「死屍累々」。そんな呆れた声が不意に聞こえて、深く深く潜っていた夢の世界から浮上した。
「…越智じゃん」
 むくりと起き上がると、いつのまにか対局は途中のままで、和谷も伊角さんも本田さんも、傾く日差しに照らされ午睡の最中だった。忍び込んだ、高校の屋上で。
「越智、よく来れたなぁ。注意されなかった? 小学生は駄目、とか」
 和谷の体の半分が、日陰から外に出ていた。和らいだ光とはいえ、つい先日急激に日焼けしたばかりの和谷の皮膚にはいかがなものかと、日陰に(足で)運んでやった。
 越智は不機嫌に黙って、ほったらかしにされた盤面に目をやって、続く一手をぱちりと打った。
「…ああ、そう来る」
 眠る前の記憶より、盤上の展開は進んでいた。打ち返し、すっかりぬるくなったジュースを、もう構わないだろうと紙コップに移さずにボトルから直接呷った。
「なんでみんな寝れるんだ、こんなところで」
「ああ、気持ちよくなっちゃって。風涼しくていい感じだったしさ」
 誘ったときには、行かないと言っていたはずの越智だった。行動の意味が分からない、と言って。自分たちの中で、唯一今も現役の生徒である彼にとっては、学校なんてわざわざ繰り出す場所ではないはずなのだ。
「寝るなんて」
 越智は繰り返し憤っているようだった。
「どうしてそう時間を無駄にできるんだろう」
 自分たちの贅沢さを暗に非難しているようだった。彼と自分たちの間の埋めようのない時間を、自分たちは羨み、彼は歯がゆく思っていた。泣きそうなほど。
 夏が終わろうとする時間になってやっと、むくむくと和谷たちが起き上がって欠伸した。