金メッキ

 こんなことはキミにしか言えない。
 ボクには才能がないんだよ。
 他の誰より、ボク自身が一番よく知っている。
 ……ああ、そりゃ勿論、まったくないとは言わない。多少はあるんだろうと思う。…… だから、キミ以外の誰にもこんなこと言えないんだ。
 それこそ、ふざけるなって、怒鳴られるだろう?
 でもボクが強いのは、これまでどんなに苦しくても碁を打ってきたからだ。
 ボク自身が努力して、本当に努力して……それだから、中途半端に碁を打つ人たちに妬まれる筋合いはないよ…キミと違って。
 キミと比較したとき、ボクの不才はよく分かる。
 キミは本当に……持って恵まれた人だね。
 だけどボクは、ボクの努力でキミに追いつくつもりだった。
 それくらいの自負は持っていた。
 だからキミは、他の誰とも違う、ボクにとっての高い壁だったんだ。
 ……昔、幼かったボクに父が言った。
 お前に碁の才能があるかどうかは分からない。けれど、お前は、誰よりも努力を惜しまない才能と、誰よりも碁を愛する才能を持っている。
 今なら分かることには、ボクには囲碁の才能なんてものはない。悔しいけれど、悔しいけれどボクにはない。
 だけどそれでもよかったんだ、父の言葉があったから。
 キミの隣に立てばよく分かる。キミが純金の力を持つなら、ボクはいつまでもまがい物だ。
 ——本物ではないものを、誇り高く胸に抱け。
 父が言ったことは、多分そういうことだったんだと思う。
 ……進藤?

 * * *

 努力なんて言葉が嫌いだったよ、昔。
 真剣な態度が馬鹿にされないで、それが当然の世界なんて知らなかった。
 ずっとずっと子供だった。
 あの頃と今を比較すると、オレは少し感動する。
 お前にはてんで及ばないだろうけど、初めから天と地だろうけど、オレもそれなりに努力した。お前を追おうと決めたときから。
 誰よりも碁を愛する才能…ってか。こっぱずかしい親子だよな。ったく。
 …でも、お前と似た奴をオレは知ってるよ。似てる、なんて、簡単に言っちまっていいのか分からないけどな。
 囲碁を好きで、本当に愛してて…それでついには千年過ぎたぜっていう奴。…どうだ? 負けたって思ったろ?
 …比喩?……そうかもな、何だっていいよ…とにかくそんな奴がいたんだよ。確かにいたんだ。俺しか知らなくても。
 オレに才能があるってお前が言うなら、そうなのかもな。…へへ、自慢してやろ。
 けど、さ、オレ、「本当の本物」を知ってんだよ。碁を打てる喜びとか、打てない悲しみとか、ほんとにすっげぇ本物の気持を、オレ、自分の身体で知ってるんだ。
 それと比べりゃオレなんて……ぼろぼろだよ。年季違うもん。全然届かない。
 悔しいよ…でも悔しくない。アイツには、負けても仕方ねぇなって思うんだ。碁じゃなくて、心のところで。
 あのさ、だから…お前にも。
 碁では勿論負けねぇよ。負ける気ねぇよ。でも気持では、負けてもいいや。
 勘違いすんなよ。馬鹿にしてるわけじゃない。誰にでもふらふらこんなこと思うわけじゃ絶対ないからな。
 お前の体のど真ん中に、アイツと同じ、きらきら光ってるものがあるのが分かるんだ。
 硬くて冷たくて、ものすごく強い——
 それがあんまり綺麗だから、オレ、もう両手上げて降参なんだ。
 オレのガキっぽい気持なんて、ほんと、取るに足らないものだなって思う。
 ——白星は譲れないけど…………心一つ、お前に譲るよ、塔矢。