「賞金は何に使いますか?」
 マイクを向けられて、倉田さんはうーんと唸った。「とりあえず、うまいもんでも食いたいなぁ」
 何だそりゃ。
 数日後に棋院で会ったので、「くーらたさん! 何か奢ってよ、賞金で!」と腕にまとわりついてみた。汗臭くてすぐに離れたけれど。
「ばーか。なんで俺の賞金お前なんかに貢ぐんだよ。進藤のばーか」
 天真爛漫にバカにされて、本気でむっとしてしまう自分もたいがい子どもなのかもしれない。
「バカって言う方がバカなんだい!」
「バカって言う方がバカだって言う奴がバカなんだよ」
 馬鹿馬鹿しさに思わず言葉に詰まり、ただ大きく頬を膨らました。指差して笑われたけれど、結局その後、ラーメン屋に連れていって貰った。
「うまい!」
「だろ? 隠れた名店だろ? この界隈じゃピカイチだよ」
 店の入り口には、倉田さんのサインが飾られていた。また無理矢理押し付けたのかもしれない。名前と一緒に、「うまい!」と書かれていた。だから、何それ。
「でもこないだのあれはなかったと思うよ、俺。賞金何に使いますかって奴」
「あー? だって腹ペコだったんだよあのとき。じゃあ進藤ならなんて答えるんだよ」
「…………………倉田さんみたいにならないようダイエット資金」
 倉田さんは、ぷんぷんという擬音を空気に書き込みたいくらいに腹を立てて、結局その日の一杯を奢ってくれなかった。