Today's Special

「やほ。白星おめでと。お疲れさん」
「対局見てたのか? 知らなかった」
「うん途中まで。倉田さんに捕まえると長いから、ヨセの時こっち来た」
「そうか」
「うん。そんで和谷たちには先週末宴会してもらったしさ。家にはこれから帰るしー。だから、…なぁ?」
「何が?」
「ほらほら」
「何か?」
「だからぁ」
「用がないなら帰るぞ」
「だっから! 今日俺誕生日じゃーん!」
「そのようだね」
「…なんだ知ってんじゃん」
「何も用意してないよ」
「えー」
「えー、じゃない」
「何もー? 何もー? ほんとに何もー?」
「何も。本当に。絶対。正真正銘。何を好き好んで君にプレゼントなんか?」
「…・…ちぇー…」



 今日の終局後、少し膨れ面をした倉田さんに指摘された。
 やけに機嫌がいいみたいだったな。手が浮かれてた。
 勝たせて頂きましたから、とにっこり笑うと、うおーやな奴やな奴、と頭を掻きむしる。
 今日は絶対勝ちたかったんですよ。そう告げると、なんで? と丸い目をことさら丸くして見つめられた。
 そりゃぁ、今一勝落とすのは辛いだろうけどさ。お互い様じゃん。なんで? 今日?
 すると、横から緒方さんが口を挟んだ。誕生日だからだろう。
 少し焦って、あ、いえ、と訂正しようとしたけれど、倉田さんはへーぇと納得したような、していないような相槌を打った。
 いくつになったんだ塔矢ジュニア?
 するとまた緒方さんが年齢を勝手に答えて、いつのまにか倉田さんと緒方さんが会話をしている。
 仕方ないので放っておくと、他の棋士の方に、あれ、でも塔矢くんの誕生日って冬じゃなかったっけ? と突っ込まれてしまった。ほらみたことか思って、緒方さんに誤魔化してもらおうとしたら、もういない。
 …仕方がないので曖昧に微笑んでおいた。

 今日は、絶対、勝ちかったのだけど。
 なぜかと聞かれたとして、自分でもよく理由は分からないので、そう思っていたことは君にも秘密にしておく。
 とりあえず今日は9月20日だったのだ。