Today's Special 〜地上の星〜

 一週間、いや一ヶ月も前から進藤はうるさかった。
「たんじょーび、たんじょーび、たんじょーびだからなっ?! なんかくれよ、なんかっ」
 子どものようだ。そして当日、碁会所で会ったそのときから、じーっと、あの大きな目で物言いたげに。
「……誕生日だったっけ?」
「うんっ!」
 ひょこんと犬が尻尾を振る。
「そうか。じゃあ打とうか」
「……そんだけ?」
「おめでとう。僕が握るよ」
「…だからそんだけ?」
「二四六……君が先番だ」
「………。お願いします」
「お願いします」

 結果は五目半勝ちだった。進藤は前髪をかきあげて唸った。
「終盤まで黒ヨシだったのになーっ。左辺の攻防でしくじった! あーあ…。お前今日くらい俺に白星譲れよなー…」
「本気で言ってるなら怒るけど?」
「…冗談だよ…」
「それはよかった」

 市河さんに、閉店よ、と追い出されるまで何局か打った。外はもう暗くて、スモッグの向こうで星が光っていた。
「秋の星座は…カシオペヤかな…」
「見えねえよ、田舎行かなきゃな」
「…見えるよ。君は白星をくれと言ったけど、」
「…根に持つ…」
「君と打つことで僕はいつも見せているつもりだよ。……白くはないかもしれないけど」
 くすりと笑うと、こんにゃろ、と小突かれた。
 白でも黒でも他のどんな色でもなくて、君と打つことで九つの星が光ってる——

「誕生日おめでとう」
「……で、プレゼントは?」