塔矢の車の助手席から解放されたのは23時頃だった。家の近くまで送ってもらったので、後少しだけの徒歩。ふと見るとやけに空が明るかった。どこかから、たとえば野球場のライトが角度を変えて、上向きになってるような。たとえば砦からのサーチライトとか。そんな具合に空の一部が光っている。広い雲と、雲のない空の、境目がはっきり見えた。
 何歩か進んで、偶然屋根が途切れると分かった。半月の白い月明かりなのだった。嘘みたいだった。振り返って、背後の空を見ると暗かった。もう一度前方を見ると空は昼みたいにはっきりしていた。こんなに輝くものが夜空にあるなんて知らなかった。
 思わず携帯で写真を取って、誰かに伝えたくて仕方なくて。
 携帯電話のメモリに入ってる、ありったけの人にそれを送った。


 少し待つと、続けざまにメールが着信。いろんな人から。内容は他愛もない返事や疑問や呆れ声。たくさんの人たちの言葉を手のひらに、空を見上げながらゆっくり歩いた。

 もういくつ寝たら、十九歳。
 雨のときも夜でも、ずるいくらいに空が美しい季節だった。