といても寂しい?複雑な事情の奴と付き合うからには、俺も腹を決めたつもりです。だから、不安に思わないで欲しいんだよ。将来あいつを家族のように思いたい。



11月28日ヨル 「はっきり言えよ」

 今日のケンカ(相変わらず一方的だけど)を謝った。初めて一晩一緒にいたのは本当に幸せだったけど、やっぱり帰らないといけないんだよな。それは分かってるから納得できる。ただ、ちゃんと言えよ。俺が不安に思うだろうことには、すぐお茶を濁そうとする。気付かってくれてるのであれば、水臭いよ。でも、何か俺らの関係に都合の悪いことを隠そうとしているのであれば、そこまでかもね。どちらにしてもその態度はダメージなんだって。



11月30日アサ 「電話」

 昨晩は電話がなかった。でも、考えてみれば毎日電話するのは大変だよな。結構頑張ってくれてるけど、電話がないとまだ不安に思う。多分、俺はこれからする電話で、電話くれなかった理由を聞いてしまうだろう。そうすると決まって「信じられないの?」と言われる。信じてはいるんだよ。けど、あまり自分のことを話さないから不安になる。そう言っても「話してるじゃん」とか何とか言われるだけだし。好きな人に自分のことを分かってもらいたいと思わない?もし思うんだったら自然と口数が増えるはずだろ。まして、電話が通じないのはおかしいじゃん。



12月1日アサ 「心配です」

 毎晩電話してきたのに、2晩続いて電話が無かった。それどころか、電源が切れているらしい。よく充電忘れるからその程度かと思ってたけど、もうずっと電源切れてるみたいだ。あいつの生活スタイルからして、こんなに長くOFFなのは考えられないよな。何かあったんだろうか?マジで心配です。晩飯食えないし、もう朝5時なのに眠れないし。こんなことだったら家の電話番号も聞いておくんだった。おまえにそんな生活させてる奴の家の電話になんてかけたくないと思ってたけど、イザというときに何もできない。ホントにうかつだった。俺の感情より、あいつの状況を考えてやるべきだった。



12月2日アサ 「嘘」

 携帯の電源が切れてから3日目。さすがに心配も限界で心当たりをあたってみた。あいつの言ってたバイト先、「そのような店員はいませんが」 通ってるはずだった大学、「そう言った学生は在籍しておりません」...嘘だったんだ。悪意を持った嘘か、それとも俺に言えないほどの生活だったか。最後に会った日、様子がおかしいことは感じていたんだよ。助手席で俺の手を取ってその指にキスしてた。運転中ふと気付くと、俺の横顔見てたよね。別れ際、珍しく見えなくなるまで車を見送ってくれたっけ。今となってはどっちでも構わないよ。俺に魅力がなくなったのか、俺には守れないと思ったのか。どちらにしても可哀想だ。本当はどんな人生を歩んできた?俺には幸せにできなかった?今どこで何してる?



12月2日ヒル 「幸福」

 あいつの幸せは何だろう。幸福の定義は人それぞれで、それは人生の価値観によるだろう。だから、人格が深くなるにつれその定義は変化して行くものだと思う。俺は大きな夢とか希望とか持ってるよ。いや、あいつに言わせたら、そういうものを持てる環境に運良く生まれたのかもしれない。あいつがいつも見せてた寂しげな顔は、遠くの光が見えなかったからだろうか。何が表で何が裏かは分からない。目の前にいながら、俺の姿が見えなかったのかもね。辛いけど心のひだは繊細にしておきたい。そして、自分を鍛えよう。誰かを幸せにしたいと思ったとき、一緒に生きていけるように。あいつに何の不安もない生活をさせてやりたい。



12月2日ヨル 「友達」

 未来に今日の日を振り返るだろうか?その時にどんな意味を見出すだろう?友達は大切な存在だと思う。人は一人じゃ生きられないなんて言い古された言葉だけど、改めて実感した。自分では押さえられない心の痛みを緩和してくれたのは友達だったからだ。それにしても、ここまで動揺させられるということは、愛とか恋とかが人間にとって重要である証拠なのかも(恋愛至上主義は嫌いだけど)。確かに幸せな時間がたくさんあったよ。恋愛沙汰でこれほど悩む自分も新鮮だったけど、これから俺らの関係がどうなろうともこの経験はプラスの力にしていきたい。



12月3日ヨル 「岐路」

 今日、電話が通じた。疲れたような声だったけど、近くに誰かいる様子だった。例の男だろうか。話ができない状況だったようで、結局明日に持ち越すことになった。自分のことを正直に話すのは基本だ。俺らは友達じゃない、恋人なんだから。例えば、普通は話せないような人生だったとしても、俺は共有したい。過去のことは、知ることができればそれでいい。ましてや責めるつもりなんて毛頭無い。これからいくらでも変えていけるじゃないか。ただ、一緒に歩いて行くには信頼が必要なんだよ。全て話してくれるだろうか?正直なところまだ好きだよ。でも、次に会う時が岐路になるだろう。あいつの態度次第では別れを言おう。



12月4日アサ 「価値観」

 昨日何度か電話で話したけど、正直言って落胆したよ。俺達はあまりに価値観が違う。多分、「特殊な世界」で生きてきたからだとは思うけど、本当に理解できない所がある。あいつにとって恋人はただ単に「いごこちのいい存在」なのか?俺は、辛いことも(もちろん楽しいことも)全てを分かち合うのが恋人だと思ってた。だとすると、俺があいつに求めるものと、あいつが俺に求めるものとは全く異質なものだ。「何でそこまで(自分のことを)言わなければいけない?」と言うけれど、その答えは簡単だよ。恋人だからだ。好きなやつの事を知りたいのは当たり前のことじゃないか。はっきりと住む世界が違うと実感した。そして、俺があいつの世界に迎合することはありえない。よくあいつが口にしていた2月。もし2月まで待ったとして、何かが変わるだろうか?
 俺はただあいつとの生活に未来が見えればいい。お互いちゃんと仕事して、太陽の下を大手を振って一緒に歩ければいいんだ。過去に何があろうと、俺との未来を考えてくれたらそれで満足なんだよ。次に会ったとき、あいつは何を話すだろうか。本当に俺とやっていきたいのか?



12月5日アサ 「決着とはじまり」

 昨夜、1週間ぶりに会った。聞きたいことは山ほどあったけど、今更聞いてどうなる。そう思ったから、この日記を持って行った。多分、あいつはこの日記を俺の「独りよがり」だと感じるだろう。それが分かれば、俺の探している人とは違うことが客観的に証明される。なんの未練もなく別れを言えるだろう。日記を読んだ後、あいつの目の表情は変わった。相変わらず悲しそうな目をしているけど、はじめてあいつの目に意志が見えた。「まだ付き合ってるでしょ?」唐突にこう言った。「いつか全部話すよ。今度、手紙書いてくる。うまく言葉が出ないからね」と続ける。そして、能動的に俺安心させようとしてくれた。俺をまだ好きでいてくれることは嬉しいけど、何も知らなかった頃みたいに手放しで喜べそうもない。今日の日を分かれ道(岐路)と位置付けていたが、そもそも俺は何と何から選択しようとしていたのか?2日前では割り切れない結論がはじき出されたように感じる。
 時間をかけてみよう。今の気持ちであれば、あいつを見守るようにゆったりと構えることができる。どちらかの気持ちが離れたとしても、友達としてあいつの幸せに協力してあげたいと思う。もちろん、恋人であり続けるならばなおさらだけど。