Today's Special 〜paper craft〜

 部屋の窓から彼が紙飛行機を飛ばすのを見たことがある。その後無理矢理拾いに行かせた。
 情緒がない、と僕を責めてからかうことが最近の彼のお気に入りらしく、そのときもそう言われた。情緒より公共ルールだ。道にゴミを捨てることは感心しない。
 しかし不本意ながら認めざるをえないのだが、ベッドの上に足を投げ出し座り、窓枠にだらしなくもたれながら紙飛行機を飛ばす彼の姿は叙情的であった。
 力の抜けた体の中で、軌跡を描く腕がのびやかに直線だった。紙飛行機の鋭角がぼんやりした青空に映えていた。
 審美眼の欠落した自分に言われても嬉しかなかろうが、一枚の絵のようだと思ったのだ。


「誕生日おめでとう。何が欲しい?」
 どちらかといえばやる気なさげに進藤が言った。石を打ってから改めて、金はないけど、と付け加えた。彼の家だ。
 布石の妙とその意図に感心しつつ、そうはさせるものかと荒し込む。進藤は前髪をくしゃりとつかんだ。
「意地悪ぃ手」
「君の好きになんかさせてやるもんか」
「お互い様。これでどうだ」
 ぱち。
「甘い」
 ぱちり。
 しばし罵りあいながら打ち合った。
「で? 誕生日は」
「ああ。…別に、わざわざ君なんかに貰わなきゃいけないものなんて、何もないけれど」
「…いちいちムカツク奴だなてめぇ」
「あえて言うなら」
「あえてかよ」
「強いていうなら」
「もういいよ。強いて言うな」
「君が欲しい」
 ぱちり。
「……かな」


 進藤の家を出て、思いがけない寒さに息が染まった。コートの前を止めて姿勢を正す。
「おーい」
 振りかえると、彼が部屋の窓から身を乗り出していた。
 忘れ物でもしたかと問いかけようとした。すると進藤は、一瞬姿を隠した後、白い紙飛行機を勢いよく飛ばしたのだった。翼が空気を切る音が聞こえてきそうだった。
「また、君は道路にゴミを!」
「拾えよ!」
 なぜ僕がと思いながら、仕方なく道に落ちたそれを追い掛け拾った。
 すると谷折りの谷の向こうに、鉛筆の線が見え隠れしている。きっちりと折られた碁罫紙をひろげた。
 大きな雑な手書き文字で、そこにはこう。

 好きかも!

 なんだ、この「かも」は。呆れたものの、先ほどの自分の「かな」に対する仕返だと悟った。
 まったく腹の立つ男だと愉快に思いながら顔を上げたが、すでに窓に彼の姿はなく、ただ白いカーテンが風に揺れていた。