2月2日 その12


 ある学校を受験しようというのだから、それなりに志望動機がはっきりとありそうなものだけど、雰囲気にあこがれるとか、名前が知られているとか、そんな理由で選んでいる子が多かった。

 塾の模擬面接で志望動機を聞かれて、「家から近いから」とか「校舎がきれいだから」としか答えられなくて、先生に頭を抱えさせている子もけっこういた。もちろん、親子でずっとある学校を目指してきていたような子たちは、きちんとした答えを用意していたけれど・・・。

 あたしは、将来の夢がはっきりしているので、それに合わせて答えようと決めていた。

「はい、わたしは動物が好きで、将来の夢は獣医さんになることです。病気になったり、けがをしたりした動物を助けるお仕事をしたいと思っています・・・」

「ほう・・・」

「獣医さんになるには、たいへんきびしい試験があって、お勉強をたくさんしなければいけないと聞いています。わたしは、本校の学習指導がすばらしく、大学進学実績がとてもいい点に魅力を感じました。また、お勉強のための施設などもたいへん充実していて、6年間しっかりとお勉強するための環境が整っていることも、すばらしいと思いました。ですので、わたしの夢の実現にむけて努力するために、とても向いている学校だと思い、本校を受験しようと思いました」

 ここまでがあらかじめ考えてきていたことだった。でも、あたしは一瞬迷ってから、さらに言葉を続けた。

「それから・・・。あの、わたしは、カトリックの人間教育とか、はじめはよくわからなかったですけれど・・・。学校説明会で・・・、それからきょうの入試でも、わたしたち受験生のためにいっしょうけんめい働いてくださっているお姉さんたちを見て、あの、うまく言えないですけど、人のために奉仕するということのほんとうの意味とか、すばらしさが、すこしですけれど、わかったような気がします・・・。わたしも、本校で教育を受け、先輩のお姉さんたちのように、喜んで人のために奉仕できる人間になりたいです・・・」

 われながらたどたどしくて、変な言い方になってしまった・・・。何だか言いたいことが半分も伝わらなかったような気がして、言わなかったほうがよかったかな・・・とか後悔する。でも、これはあたしが心からそう思った、ほんとうのことだった。

 息をつめていると、修道服の先生が大きくうなずいてくれたので、ちょっぴりだけほっとした。

「なるほど、よくわかりました・・・。それでは最後に、ありすさんは、本校のほかにいままでどの学校を受験なさいましたか? また、これからどの学校を受験なさいますか?」

 

 ああ、きのう女子学園を受験しているあたしにとっては、この質問も答えるのがとってもむずかしいものだった。

 あたしは、背中に冷や汗が流れるような感じがして、思わずひざの上の手をぎゅっとにぎりしめた。


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