飲茶の日常
笑法より抜粋
第9条1項
話し手(法人を含む)の用いる、意思疎通の円滑化の用に供する単語若しくは語句若しくは文章(以下オヤジギャグと言う(これらが本来的に持つ意味以外の意味を含まないもの、並びに本項各号に掲げる事項に該当するものを除く))に対し、当該オヤジギャグを書面又は口述によって享受した他人(法人を除く)により、その享受の時から遅滞なく、故意又は過失により何らの反応も示されなかった時は、話し手は自らの未熟を反省することができる。
一.公序良俗を害するおそれがあるもの。
二.条約に違反するもの。
三.その他、地方自治体が不適当であると認めるもの。
第104条
第9条1項各号に該当するオヤジギャグを用いた者は、10万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
09年1月11日
380円。
人はこんなにも安価に幸せを手に入れる事が出来る。
そしてその幸せの行方は、たった一人のおばちゃんに掌握されている。
その一つ一つの挙動が、俺の心を揺さぶる。
1.揚げたカツを四つ切りにする。大きすぎても小さすぎてもよくない。
そうだ、勢いよくさっくりと切るんだ。
あまりゆっくりだと肉汁が溢れてしまいかねない。
リズミカルに踊る包丁と共に、空腹で列をなす俺たちの胸も踊る。
2.カツ丼専用の鍋(?)に具材を入れ、IHクッキングヒーターで加熱する。
俺は決してカツそれ自体がすきだという訳ではない。
カツだけを食べたいなら、トンカツあんかけうどん(300円)もなかなかのボリュームで美味い。
なぜ人はカツ丼に魅せられるのか。
食堂では、大量のお客をさばくために、あらかじめ大量にカツが揚げられている。
昼休みは12時から。
ピークを迎えるのは12時15分。大体11時30分にカツは満を持して揚げ置かれる。
つまりお昼時にはすでに、カツは冷めているのだ。
前述のトンカツあんかけうどん然り、カツ丼の他にも、カツを使った料理は存在する。
しかし、それらはいずれもカツの上からカレーや、あんをかけるにとどまる。
これでは冷めてしまったカツは冷めたまま俺たちの口に運ばれてしまうことになる。
が、しかしだ。
カツ丼だけは、カツが秘伝のタレという温泉につかって、あたたまった状態になって俺たちのもとにやってくるのだ。
ここで考えていただきたい。
温泉に入るとき、湯量が少なかったらどうだ。
小さいころ、母さんに言われた。「肩までつかってあたたまりなさい」と。
カツにも肩までつかるだけの湯量が必要だ。
おばちゃんが、秘伝のタレを入れる。
お玉に1杯と半分と決まっているこの量。
ときたま少ない時がある。
物理的に考えてみる。
秘伝のたれの比熱をCとする。1モルの常温の秘伝のたれを約100℃まで加熱するためには、常温を20℃とすると80C(J)の熱量が必要だ。
おばちゃんが適当だったりケチったりした日には、0.8モルくらいになってしまうこともしばしば。
単純計算で、沸騰に必要な熱量は64C(J)まで減少する。
カツが秘伝のタレという温泉に浸かれる時間が単純に考えても4/5倍に減ってしまうのだ。
ここで注目すべきが、単に加熱時間が減るということだけではなく、湯量も少なくなるということ。
半身浴なのに、普通の入浴のときよりも早く風呂から上がるという状況を考えていただきたい。
これではカツが湯冷めしてしまう。
冷えたカツでは俺達の心を冷ます。
昼からの授業を乗り切るだけのパワーをエンジョイできない。
あたたかいカツを食べる為には、タレを入れるオバチャンを厳しく監視することが必要だ。
3.沸騰した頃を見計らい、とき卵を入れる。
卵は、大きめのおたまにたっぷり1杯。
多ければ多い程よいとも限らない。
秘伝のタレとの量関係が重要になってくる。
i)秘伝のタレ>>卵の場合
秘伝のたれが多すぎると、卵がその分を吸収仕切れず、汁気の多いしゃぼしゃぼしたカツ丼に仕上がってしまう。
これでは台無しだ。
ii)秘伝のタレ<<卵の場合
卵が多すぎると、卵が全ての秘伝のたれを吸収してしまい、だし巻き卵状態になってしまう。
この状態になってしまうと、ご飯にのせる段階で、具とご飯が喧嘩をしてしまう。
つまり、ご飯がぱさぱさのままの、味気ないカツ丼になってしまう。
場合i)の方が、まだ味がする分ましといったものだが、
まぁたいたいこの分量は目で見れる分、失敗は少ない。
4.ふたをしてタイミングを見計らう。
真っ昼間の忙しいおばちゃんは4つのIHヒーターを操る必要がある。
おばちゃんの頭の中のユビキタスはまだそんなに進化していない。
タンパク質の個化の時間を忘れ、次の人の親子丼などに取りかかってしまうことがしばしばある。
その時は枕を濡らす意外に道はない。
間違いなく場合ii)に陥る。
5分ほど放置されてしまった無惨なカツ丼を手渡された戦友は、いつも遠い目をしている。
並んでいる順番にカツ丼を受け取るのが暗黙のルール。
無惨なカツ丼の順番に当たっても、文句を言わずに涙を呑むのが常だ。
そんな俺達をあざ笑うかのように、貼られた壁紙がある。
「たまご、硬めにできます。」
だれも硬めを望まない。
ほどよくご飯と絡まり合う程度の硬さで十分なのだ。
しかし、以上の行程を見事に完璧にクリアした黄金のカツ丼を手にした時は、なんも言えねぇ。
「はい、カツ丼の方〜♪」
オバチャンの完成の言葉の語尾もやや誇らしげだ。
栄光への道は決して楽ではない。
ハラハラドキドキの連続。
しかしその苦難を乗り越えた時のカツ丼が口に滑り込んだ時
それはもう筆舌に尽くしがたい美味で、舌鼓は16ヒ゛ートだ。
そして俺は
明日もカツ丼を頼む。
11月7日
オバマ当選。
相手、負けインだもんね。
9月22日
麻生太郎君351票。
あ、そう。