地元生活


地元生活








17年間同じところに住んでいる。
その前に住んでいたところは記憶にない。
つまり今の住所しかもったことがないのである。

結婚してからの17年ではない。2歳からの17年である。
どういうことが起きるか。
幼稚園・小学校・中学校の同級生が、そこら中にいる。
しかも私は、不精して近所の高校・大学に通ったため、その方々が地元を通っていく。

友達ならばいい。困るのは微妙な知り合いである。
この場合、なかなかさらっと進まない。
こうして私の日々は気まずさに満ちている。


帰りの電車では、着いたとき階段の近くになるような車両を選ぶ。運良く座席に座れたとする。
ふと顔を上げるとちょうど前の席に、 そんなに仲良くないけど、知らないわけではないメグミちゃんがいたりする。
あるいは昔は仲がよかったような気がする人。
相手がギャルになっている場合は、昔の姿を知っている分、色々なことを思いついてしまう。
「フミちゃん、昔っから眉毛なかったもんなあ」
「初めてあのメイクをしたときはお母さんとけんかしたのかなあ、おばさんいい人だったのに」
「タバコの教育ビデオとか一緒に視聴覚室で見たけど、あれ意味なかったね」

そう考えながらも、表面上はあくまで気づかないふりをし続ける。
そして駅についたら、通行の邪魔にならない・しかし相手にそれとわかる位置を確保して、鞄の奥底にある定期を探すふりをする。敵の姿が見えなくなるまで。


この作業が「ふり」であることは敵も十分承知なのだ。それを敢えて、実行する。
先手をとった私に、敵も早足になってくれたり、違うルートで帰ってくれたり、寄り道してくれたりする。
こうすることで、知り合いの二人が微妙な距離を保ったまま歩きつづけなくてよくなる。

 相手が気軽に立ち止まって、電話を始めたりすると
「....アンタは全然わかってないっ.......!!」
とがっかりしてしまう。何年地元に住んでいるのかと説教してやろうかと思う。


 これは二人の息が合ってないと完成しない、いわば共同作業である。
雰囲気を読み取り、ジェスチャーでの相互理解が必要なのである。
気まずい中にも礼儀が生まれているのである。非常に生活しづらい。





ホームに戻る