Vanilla Sky

 一月だというのにとても暖かい日だった。
 小雨が降る外へ向けて、窓を開けても寒さは感じない、そんな暖かい日だった。
 つけっぱなしのテレビが、3月から4月の気温だと教えてくれる。自分はベッドの上で何をするということもなく外を見ていた。
 雨のせいか、町並みはけぶっている。空は意外なくらい明るかった。薄墨を刷いたような…そんな雰囲気ではなくて、もっとずっと白に近い色をしていた。
 テレビが雨より大きな声で知らせてくれる。濃霧が発生しています、皆様お気をつけて……
 …霧、だったんだ、これ。
 静かな気持で驚いて、少しだけ腕を伸ばしてみた。掴めるはずもなく、少しだけ腕は濡れた。甘ったるい空にバカみたいだと笑って、地上に視線を移したとき塔矢の傘が見えた。
 霧、のせいで、いつもより薄い色をしていた。
 手を振ろうかと迷った瞬間、でもどうせ気づかれないさと諦めた瞬間、塔矢が傘を傾けた。見上げる瞳と目があって、嬉しくなって、ぶんぶん大きく手を振って、投げキッスまでした。
 怒るか照れるか、しかし塔矢は苦笑してくれた。
 涙が出そうに嬉しかった。

 ぱたぱた足音を立てて塔矢を出迎えた。玄関で、突撃するように抱きつくと、子供みたいだと笑われた。笑ってくれることが嬉しくて、余計に子供じみた態度で袖を引き、寝室まで連れ込んだ。抱えていたコートを塔矢が椅子にかけることももどかしく、キスをした。
 そのまま折り重なってベッドに押し倒す。何度かキスを繰り返し、霧の味なんて分からなかった。
 いつもの何倍も優しい仕草で、塔矢が背中を撫でてくれた。頭を撫でてくれた。
 それが涙出るくらいに嬉しくて、だけど泣かずに我慢して、代わりのように、塔矢の耳元で囁いた。
 形見分けに碁盤を貰いにいくの、付き合って。

 囁いた。