「古墳日誌」第四号




古墳日誌の第四回目です。 この年の僕は競馬場に毎週通っていたこと以外に特筆すべき活動はしていない。 暇なときには自宅でドラムの練習用のパッドをたたいたり、 読書をして過ごしていた。

印象的な出来事としては、しし座の流星群の日の早朝に、 僕が家の前の公園にシュラフに包まって星を眺めていたら、 若い女の子が懐中電灯を照らしながらやってきた。

お嬢さんは公園の小道に横たわる物体に気が付き、 「誰かいるの?」と囁くような声で聞いた。 僕は、たとえしし座流星群の日であるとはいえ、 こんなところでこんな格好をして横たわっているのは異常であると考えたので 寝たふりをすることにした。 するとお嬢さんは懐中電灯で僕を照らして執拗に検分し始めたので、 僕はこのまま知らないふりをやりとおすのも何かと思ったので、 できるだけソフトに、 できる限りの紳士的なやさしさのこもった口調で 「わぁ!ビックリした」と少しわざとらしい間の抜けた声で言ってみると、 お嬢さんは「キャー!ごめんなさ—い」と言って走って逃げていってしまった。 彼女の履いていた履物のたてるパタパタという音がずいぶん遠くまでいき、 やがて夜明け前の冷たい闇の中に消えていった。 僕は少し悪いことをしたとは思ったが、 こういった状況のときにいかなる行動を取るのが適切なのかはいまだに良く分からない。
一体どのようにしたらお嬢さんと一緒に公園の小道に寝転んで、 流星を眺めながら
「今の。見ましたか?きれいですね。 まああなたほど美しくはないですけれどね。イヒヒ」
「まあ!」
といった会話ができたのだろうか?

それでは、日誌の続きです。


1998年9月7日(月)

昼頃に東京外語大学の友人3人と、 「仙道」という店で郷土料理のフライを食べてから車で古墳に行く。

フライは埼玉県の行田近辺の郷土料理といったような奇妙な食い物だ。 見た目はお好み焼きに似ている。 けれどもお好み焼きとは違ってキャベツとか卵とかは入っていない。 焼きそばとセットになって売っていて、 大抵の人は「焼きそば中とフライの小」といったように焼きそばとフライをいっしょに注文する。 なぜフライが焼きそばとセットになって売られているのかは不明だ。 とにかくそういうものらしいのである。

フライのことの起こりは比較的新しいものらしい。 行田市は足袋の産地として知られ、 足袋の女工さんがおやつ代わりに小麦粉を水で溶いて焼いたのが元になっている。

友人を古墳に案内して、 稲荷山古墳や丸墓山古墳について軽く解説をすると「凄い」といわれた。 昼間に丸墓山古墳に登るのは久しぶりだった。


9月19日(土)

「古墳まで走る。往復1時間半かかった。桜の木の葉がずいぶん落ちていた。」 とこの日の記録にかかれている。 桜の木の葉は他の木の葉と比べてずいぶん早く散ってしまう。 そのことに気が付いたのがこの頃だったので、 それが正常なのか異常なのか分からないが、 このときは異常気象の結果ではないかと思った。 実際は、夏が暑いと桜の木の葉が暑さに負けてしまって早く散ってしまうのだそうだ。

それでは今回はこの辺で。