ノスタルジア

 塔矢、扇子いる?
 何?
 扇子。ファンの人から貰ったんだけど、オレ使わねぇから。
 それは…キミが持っていないと失礼だろう?
 そっか。
 使えばいいじゃないか。少しは棋士らしく見える。
 うーん……だってオレ、もう持ってるし。正直者にしか見えない扇子。
 ……へぇ……
 …なんだよその白い目は…


 進藤、こういう場面で泣くのはボクに対して失礼だと思わないか?
 ………
 腕をどけろよ。隠すくらいなら初めから泣くな。
 ………
 ………
 ………
 ………ボクがいなくなってもそれくらい引きずってくれよ?
 …いなくなるなよ。
 いなくなったら追って来い。
 ……天国まで? 地獄まで? 無理だよ。お前が死んでもオレは生きるし。お前もそうだろ? 神の一手を極めるまでは、さ。
 …今のキミほど引きずりながらね。


 …碁石がそんなに珍しいか? さっきから、しげしげと。
 ん…
 ?
 囲碁っていいなと思って。目に見えるし。触れるし。
 見えないものも大事だよ。最後に勝敗を分けるのは心だったりする。
 大事だけど辛いだろ。何も残ってないように見える。
 でも残ってるならいいじゃないか。
 疑い出すと切りねぇもん。現実に何も残らないなら、オレだって結局はそうじゃん。
 ……じゃあ、千年も二千年も棋譜が伝わるような名局を残せばいい。ボクと。
 ………………そっか。