Today's Special 〜You're my sunshine〜

 俺の名前は和谷義高。青春真っ盛りただ今彼女募集中。ルックスも割りといけてるぜ。
 で、23時を回るこの時間、ファミレスの向かいの席にはどっきどき、ちょっと気になるカワイイアノコ…だったらいいんだけど。
「…進藤。俺もう帰っていいか?」
 現実はこの通り。同業ライバル逆さプリンの進藤ヒカルなんぞが、テーブルの上の携帯電話を睨みつけて早数時間。
「ええっ、んな悲しいこと言うなよっ。友達だろ!?」
 まん丸なでかい目を焦りでくりくりさせる。
「あのな。いい加減限界だっての」
「ま、ま、そう言うなっての! ほら、追加オーダーしろよ。奢る! この秋限定メニュー旨そうじゃん!」
「腹いっぱい」
 すげなくあしらう。解説しよう。本日9月20日はこのオトコの誕生日である。めでたい。昼間はみんなで祝ってやった。感謝しろ。
 で、もうすぐ日付も変わろうというのに、今なおつき合わされている理由が問題だ。
「…だって…アイツから電話もお祝いメールも来ないんだもん…」
「ダチとしてずばり言ってやる。お前そのカノジョから愛されてないんだ」
「うそだーっ」
 現実逃避しかける進藤に、テーブルにいくつも転がった(追加オーダーのたびに持ってこられた未使用の)お絞りを投げつける。
「それか、もう、お前から電話しろよっ。うっとうしい!」
 そもそもこのイケメン棋士である和谷くんに彼女がいないのに、まだまだガキなこいつに美人と噂の恋人がいることが解しがたい。きっと遊ばれてやがるのだ。かわいそうなやつ。よし。そう思えば寛容にもなる。
「今すぐ電話しろ。そんで白黒はっきりさせろ。ついでに俺にその子の写真見せろ」
「…うー…」
 まだまだガキ、だけどお仕事ではすでに富士山八合目、な進藤ヒカルは、唸りながら携帯のディスプレイを眺めている。
 なんだか微妙に涙ぐんでないか、こいつ?
「……お前なぁ…」
 ため息ため息。どんなに周りがせっついても、極秘中の極秘を通している進藤の美人な恋人。どんななんだか、一体。
「…彼女、親元暮らし?」
「え?」
「行ってくれば? 今から」
 しかしそれで、本当に遊ばれてただけと判明しても俺は責任取らん。
「…実家だけど、今両親いないってゆってた。一人」
「へぇ…」
 些細な情報さえ漏れるのは珍しい。勝手に妄想が膨らむぞっての。
「じゃあ、いいじゃん。行けば?」
「…本当に愛されてなかったらどうしよう…」
「……」
 ファミレスを出て(もちろん金はすべて進藤持ち!)、最後には背中をまじで蹴っ飛ばしてやった。進藤は前のめりにこけかけて、そのまま駆け出していった。あーあ、あれじゃ彼女んち着く頃には汗だくなんじゃねぇの。
 あんなに好きだとは知らなかった。
 数時間向かい合わせに座っていても、軌道修正するみたいに心は飛んでた。ぐーるぐる。彼女はアイツの太陽か。
 いいよなぁ、秋でもほかほかあっつあつで。
 迷彩柄のパーカーを前でかきあわせ、俺は北風さんと一緒に家路につくのでありました。
 俺の名前は和谷義高。お肌ぴちぴち花も盛りだ! ただ今彼女募集中っ!!