平成11年(ハ)第 299 号 原 告 甲A 被 告 乙B 平成11年9月27日 右原告 甲A 小田原簡易裁判所 御中 準 備 書 面 (一) 第一回期日において争点となった賃貸借契約時における業者によるハウスクリーニングを賃 借人の負担で行なう旨の特約についての仲介業者である箱根登山鉄道開発不動産部(以下、 仲介業者という)の担当者O川I郎氏による説明の有無について一、で申し述べると共に、 二、契約書に基づく敷金返還についての主張、三、被告答弁に対する抗弁、四、間接事実と それについての主張、五、求釈明を申し述べる。 一、 退去時の業者によるハウスクリーニングを賃借人が負担する特約についての契約時に おける仲介業者による説明の有無 (一) 本訴当事者間の賃貸借契約(以下、本賃貸借契約という)締結は、平成9年3月25 日、箱根登山鉄道不動産部小田原西口営業所において、仲介業者1名と原告とで行 われ、他に原告の友人1名が立ち会い、その場に居合わせた者は計3名である。 (二) その際、業者によるハウスクリーニングを原告が負担する事について、それが通常 の原状回復義務を超える義務である事や、汚損状況の如何に問わず退去時に必ず取 り行なうとの旨の説明はなかった。むしろ、仲介業者は「ハイツ93では場合によ って、業者による清掃をしない場合もあった。」と言っていた。 (三) 故に、原告は業者によるハウスクリーニングが退去時に必ず負担させられる義務で あるという認識を持ち得なかった。 建設省住宅局民間住宅課監修の「賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブル事例とガイドライ ン」(甲第七号証の4 特約について)によれば、賃借人に法律上、社会通念上の義務とは別 個の新たな義務を課す特約については以下の要件を満たしていなければその効力は不十分で あるとしている。 @ 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在する事 A賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負う事について 認識している事 B賃借人が特約による義務負担の意思表示をしている事 以上であるが、@については「家賃を明らかに相場より安価にする替わりにこうした義務 を賃借人に課す場合など、限定的なもの」とされており、本賃貸借契約はそれに該当しない。 Bについても本訴に至るまで争いとなっているので、原告に義務負担の意志表示が無いの は明白である。更にAについては、原告が業者によるハウスクリーニングを賃借人が負担 する旨の特約が通常の原状回復義務を超えた義務を負うものである事を認識したのは、本賃 貸借契約の解約の際に被告から「補修等に多大な費用がかかる為、敷金は大方戻らぬであろ う」と言われた事に不安を感じ、それ以降、原告が独自に関連団体等や書籍から調べて知り 得た事実であり、それ以前に被告または仲介業者からはそうした旨の説明を一切受けていな いので、当然、契約締結時には原告にそうした認識は全く無かった。よって、本賃貸借契約 における業者によるハウスクリーニングを賃借人の負担とする特約は、上記三項目のいずれ の要件も満たしていない為、無効であると主張する。 二、 敷金の返還義務について、本賃貸借契約の契約書に基づく主張 本賃貸借契約の契約書(乙第1号証)(以下契約書という)第2条(敷金)の条文によれば、 賃借人が本件契約上の債務を有する場合には、賃貸人は敷金の全部又は一部をその弁済に充 当する事ができる。しかし、同条文は「この金員は利息を付さず、本件建物明渡しの日より 即日以内に賃借人に返還する。」とも明記されている。 これは、賃貸人が賃借人の有した契約上の債務を敷金で充当できる一方で、明渡し完了の日 には即日以内に賃貸人は賃借人に敷金を返還しなければならない事を意味している。 つまり、賃貸人が敷金で賃借人の有する債務を充当できるのは明渡しの日までで、明渡しの 日までに当事者間の合意がなされ、その上で履行できる用件についてのみ許されるもので、 それ以外は、明渡し日に賃借人から求められれば、即日以内に当然に返還されるべきである。 更に、本賃貸借契約において、当事者間の債務の有無をめぐり紛争となった場合に、紛争解 決まで期間、賃貸人が敷金を拘束できるとの旨の取り決めは、契約書の如何なる条文、事項 としても全く記されていない。 すなわち、本訴敷金返還請求事件は上記の契約書第2条(敷金)を拠所とし、敷金返還を求 めるものであり、原告の特約上の負担義務の有無や、その他の事由を争点とすることなく、 明渡しが完了した平成11年4月30日に速やかに返還されるべきものである。 本賃貸借契約の当事者間で債務の有無をめぐる紛争が生じ、被告が原告にその費用負担を要 求したいのなら、それは被告が別途手段を講じるべき事で、被告が本訴敷金返還請求事件に おいて、特約による義務負担の有無を争点とし、明渡し完了日以降、現在に至るまで残敷金 110,000円全額の返還を拒み続けている事は、契約書条文第2条(敷金)によっても正当に 成り立つものではなく、無根拠で不当な行為であると主張する。 三、 被告答弁書に対する抗弁 被告答弁書において被告の言い分として、「建物賃貸借契約書第5条(用法厳守、善管注意 義務)によりクロスが著しく汚損され借主の損害弁償部分であるが私の方で全額負担で修理 する」とあるが、クロスの汚損は経年劣化(日焼けによる変色、糊のふきのこし等)と原告 の通常程度の煙草のヤニの複合が原因で、その汚損の要因、程度は、建設省住宅局民間住宅 課監修の「賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブル事例とガイドライン」の図表(甲第七号証) によると、[賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの]の 項目分類に全て該当しており、そもそも賃借人である原告が補修の義務を負うものではない。 また、上記要因による実際の当該クロスの汚損も「著しく汚損され」と言えるほどではない。 よって、原告によりクロスが著しく汚損され、原告の善管注意義務違反であるが、被告があ えて補修費用を全額負担するとの被告主張はこれを否認する。 四、 間接事実とそれについての主張 (一) 原告は本賃貸借契約解約の後、本訴至るまでの経過において、敷金返還の要求及び クロスの補修、ハウスクリーニングなどの原告負担義務の有無について明確な論拠 (甲第一号証、甲第二号証、甲第三号証)を持って被告に対して意見を主張し、時 にはいくつかの譲歩案も出しつつ、被告に対し信義誠実に協議する様、再三に渡り 求めたが、被告は原告の主張に対して明確な論拠による反論を示さぬだけでなく、 当事者として被告自らで紛争に対応する事すらせず、仲介業者を通して、ただひた すらに敷金全額の返還を拒み、クロス張替えとハウスクリーニングの費用の全額負 担を原告に対し要求し続けた。また、仲介業者も被告主張と意を同しており、理屈 云々よりも、とにかく改修にかかる費用の全額を原告に負担させることを目的とし て原告に対応した。被告及び仲介業者のこうした対応は契約書第12条(その他)「本 契約に定めの無い事項は、借家・民法等法令に準拠し、信義誠実に協議して処理する」 (乙第1号証)との条文趣旨に反すると主張する。 (二) 被告は原告に対して本賃貸借契約の解約の際のいくつかの場面で不用意な発言をし、 それらの言動は原告が被告に対して不安や不信を抱くに十分なものであった。また、 一時原告は紛争解決の譲歩案の一つとして原告がリフォーム費用の全額を負担する 条件としてそれらの言動に対して謝罪を求めたこともあったが、被告は受け入れな かった。(甲第六号証) (三) 再三の交渉の末、原告は自らの主張に対して、被告の明確な論拠に基づく反論も無 くただ闇雲に被告に敷金を拘束され、補修費用の全額負担を要求されても到底納得 できず、困り果てた。原告は仲介業者から、被告および仲介業者は今後も態度を変 えるつもりはないので、それでも原告が被告の要求に応じたくないなら、裁判でも 何でもしたらどうか、と言われ、やむなく原告は本訴に至った。 (四) その際、原告はそれまでの紛争の経緯を事実関係確認の為文書(甲第五号証)にま とめ、仲介業者に確認、署名を求めたが、仲介業者はその文書に書かれた事実関係 に間違いない事は認めたものの、署名は拒んだ。原告は仲介業者に署名を拒む理由 ついて説明を求めたが、明確な説明は受けていない。 五、 求釈明 (一) 被告は答弁書の紛争の要点に対する答弁において、クロスの補修を原告の負担義務 であるとしながら、被告が全額負担すると述べているが、原告の負担義務であると しながら、何故、被告が自ら負担するのか。その理由を明らかにされたい。 (二) 被告は本訴に至るまでの経緯の中において、原告が再三様々な譲歩案を出しても、 反論の論拠も明確に示さずにとにかく一歩も譲歩せず、また当事者として紛争に直 接対処する事もせず、頑としてクロス補修とハウスクリーニングの費用全額を原告 に要求し続けたのにもかかわらず、本訴に至って突如、クロス張替え費用の要求を 取りやめたのは何故か。その理由を明らかにされたい。 以上