東京都立 井草高等学校

塾対象説明会 2006年10月24日


ファクシミリで、東京都立井草高等学校からの塾対象説明会のお知らせが届いたのを見た時、思わず「へえーっ」と声をあげてしまいました。

今まで、単位制の都立高校などから塾対象説明会の案内が送られてきたことがありましたが、全日制普通科の高校からは初めてです。そもそも都立高校といえば、テスト会社から送られてくる説明会一覧表を見ても、受験生・保護者対象の説明会すらろくに開催しないところもあるぐらいです。塾対象説明会など行わなくても、黙っていても生徒は集まってくるはず。

それも、いわゆる「底辺校」ならともかく、井草高校は「進研Vもぎ」の資料によると、男子で5教科偏差値55・換算内申点34点(通知表の4が4つで3が5つぐらい)、女子で5教科偏差値54・換算内申点37点(4が7つで3が2つぐらい)ですから、まん中よりは上の学校です。なお、これらの数値は合格可能性60パーセントラインのものですから、80パーセントラインとなると、偏差値で2〜3点は上昇するでしょう。

入試の実倍率を調べてみると、1.1倍から1.3倍ぐらいで推移しています。中学入試の倍率と比較するとずいぶん低く感じられますが、中学校の先生によって内申点で「輪切り」の進路指導をされ、受験する側も確実な合格を狙い、冒険することの少ない都立高校の入試では、ごくふつうの倍率であると言えそうです。

このように、いわば安定した人気を持つ中堅校である井草高校が、塾対象説明会を開催するというのは、ほんとうに驚きでした。

わたしの教室では、少数ですが高校入試の指導も行なっています。さっそく出席の申し込みをしました。ただ、初めての都立高校の塾対象説明会出席です。前日からそわそわし、中3の生徒たちにも「ああ、どきどきする〜」などと漏らしていました。

というのも、私立の学校では、電話問い合わせしても説明会に行っても、日大第二のような少数の例外を除き、塾関係者にはすごく丁重に応対してくださいます。ですが、わたしの思い込みとして、公立の先生は、塾に対してあまりいい印象を持ってらっしゃらないのではないかという先入観があるからです。

「俺様より先に教えやがってゴルァ!! おかげで俺様の授業を生徒が真剣に聞かないじゃないか!!」というふうに思われてるんじゃないかと・・・。いえ、もちろん、こんな乱暴な言葉遣いの先生は、実際にはいらっしゃらないとは思いますが・・・(笑)

そんなわけで、少しびくびくしつつ(笑)、西武新宿線の上井草駅で下車しました。踏み切りを渡ってすぐに左折し、住宅街の中を進みます。小雨が降り、ときどき突風が吹くという天候のためか、ほとんど人影がありません。なんだかとっても寂しい感じの町並みです。学校に到着するまでに、たった一人の人としかすれ違いませんでした。町中に、とても緑が多いのが目につきます。

道の突き当たりを右折して、大通りを左折。そしてまた突き当たりを右折すると、大きな体育館が見え、迷うことなく学校にたどりつくことができました。正門とおぼしき方向に向かおうとすると、生け垣に案内の紙が貼られており、逆戻りすることになりました。どうやら裏門のようなところから入るようです。

門につくと、私立の学校であれば、出迎え兼不審者の侵入チェックで大勢の先生や警備員さんが立ってらっしゃるところですが、本校ではどなたも立ってらっしゃいません(^^;; だまって入っていいのかな〜と、恐る恐る校内に足を踏み入れます。

入ったはいいですが、こんどは建物の入り口がまったくわかりません(^^;; 何人かの塾の先生が、同じように入り口をもとめてうろうろと歩き回ってらっしゃいます。ようやく一人の先生が入り口のドアを見つけて開いたので、わたしもその後に続きました。どうやら、入り口のドアの内側に説明会会場の案内の矢印が貼られているのに、だれかがそのドアを閉めてしまったために見えなくなってしまっていたようでした。

入ったところのホールにも、学校関係者の方は誰もいらっしゃいません。ホールの奥に事務室らしき部屋があり、ガラス越しに4人の事務員さんが仕事をしてらっしゃるのが見えます。でも、ちらりとこちらを見るものの、どなたも応対に出てらっしゃいません。現代は区役所などでもずいぶんていねいに応対されますが、昔のお役所はこんな感じだったんじゃあるまいか・・・などと思わず想像してしまいます。

ホールに置かれていた傘袋に傘を入れ、スリッパにはきかえて、矢印に従って人気のない廊下と階段を進みます。気分はすっかり、ロールプレイングゲームのダンジョンです(笑) 現在、校舎の立て替え工事が行なわれているらしく、この建物はプレハブです。まだ真新しくて、階段にもしみ一つありません。

2階に上がると、廊下の先にやっと係の先生の姿を発見してほっとしました。近づいていくと、とてもていねいに挨拶されたので、ずっと抱いていた不安が取り払われてほっとしました。会場はあまり広くない会議室のようなところでした。受付も丁重にしていただき、席についたら暖かいお茶も出してくださったので、横柄に扱われるのではないかと恐れていたことがはずかしくなりました(=^^=)

用意された座席を数えてみると、40席ほどでした。私立の学校で、高校入試も行なっているところの塾対象説明会は、広い講堂が満員になるぐらい出席者がいるところも多いです。でも、本校は初めての塾対象説明会ということで、まだPRが足りていないようです。

配付されたパンフレットや資料がぺらっぺらなのは、やはり都立高校ということで予算に厳しい制約があるのでしょう。やがて定刻になり、校長先生のお話がありました。

はじめに、本校が塾対象説明会を開催するにいたった経緯のご説明がありました。本校では年に2回の保護者対象説明会を行なっています。そこでの保護者の方たちとの会話などから、塾の先生が「学校選択に一番近いポジションにいるのではないか」という結論に達したからだそうでした。

さて、本校は都立高校の中の「重点支援校」に指定されています。この重点支援校は平成15年から始まったものです。当初、15校が指定されました。本校はその「1期生」であるため、3年間の指定のうち、今年がその最後の年になるそうでした。

本校では、重点支援に対する目標として、「国際交流」「中堅進学校としての実績を作る」の2点が挙げられました。進学実績では、従来四年生大学への現役進学率が50パーセントであったものが、3年目の最後の年である今年は57パーセントまで向上しました。

国際交流については、夏に20数名のアメリカのハイスクールの生徒を迎え入れ、ホームステイさせて授業を受けさせました。春には、反対に本校の生徒20数名がアメリカの生徒の家にホームステイしました。

急な公務が入られたとのことで、校長先生はここまでのお話で退席なさり、続いて副校長先生より、本校の沿革や学習についてのご説明がありました。

本校は昭和16年、府立第18女学校として設立されました。今年で創立65周年をむかえます。本校は都立高校の35グループに属し、昔は「勉強の大泉、スポーツの石神井、恋愛の井草」などと言われたころもあったそうです(笑)

本校の教育方針は「自主・自由・自立」です。部活動も盛んで、8割以上の生徒が部活動に参加しています。重点支援校として、生徒たちの進路実現のために、

1.さまざまな科目選択が可能なカリキュラム。

2.土曜講習…平成15年に重点支援校として指定された後、すぐに開始されました。国・数・英で志望者対象。

3.ミニ・ドリカムプラン(?)…個別の一人一人の生徒に応じた進路指導。

4.高大連携…成蹊大学と連係し、大学の授業を受講。

などが行なわれています。

カリキュラムは、高1では全員全科目共通です。高2で「ゆるやかな文理選択」となり、高3は、進路に応じた自由選択となります。講習は「他の都立より充実している」と自負してらっしゃるそうです。土曜講習11講座のほか、夏期講習がのべ33講座あります。

英検にも力を入れており、学校受験を行なっています。英検対策特別講習があり、英検の準1級、2級の面接官をしている先生もいらっしゃるとのことでした。

国際理解教育については、異文化理解のほか、英語力・コミュニケーション力の充実が図られ、英語教育に力を入れています。ワシントン州のケントリッジ高校と受け入れ・派遣両方を行なっています。派遣は私学でも行なっているところが多いですが、受け入れと「両方やっているところは少ない」そうでした。

このホームステイは非常に費用が廉価で、なんと2週間で約12万円!!しかかからないとのことでした(@@) この金額に任意の保険代、昼食代などすべて含まれます。朝食・夕食はホームステイ先が負担するので、あとはお小遣いしかかからないそうでした(@@)

「私学では3倍かかるのではないか」とのお話でしたが、ほんとにびっくりのお値段ですよ、奥さん!! あとで質疑応答の時にお話がありましたが、この低費用が実現できるのは「すべて私どもでやっているから」で、重点支援校としての予算は使っていないそうでした。したがって、重点支援校指定が外れる来年以降も、ほぼこの費用で継続するそうです。

ただし、さすがに希望者全員とはいかないようで、「厳しい選考をし、アメリカに派遣しても恥ずかしくない生徒」が選ばれるそうでした。

続いて進路指導主任の先生より、進路についてのご説明がありました。本校の進路指導の方針は「一人一人にきめ細かく」です。「この部分をかなり強化しようと考えている」そうでした。体勢として、担任の先生を進路指導部の先生4人がフォローアップするようになっています。

現在、幼児・児童教育などの教育系、看護・医療系を志望する生徒が非常に増えているため、国際交流系も合わせ、専門のスタッフが指導する体勢を目指しているそうでした。

また、1年生時より計画的にキャリア教育が行なわれています。具体的には、定期的にキャリアガイダンスが行なわれています。1学期には看護系の仕事がテーマで東大附属病院の看護士さんを、2学期には裁判官の仕事がテーマで専門科の方を招いて講演が行なわれたそうでした。

平成18年の大学進学実績ですが、早慶・上智・東京理科大の合格者が、昨年の4名から25名へと増加しました。そのうち10名は早稲田大学です。

MARCH(明治・青山・中央・立教・法政)についても、46名→60名と増加しています。重点支援校の面目躍如といったところでしょうか・・・?

続いて、教務主任の先生より入試制度についてのお話がありました。都立高校の入試制度は毎年のようにころころ変わっていて複雑怪奇です(^^;; わたしなどはついていくのも大変なのですが、本校では、合格者の9割を通常の選抜で取るものの、残りの1割については、英語に300点という極端な傾斜配点をした特別選抜が行なわれます。

国際交流教育といい、この傾斜配転といい、英語が好きな生徒にとっては、かなり魅力的な学校なのではないでしょうか・・・?

最後に質疑応答があったのち、説明会は終了しました。残念ながら校舎見学は一切なく、プレハブの建物と校門を往復しただけで終わってしまいました(/_;) それでも、帰り際に5〜6名の男女の生徒を見かけることができました。本校に制服はありませんが、女子の生徒はチェックのミニスカートの制服っぽい姿をしていました。このあたりは私服の私立の学校と似たようなものを感じました^.^

説明会が終わって、ああ、わたしは都立高校に対して、とんでもない思い違いをしていたなあ・・・と、つくづく感じました。はじめに書いたように、「都立高校は、黙っていても生徒が来てあたりまえ」「中学の先生が内申点で輪切りにするから、校風なんて関係なく、どこも同じ」と思い込んでいましたが、とんでもない間違いでした。

本校の講習の充実、相互ホームステイなどによる国際教育、進路指導など、まさに「へたな私立は真っ青」な内容です。思えば、数年前までは都立高校の凋落がありました。トップ校の応募倍率が1倍そこそこまで下がったり、東大合格者数が西や日比谷でも一桁に減少したりなどです。

さらに少子化が追い討ちをかけ、その結果、都立高校の大がかりな改革が行なわれてきました。多くの学校が統廃合の憂き目にもあっています。私立だけでなく、都立高校も、生き残りをかけた戦いをせざるをえなくなっているのです。

そのような状況の中、本校の改革は、まさに「私立なみ」と思わされました。ほんとうに私立の学校もうかうかしていられないことでしょう。都立高校第一志望のわたしの生徒たちに、今日の授業でさっそくお勧めしてみよう・・・と思わされた説明会でした。


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