暦の上ではすっかり秋のようだし、実際徐々に、夏の終わりの足音が聞こえる。どっか夏らしい、空の見える場所へ行こう、と誘った。海やプールや、川の涼しい山でバーベキュー?
 どれも楽しそうだったけれど、あんまり金もないし、「打てないじゃん」の一言で却下。みんな碁バカだ。
 ということで日曜日。なぜか行き先は、伊角さんが通っていた高校の屋上。運動部の掛け声に紛れて、こっそり忍び込んだ。
「あっちー!」
 鍵の壊れた扉から、真っ青な空の下に飛び出す。高いのが嬉しくて、金属の柵すれすれのところまで行ったら、近づくだけで熱かった。握れない。
 屋上で、買出ししてきたお菓子とかおにぎりとか、ジュースとかを好き勝手に食べて、遊んで、そしてもちろん囲碁。
 日陰になる場所に腹ばいに寝転がって、頬杖をついて碁を打った。伊角さんは腰を下ろし、脚を立てた。和谷は胡坐をかいて、本田さんは扉に背を預けた。薄っぺらな碁盤は一組なので、ペア碁。
 そのうち、三人分の長考の間、傾いてきた日差しが気持ちよく、眠くなってきた。ごろんと寝返りを打つ。薄めのブルーに秋が匂う。
「いいなぁ高校」
 和谷がそう話しかけているのが聞こえた。
「そうか? 別に…変わらないだろう」
「だって女子高生とかいるわけだし」
「……。別に何も変わらないだろう」
「違うって! 大きく違うよ! もう、伊角さん分かってないなぁ」
「え、えええぇ…」
 情けなさそうに不満げに答えているのが遠くから聞こえた。目を閉じると青い。背中のアスファルトのぬくもりが熱い。そして吹き抜ける風がやけに爽やかぶって感じられた。
「いいなぁ高校」
 和谷がもう一度、夢の中で繰り返した。