香美市の鳥獣被害の現状


(生息区域と被害の現状)


香美市においては、近年、ニホンジカの生息範囲が急に拡大し、被害が増大している。また、ニホンジカに加えてニホンザルの被害も増加の一途を辿っている。これらに反して、ニホンジカの増加の影響でイノシシの生息頭数、被害共に減少に向かっている状況である。


1.ニホンジカ


ニホンジカ(以下「シカ」という。)は市内全域で生息が確認されている。平成10年頃から旧物部村内で植林被害が顕著に表れ始め、次第に農作物への被害が広がった。被害が広がり始めたきっかけは、平成5年に発生した大規模な山林火災がきっかけと言われている。鎮火後、山林火災跡地に新規植栽が行われたが、この植栽木がシカの格好の餌となってしまい、シカの生活環境に劇的な変化を及ぼしたものと考えられる。平成19年度に高知県が行った調査では、香美市内に4,596頭のシカが生息しているものと推定される(香美市の森林面積469k㎡、香美市1k㎡あたりの推定生息頭数9.8頭、469×9.8≒4,596頭)。生息区域は物部町が中心であるが、香美市の市街地を除く部分で生息が確認されている。物部町においては特に国指定剣山山系鳥獣保護区周辺の久保、別府、市宇を中心に生息していたが、平成14年頃から中心部の大栃でも確認されるようになり、平成16年までには町内全域で生息していることが確認された。平成21年現在もその状態に変わりはない。香北町においては平成18年頃から、農作物被害、森林被害が顕著になり始め、平成20年頃には物部町より流入したと考えられる多くの個体が西川、根須、猪野々、大井平、永野を中心に広がった。平成21年現在、中心地の美良布以外で生息している。土佐山田町においては、平成15年頃から繁藤で確認されていたが、平成19年頃から新改、片地、佐岡、逆川で被害が出始め、平成21年現在、市街地から車で数分といった範囲でも生息が確認されている。被害に遭う農作物はユズが中心である。夏場は剥皮被害、冬場は葉を食べられる被害が特に多い。夏場に剥皮をされると、ユズの生育が大きく阻害されるため、木を切らざるを得ない状態である。冬場の葉の被害も、その後の実の成り方に大きく影響するため、農家にとっては大打撃である。その他、稲の葉、野菜等の被害が多くなっており、時には農家の家庭菜園にも侵入されている。野菜においては、これまでは葉への食害が中心であったが、実を食べるという事例が多発しており、個体数増加による食性の変化が懸念されている。森林被害としては、スギ、ヒノキを中心とする造林地での剥皮被害が特に多い。被害に遭う木はほとんどが間伐適齢期の8〜10齢級が中心であり、40〜50年、手塩にかけて育ててきた木が一夜にして、出荷不可能になってしまうという事例が後を絶たない。幼齢木への食害も後を絶たない。特にヒノキを中心に剥皮と若芽の食害を受け、生育不能になっている事例が多くなっている。また、ヤマザクラ等の森林作物への被害も広がっている。


2.イノシシ


イノシシは市内全域で従来から生息が確認されていた。イノシシに関しては、頭数を推測することが非常に難しいが、狩猟期間における捕獲頭数から勘案すると概して安定した生息区域を保っているものと推測される。しかし、平成16年頃から異変が起きていることは確かである。平成16年度に、旧3町村で被害が多発し、捕獲頭数が例年を大きく上回り、狩猟期間においても捕獲頭数が増加した。この影響が出たためか、平成19年頃から被害件数、目撃情報が次第に少なくなり始めている。研究機関からの情報では、シカが増加した場合、イノシシの生息範囲を駆逐し、頭数が少なくなるという事例が数件発生しており、平成16年度の大量捕獲とシカの増加が一気に生息頭数の減少へと結びついていったのではないかと考えられる。このように頭数が減少しているイノシシであるが、農作物への被害は多発している。イノシシによる被害については、4〜6月のタケノコ、8〜10月の水稲が特に多い。水稲の場合、稲穂が実り始める頃に食害が発生している。また、水田をぬた場として使用することが多い。ぬた場となった水田で収穫された米は、味も品質も落ちてしまい、出荷することはおろか、食することができなくなってしまう。また、イノシシは木の根や、ミミズを好む傾向にあるため、田畑に大きな穴を掘られる被害もある。穴を掘られた田畑では、雨が降った際に浸水被害が起こる等、甚大な被害を被ってしまう。人家周辺の石垣を落とすという被害も顕著であり、生活基盤全体に被害を及ぼしている状態である。


3.ニホンザル


ニホンザル(以下「サル」という。)は物部町全体、香北町の一部で生息が確認されている。サルは10〜50頭ほどの群れで生活しており、聞き取り調査などでは6グループほどが生息しているものと推定されている。サルによる被害は平成15年頃までは、特に目立たなかったが、平成16年以降に見られ始めた。群れで被害を及ぼすため、その被害は甚大であり、田畑一面がほんの数十分で全滅したという事例がある。被害作物は果樹、野菜、穀物類が特に多い。穀物類では、夏場のトウモロコシへの被害が顕著である。サルはシカ、イノシシと異なり、両手を使うため、食べるだけではなく、巣へと持って帰られてしまう。果樹、野菜も同様でスイカ、ダイコンなどが全てむしり取られるという事例が起こっている。


4.ハクビシン


ハクビシンは市街地、山間地を問わず、広く生息している。毎年、平均的に被害が発生し、平成16年頃までは狩猟期間も含めて捕獲がされていたが、平成17年にSARSが流行した関係で捕獲数が徐々に減少し、平成19年度から被害が急増した。被害作物は果樹が中心である。特に香北町でのカリカリモモ、市内全域でのナシ、スイカ、メロンの被害が多い。食欲が旺盛であるためか、数頭で来た場合でも、園地全体に被害を及ぼしている。


5.ノウサギ


ノウサギは森林を中心に被害が広がっている。森林周辺では、シカ被害対策の防護柵が張られている場合が多いが、それをくぐり抜けて侵入し、若芽を囓られるという被害が特に多い。また、ユズの新規植栽分についても囓られる被害が多い。シカほどの被害は起こっていないが、農林家にとっては頭が痛い状態が続いている。ノウサギについては、捕食者であるキツネとの関係で偶数年に生息数が多くなる傾向にある。生息数に比例して、被害件数も増加するという状態である。


(対策としての捕獲)


1.ニホンジカ


旧物部村においては積極的な捕獲作業を行い、県内でも有数の捕獲数を挙げてきた。平成20年度からは市の捕獲制度の変更により、4〜10月まで狩猟者が捕獲を行えるようになった。このため、20年度は1,129頭(有害鳥獣捕獲)、434頭(狩猟期間)、合計1,563頭のシカが捕獲された。平成18年度、19年度の数字と比べると、目覚ましい成果が挙げられたことになる。また、平成20年12月から平成21年3月にかけて、国指定剣山山系鳥獣保護区で6度捕獲作業を行い、オス4頭、メス31頭、計35頭を捕獲した。捕獲する際には大半の捕獲班が猟犬を使用している。特に物部地区ではその捕獲範囲内に数頭の犬を放し、20〜30人で追い込む猟が盛んである。この猟法でいくと、1日で10〜20頭捕獲できることもざらである。物部町においては、昔から狩猟の伝統があるが、香北町、土佐山田町ではあまりその伝統がなく、捕獲参加者、捕獲頭数にはかなりの差がある。


2.イノシシ


イノシシの捕獲頭数は平成10年代後半は100〜200頭の捕獲がされていた。しかし、平成19年頃からの頭数の大幅な減少により、市内では捕獲を制限し、被害防止対策等を講じて様子を見るというスタンスで対応している。一時期、捕獲檻を使って、親子共々まとめて捕獲するという方法が執られていたが、個体数減少につながる可能性が大きいため、狩猟者間ではウリボウ(子イノシシ)の扱いには十分配慮するよう、申し合わせが為されている。銃器での捕獲は猟犬で追い込むことが多い。しかし、夏から秋にかけての水田での被害は、犬を放しても、すぐに疲れてしまうためなかなか効果が上がらない。むしろ、わなで獲ることが多いようである。狩猟期間においては、有害鳥獣捕獲期間と異なり、肉が良質であるということも反映してか、概して捕獲頭数は一定の数を保ってきているようである。


3.ニホンザル


サルは非狩猟鳥獣であるため、市からの許可無くして捕獲をすることは出来ない。平成20年度からの捕獲制度の変更により、サルの捕獲は1年中行うことが出来るようになっている。サルは木などに登ることが出来るため、シカ、イノシシと異なり、猟犬を使っての捕獲を行うことはほぼ不可能である。平成20年度は44頭の捕獲が為されたが、大半がシカ捕獲中に偶然出くわしたということで、捕獲できたという事例が大半であった。また、捕獲檻での捕獲が数件あった。隣の徳島県那賀町では、捕獲檻を用いて年間数十頭の捕獲に成功しており、市内でも檻にシフトする傾向がある。なお、サルについては狩猟者が捕獲を嫌がる傾向にあるが、年々捕獲頭数が増えていることから鑑みると、被害を及ぼす鳥獣として割り切って捕獲する狩猟者が増えているということが推測される。


4.ハクビシン


ハクビシンは銃器で捕獲することはかなり困難である。よって、箱わなが有効に活用されている。香美市では平成20年度から、箱わなをレンタルする事業が始まり、平成21年現在で数頭が捕獲されている。平成21年度から予察捕獲対象種に指定されたことで、市内では積極的な捕獲が行われており、今後の頭数の軽減が期待されている。


5.補足


平成21年現在で、香美市内の狩猟者は270人となっている。しかし、その平均年齢は64歳であり、高齢化が進んでいる。特に50歳以上の狩猟者が全体の9割以上であり、20代に至っては2名しかいない状態である。市ではその対策として、平成20年度より狩猟免許試験予備講習会を開催するなどして、狩猟者の確保に努めているが、新規免許取得者より、免許返納者が上回る、いわゆる自然減が毎年進行している状態である。

(被害防止対策の現状)


これまで、香美市内では捕獲の方が盛んであり、被害対策はあまり行われてこなかった。しかし、狩猟者の減少に伴い、被害が起こったとしてもすぐに対応できる状態ではなくなっている。そこで、近年では、大規模に園地周辺にネット等を張り巡らし、被害対策を講じる農林家が急拡大している。しかし、課題として数戸の農家が共同で柵を設置するという事例が年間数件であることが挙げられる。一戸単位で設置すると、どうしても別の園地に被害が及んでしまい、集落全体で考えるとむしろ逆効果になってしまう。国、県の補助制度は最低でも3戸以上の連担が必要であり、今後、集落規模での設置を促進していく必要があるものと考えられる。


1.ニホンジカ


ニホンジカ対策として平成18年頃までは、ナイロン製のネット牧柵が主流であったが、平成19年に押谷、小浜においてナイロンにステンレスを巻き込んだネットが約8,000m設置されたことにより、これが急速に拡大し、平成21年までに約10,000mの同種のネットが設置されている。ネットの高さは概ね2mが中心であり、シカが容易に飛び越えることは出来ない。しかし、ネットの下部から潜りこまれることが一部のネットで起こっている。そこで、最近ではネット下部にスカートネットを追加し、被害を出来る限り防除しようという動きが出始めている。電気牧柵は、ニホンジカ対策の場合、5〜6段張りにしなければ被害を防ぐことはできない。市内ではコストがかかるという事で、ニホンジカ対策に電気牧柵を使用することはほぼ皆無である。


2.イノシシ


イノシシ対策には電気牧柵が最も有効であると言われている。イノシシは鼻で障害物を探る性質があり、鼻が電線に触れると、電気ショックを受けるため、その柵の周辺には近寄らなくなるというのが定説である。しかし、アスファルトやコンクリート沿いに設置すると、電気が伝わりにくくなってしまう。市内では圃場整備等を行った集落においてもイノシシによる被害が発生しており、概して道沿いに電線を設置している。そこで、道から約1m内側に入った部分への設置を促しているところである。全国的に広がりを見せている忍び返し柵は、現在のところ市内では導入されていない。しかし、マスコミによる報道等で、その効果は折り紙付きであるため、今後の設置についても十分期待できるものと考えられる。


3.ニホンザル


ニホンザル対策として市では県内最初の事例として、平成19年1月に物部町山崎(則友)に奈良県で開発された猿害防止柵「猿落くん」を設置した。高さ約2m、延長は約80mである。則友では、サルによる被害が慢性化しており、集落周辺での作物の栽培ができない状態が続いていた。設置後は、平成19年9月に一度侵入を許したものの、その後に改良を行った結果、平成21年8月現在、柵内には全く侵入を許していない状態である。集落での聞き取りによると、サルの群れをあまり見かけなくなったという答えが出始めており、ある一定の成果はあったものと考えられる。市では平成20年からロケット花火を撃ち込む道具「ひとしくん」を徐々に導入し、サルを見かけた場合にはすぐに花火を撃ち込むよう指導している。しかし県外では、火事になった事例が1、2件あるため、十分注意して使用することが肝要である。

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