本官が遭遇したキチ●イたち
「たち」と複数形にしてしまったが、1人にターゲットを絞る。

本官が、とある情報誌で記者をやっているころだ。

実はこの雑誌は、創刊号で本官はオープニングスタッフである。

なお、以下登場する人物名は全て仮名である。

創刊号の締切日前日、本官は既に校了し帰る態勢であった。
すると隣の高橋さんから、そっと耳打ちされた。
「ちょっと、下のロビーまで付き合ってくれない?」
本官も断る理由はないので、付き合うことにした。
深夜0時という事もあり、ロビーはひっそりとしていた。
高橋さんは
「あのさ、向かいの坂田さんね。変なんだよ。」
本官もどう変なのか尋ねてみた。
すると
★仕事をまったくしていない。
★できもしない、大ホラを吹く
★態度が異常に尊大

そういえば、本官も思い当たる節がある。
彼は、ほぼ毎日毎夜会社にいた。
本官がたまに用足しで、休日や深夜に会社にきても、彼はいた。
今までは、仕事をしているものだと思っていた。
が、高橋さんの話を聞くと、なるほど、たしかに仕事では無いのかもしれない。

高橋さんは
「だからさ、悪いけど彼の仕事を見てやってくれないか。俺は自分の事で手一杯なんだ。」
本官は
「いいけど・・でも、ボランティアはしないよ。時給3000円だね。」

高橋さんは、ほどなく坂田を連れてきた。
本官は極めて事務的口調で
「これからあなたの仕事をサポートします。但し、高橋さんから聞いていると思いますが、有料です。」
坂田は
「よろしくおねがいします。」
と、頭を下げた。

本官はまず、坂田のノートパソコンを開いた。
現在の雑誌編集は、ほとんどがOA化(これも死語だな)されており、
記事はPCから、会社のサーバーにアップロードされ、
会社のサーバーは印刷会社とオンラインで結ばれている。

本官はPCを開いて唖然とした。
×フォルダ作成方法が、まるっきりデタラメ
×ファイル名のつけかたもデタラメ
×同一の素材(写真)が混在
×素材と資料の関連付けが全くされていない
もう、これは仕事ではない。
ガキのイタズラだ。

この惨状と高橋さんの話を聞いてピンときたね。
躁病

本官は編集長に申し出た。
「坂田さんは、精神病です。これ以上仕事をさせるのは、無理です。」
編集長は、突然の出来事に、呆然としている。
「いや、それはないでしょう。」
しかし、本官は現状を訴え、編集長にかけあった。
「私の権限では、どうにもなりません。指示を出してください!」
編集長も、やっと理解してくれて
坂田の記事バックアッププロジェクトチーム
が、結成された。
チームには、ちょうど応援にきていた関西の記者と本官が任命された。

本官は、坂田を会議室に移し、隣に座りPCの写真を一枚ずつ
これは、いつどこで撮影したのか?
を、尋問した。
坂田の反応は
「え〜と、う〜ん、思い出せない」
こんな調子なので、写真の背景などから推理するしかない。

この作業を3〜4時間かけて行った。

悪いことに、躁病というのは
「自分は仕事ができるんだ!えっへん」
という症状がある。
会社も、そんなことは知らずに仕事を任せたものだから、彼の取材範囲は広い。

結局、調べてみると
◎現地で貰うべき資料をもらっていないもの多数
◎写真を撮らなければならないのに、無いものが多数
という結果になった。
このままでは、坂田のページだけ白紙という事になる。

本官は、再び編集長にかけあった。
「これから現地で、素材集めしないと間に合いません!」
編集長も、「やってくれ」と一任してくれた。
時刻は、もう朝の6時をまわっていた。
他の記者も校了を終え、手伝うことになった。

本官は、渡辺さんと組みI市へ飛んだ。

会社からは、しょっちゅう携帯で呼び出されるのだが、要領を得ていない。
本官も
「誰か司令官を決めて、組織的に命令してください!」
と、どなってしまった。

I市では、完全に素材集めはできなかった。
仕方が無い。
その部分は、アテ原(空きスペースに埋める原稿)を使うしかない。

ヘロヘロで会社に戻ったが、もう修羅場であった。
本官も一息もつけずに、原稿作成である。
あちこちで、怒声が飛び交った。
当の本人は、机に座ってじっとしていた。

締めきりを、2時間延ばしてもらい、ホントのギリギリで、全てのページを校了した。
ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!
編集・営業・記者、それぞれの垣根を越えて、創刊号を作り上げた連帯感に包まれた。

坂田以外は

「あの人、あんなことやってるよ。」
と、女性記者がつぶやいた。
坂田は、校了したのに校正をしていた。

後日、創刊の打ち上げが行われた。
もちろん、坂田は抜きだ。

編集長から
「ま、いろいろとありましたが、無事に創刊できて感謝しております。」
と挨拶され、宴会が始まった。
宴会の席で、ある女性記者から
「あの人、やっぱり精神科にかかっていたみたいだよ。」
と、耳打ちされた。

「ふーん」
こう答えるしか、ないだろ。

またさらに数日後、本官は編集長に呼び出された。
「あの時、どうして彼が精神病だとわかったのですか?」

本官は
「あっはっは、実は私は精神障害者なんで、その辺の事情はよくわかるのですよ!」

なんて、答えるわけないだろ。

無難に
「まぁ、昔同じようなケースにあいましたからねぇ」

本官は、この時悟ったね。
「もう、キチ●イに関わるのは止めよう。」

わはは

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