「賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブル事例とガイドライン」より項目抜粋 3 原状回復義務(原書48ページより) 民法の規定は、賃借人は目的物を「原状に復して之に附属せしめたる物を収 去する」権利を有すると規定しており、賃借人の権利の側面から原状回復が 定められている。しかし、これは解釈によって、賃借人は、賃借物に物を附 属させた場合には、それを取り除いて、つまり、現状の状態に戻して返還す る義務があると解されている。つまり、民法では、原状回復義務という場合、 賃借人の収去義務のことであり、賃借人に「借りた当時の状態に戻す」とい う意味での「原状回復義務」が課せられているわけではない。その意味で、 「原状回復義務」という概念は慎重に取り扱う必要がある。 なお、標準契約書では、原状回復について、借主の故意・過失による損耗 についてのみ、借主の費用負担で行なうこととし、通常の使用による損耗に ついては、借主に修繕義務も原状回復義務もないとしている。 4 特約について(原書66ページより) 賃貸借契約については、強行法規に反しないものであれば、特約を設けるこ とは契約自由の原則から認められるものであり、原状回復を超えた一定の修 繕等の義務を賃借人に負わせることも可能である。しかし、判例等において は、一定範囲の修繕を賃借人負担とする旨の特約は、単に賃貸人の修繕義務 を、免除する意味しか有しないとされており、経年変化や通常損耗に対する 修繕義務等を賃借人に負担させる特約は、賃借人に法律上、社会通念上の義 務とは別個の新たな義務を課すことになるため、次の要件を満たしていなけ れば効力を争われることに十分留意すべきである。 @ 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が 存在すること A 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負う ことについて認識していること B 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること したがって、仮に原状回復についての特約を設ける場合は、その旨を明確 に契約書面に定めた上で、賃借人の十分な認識と了解を持って契約すること が必要である。また、客観性や必要性については、家賃を周辺相場に比較し て明らかに安価に設定する代わりに、こうした義務を賃借人に課すような場 合等が考えられるが、限定的なものと解すべきである。