社が来たんだが、君も来るか? 塔矢からそんな電話が入ったのは午後九時だった。
「…ええと?」
「家出してきたらしい。学校の友人とかでは迷惑になるからといって、なぜかうちが選ばれた」
「大阪から? 来たの?」
「そう。新幹線で」
 背後から社の声が聞こえた。
「家出とちゃうで。喧嘩派手にやらかしたから、一泊泊めてやってゆうとるだけやん」
「それを家出と言うんだ」
 明日は研究会くらいしか予定がない。塔矢の両親は不在ということなので(でなくば社が来るはずもない)、コンビニで買った夜食を手土産に遊びに行ってみた。
「おお、気ぃ利くやん進藤」
 碁盤を横にして、わいわい名人戦とかの検討をしながら、袋菓子を食い散らかした。
「明日帰るの? 手合ないなら、うち泊まってもいいんだぜ?」
「や、帰るわ」
 社はチップスターを二枚口にくわえて、一気にぼりぼり音を立てて食べた。
「なんだかんだ反抗してみても未成年は未成年やし。養ってもろてるのも事実やしなぁ」
 それから社は、短く折れてしまったポッキーを片付けた。
「はよ、自分の力で生活できるようになって、ハタチ越して、自分の足で立たんことには何言うても無駄やん。親だけやのうて。全部」
 首を傾げていると、社はコアラのマーチをざらざら口の中に流し込んで、全部たいらげてから言った。
「宇宙人はいる! って俺が言うのと、アメリカ大統領がFBIだのCIAだのと一緒に言うのとではどっち信じる?」
「…幽霊っているんだよ、って俺が言うのと、総理大臣が言うのとではどっちを信じる?」
 社は数秒沈黙して、「…お前かも、」と頭を掻いた。