「古墳日誌」第七号




淡々と続きます。
このころの僕は何をやっていたのだろうか。
記録によると結構暇人で、古墳近辺をうろうろしてたみたいだ。


6月13日(日)晴れ

安田記念に行った。
圧倒的人気のグラスワンダーにエアジハードが鼻差勝った。

帰りに古墳に行って、芝生のところでベンチに座ってぼんやりしていた。
菖蒲だかの青紫の花が満開だった。
菖蒲の花はあまり好きではないので特にどうとも思わなかった。

芝生の上を人々がのんびりと散歩している。
僕は、そんな風景に見飽きると時々丸墓山古墳に目を移した。
この季節は黄昏が長い。
とても静かな時間がゆっくりと進む。
僕はぼんやりとそんな時の中にじっと身を委ねていた。

古墳のそばの田んぼの中にはホウネンエビが大量発生していた。
水田に流れ込む用水の流れに、無数のホウネンエビがのんびりと身を任せていた。
特に何がやりたいのでもなく、ただ意味もなく水の流れにみんなして集まって、
みんなで意味もなくその流れに身を委ねている。
遊んでいるように見えないわけではないけれど、やはり特に意味のない行動のように思えた。

けれどももし巨大な人が地球を顕微鏡で覗いてみたとしても、
彼が見る人間達の行動は彼には理解できないものに違いないので、
一方的に僕がホウネンエビの行動が無意味だと決め付けるわけにはいかなかった。

この田んぼの中は、多くの人にとっては世界の果てよりも遠い世界のようなもので、
そこには無数の、少なくとも島根県の人口よりは多いと思われる数のホウネンエビたちが、
意味も無く(少なくとも僕にとってはそう思えるというだけなのだが)水と戯れている。

世界はそんなに捨てたものじゃないって思えるのはこんなときだ。
初夏の夕暮れ。
耳を澄ますと世界のあちこちで僕の知る由も無い生物達が意味も無く
ごそごそ蠢くのが聞こえてきそうだった。

宵闇の刈り取られたばかりの麦畑の中で猫がにゃあにゃあ鳴いていた。
僕が近寄ると逃げてしまった。
まあ、僕が近寄ると逃げるのは何も猫だけではないのであまりがっかりはしなかったけれど。

少し行くと民家の裏の林の暗がりがあり、なし畑があり、やがて水田地帯に出た。
農家のおばさんが暮れゆく空を背景に、田んぼのあぜ道を、ゆっくりと自転車を漕いでゆく。


6月17日(木)雨

友人の車で古墳に行った。
と、記録にあるだけなので詳しいことは分かりません。


6月20日(日)晴れ

良く晴れたがそんなに暑くはなかった。
夕方古墳に行った。
さきたま緑道からさきたま古墳公園に入る入り口のところにある
奥の山古墳に差し掛かったところで今年初めてのニイニイゼミの鳴き声を聞いた。
例年より少し早めだと思った。
西に傾いた日の光はそれでも衰えずに、 林の木の葉を照らすその色彩はもうすっかり夏のものだった。

芝生の上で若い人たちがフリスビーをしていた。
僕だって若くないわけではないけれど、自転車を漕いで古墳に行ってたそがれるよりは
芝生の上でフリスビーをやる方が若々しい行動だと思う。

丸墓山古墳に登ってカフェオレを飲み、タバコを吸いながら明るい夏の夕空を眺めた。


6月21日(月)少し雲の多い晴れ

ゼミの発表の勉強をしてから、夕方古墳に行った。
丸墓山古墳に登った。

ほとんど徹夜でレジュメを仕上げた。


6月24日(木)曇り後少し雨

この日も記録には「古墳に行った」との記録のみで、
古墳で何を感じたとか考えたとかいった記載は無い。
とにかく古墳に入ったみたいだ。
この日の記録には訳のわからない記載がある。
カエルの無性卵についての記載である。


6月26日(土)曇り

古墳に向かう緑道で道に横たわっていた大きなシマヘビを、
木の枝か何かだろうと思って誤って轢いてしまった。
僕は巳年生まれなので、蛇を殺してしまったことについて、
同類を轢いてしまったみたいで心が痛んだ。
しばらく行くと木の股でマムシが寝ていたので木の枝で叩き落して捕獲した。
片手にマムシを持って自転車を漕いでいると、
道行く人が予想外に驚くので 警察にでも通報されたらことだと思いやむなくマムシを逃がすことにした。

丸墓山古墳の上でタバコを吸ってから、
さきたま古墳公園の北東端にある東屋で持参したドラムの練習用のパッドを叩いて練習した。


今回はこれまで。