2月2日 その2


 洗面をすませて食卓につくと、ジャムとマーマレードたっぷりのトーストとハムエッグ、ゆでたほうれん草とトマトサラダ、ヨーグルトにいちごのデザート、オレンジジュースと、あたしの好きなものばかりがならべられていた。

「いただきま〜す」

 ほんとうはあんまり食欲がないけれど、食べておかないと午前中の入試でおなかがへって集中できないかもしれない。あたしは半分むりやりオレンジジュースで食べ物を流し込んだ。

「あー、きょうも落ち着いてな」

 こほんとせき払いして、きょうの面接のためにわざわざ会社を休んでくれたパパが話しかけてきた。

 聖ジャンヌの保護者同伴面接は、両親のうちどちらか一方でもいいとのことだったけど、心配性のパパは、「両親そろってでないと印象が悪いかもしれない」って言い張って、入試についてきてくれることになっていた。娘のためにちょっとでも有利になりそうなことはなんでもしてやりたい・・・っていうパパのおやごころだと思う。

「うん、だいじょうぶ。東武文理も入れると、もう入試3校目だもん」

 あたしはなんとか笑顔を作った。

「そうか・・・」

 それから、パパはなにかごにょごにょと言いかけてやめた。きっと、「がんばれよ」とか「期待してるよ」とか言うと、あたしにプレッシャーをかけることになると思って、気をつかっているのだと思う。

 そんなパパのこころづかいを感じると、きのうの女子学園の入試でいい得点をとれなかった自分がなさけなくて、ぽろんと涙がこぼれそうになった。だけど、あたしはつとめて平静を装った。

 

 朝ごはんがおわると、歯をみがき、髪をとかしてママにきっちりと三つ編みに編んでもらった。鏡を見ると、あたしは髪が細いから、三つ編みも細くてなんか変なの。

 それから入試用の洋服に着替える。面接があるから、リボンつきのブラウスと白セーター、紺のブレザーとプリーツスカートに黒タイツという服装だ。ふだんはこんなおしゃれなかっこう、めったにしないから、なんとなく気が引きしまる。となりの部屋でパパがスーツに着替えていて、ネクタイを締めるしゅるしゅるという音が聞こえた。

 ことしは暖冬だそうだけど、2月の早朝だからやっぱりずいぶん寒い。ママはあたしにもこもこのダウンコートを着せて、使い捨てカイロも持たせた。パパが3人分のお弁当を持ってドアを開けると、家の中にひやっと冷たい空気が流れ込んできた。

「入試の際には、決して自家用車やタクシーは利用しないでください。万一、渋滞や事故があったときにたいへんなことになります。電車、バスなどの公共交通機関ですと、大雪などで運行が遅れて遅刻しても、学校側は配慮してくれます」

 塾の入試説明会でこう言われていたから、あたしたちはパパの車には乗らずに駅へと向かった。まだ7時前だから、通りは薄暗く、駅に向かう人影もほとんどない。あたしたち3人のはく息が白かった。


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