ツボックの修行
銀河の遥か彼方、一際明るく光る赤い惑星がある。それが、バルカン星だ。
この星の住人は、一定の年齢になると、セレア山と呼ばれる修行の地に赴き、精神修養を行なわねばならならない。
今日も、一人の男が、山頂の寺院にこもり、厳しい修行に精を出している。
「水行、火渡り、断食、全ての修行メニューをこなした」
「しかし、安心できない、最後に究極の荒行が待っている」
大僧正にに案内され、薄暗い洞窟に入る。
「良いか、ツポックよ、今日一日、ここで瞑想するのじゃ、何があっても決して外に出てはならんぞよ」
な〜んだ、簡単な事じゃないか、なにが究極の荒行だ、バカバカしい。
「では、健闘を祈る」 一言い残し、大僧正は出て行った。
薄暗い洞窟の中、固く目を閉じ一人瞑想に没頭する。
しばらくすると、洞窟の外から、なにやら声が聞こえて釆た。
「きんぎょ〜え、きんぎょ」何だ、金魚屋か、子供じゃあるまいし、そんな物どうでもいいわ。
更にしばらくすると、今度は、別の声。
「海田電器、特別感謝セール!今から、話題の水晶イナズマテレビの特別販売を開始しま−す、一台980円、限定数10、早い者勝ちだよ−!」
「なにゅ〜!今月、発売されたばかりの水晶イナズマテレビが、たったの980円だと!」
グッ、少し腰が持ち上がった。
「いかん、いかん、こんな事では、煩悩を断ち切るのだ、瞑想、瞑想」
更に更にしばらくすると、うら若い乙女の声が聞こえてきた。
「ウッフ〜ン、アッハ〜ン」
「な、なんじゃこれは!」
しかし、冷静になって考えてみれば、このような山奥で、乙女が淫らな事をし ている訳がない、大僧正の策略に決まっている。
どうせ、安物のポルノビデオでも流しているのだろう、誰が騙されるか、フン!
更に更に更にしばらくすると、今度は若い男たちの話し声が聞こえて来た。
「おい、見ろよ、これ、すげ−だろ」
「オー! すげ−」
「ここから300万光年離れた地球という惑星から亜空間転送で取り寄せたプレーボーイという本だぜ」
「見てみろ、このにょたいらたいの生き仏を」
なぬ〜! にょたいらたいの生き仏だと!
薄目を開けて外を見る。
若者二人はよだれを垂らしながら、プレイボーイに拝んでいた。
クウ〜ツ、もう我慢できん!
「俺にも拝ませてくれ−! にょたいらたいを〜!」
もう瞑想なんかどうでもいい、拝むのだ、にょたいらたいを!
一目さんに洞窟から飛び出すツボック。
その時、若者がこちらを見る、そして、顎に手を掛けたかと思うと、顔面の皮膚をペリベリ引き剥がした。
「あ! あなたは大僧正様」
「バ力め、簡単に騙されるとは、煩悩を断ち切れん、お前のような奴は、地球へ星流しじゃ、煩悩だらけの地球で修行をしてこい!」
「え〜!そんな、うれぴ−!」
と、いう訳でツポックは地球に釆たのでした。
おしまい
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