看護形態機能学I試験問題 山田幸宏 平成9年(1997年)6月30日
正解を一つ選び,その番号を看護形態機能学I答案用紙に記入して下さい.
〔問題1〕ホルモンについて正しいのはどれですか.
1.副腎皮質刺激ホルモンは下垂体後葉で生成される.
2. 甲状腺ホルモンは甲状腺濾胞壁を構成する上皮細胞で生成される.
3.糖コルチコイドは副腎髄質で生成される.
4.ガストリンgastrinは膵臓のランゲルハンス島Langerhans cellで生成される.
5. 成長ホルモン放出ホルモンgrowth hormone releasing hormone,GHRHは視床から分泌される.
(問題2]脂肪の消化吸収について正しいのはどれですか.
1.エンテロガストロンenterogastroneは胃液の分泌と胃の運動を増強する.
2.胆汁中には脂肪分解酵素が多く含まれている.
3.胆汁酸は脂肪成分と混合してミセルmicelleとなり消化吸収を助け,吸収された脂肪酸とモノグリセリドは中性脂肪に合成され脂肪小球(カイロミクロンchylomicron)として中心乳び管から吸収される.
4.小腸で吸収された脂肪は門脈を経て肝に運ばれる.
5. ステアプシンsteapsin(膵臓リパーゼpancreatic lipase)は脂肪分解酵素であり,脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解するが,その作用は胆汁酸で阻害される.
〔問題3〕腎に対する作用で正しいのはどれですか.
1.副腎皮質から分泌されるアンギオテンシンangiotensinはカリウムの再吸収を促進する.
2.副甲状腺から分泌される副甲状腺ホルモンparathyroid hormoneは遠位尿細管におけるカルシウムの再吸収を抑制する.
3.下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン(バゾプレッシンvasopressin)は遠位尿細管および集合管での水の再吸収を促進する.
4.副腎皮質から分泌されるアルドステロンは遠位尿細管におけるナトリウムの排泄を促進する.
5. アルドステロンは遠位尿細管でのカリウムの再吸収を促進する.
(問題4〕肝について正しいのはどれですか.
1.胆汁はマクロファージmacrophage系の細胞であるクッパー(Kupffer)細胞によって作られる.
2.ビリルビンの80-85%はヘモグロビンに由来する.
3.胆汁酸は脂肪をグリセロールと脂肪酸とに分解する.
4.消化管で吸収された栄養素は肝静脈を通って肝に送られる.
5.小葉間結合組織(グリソンGlisson鞘)には肝細胞索と洞様毛細血管sinusoidal capillaryが存在する.
〔問題5〕リンパ球について正しいのはどれか.
l.B細胞は胸腺由来である.
2. リンパ球はT細胞,B細胞の2種類から構成されている.
3.T細胞は骨髄芽球細胞から分化する.
4.T細胞はガンマグロブリンgamma globulinを産生する.
5.形質細胞はB細胞から分化し,免疫グロブリンimmunoglobulin(抗体antibody)を産生する.
〔問題6〕腎に関し正しいのはどれですか.
1.腎血管性高血圧では血中コルチゾールが増加する.
2.腎性貧血の原因は骨髄から分泌されるエリスロポエチンの不足が原因である.
3.腎性蛋白尿が認められるときには糸球体濾過値は増加している.
4. 腎小体renal corpuscle(マルピギー小体Malpighian
corpuscle)は糸球体glomerulusとボウマン嚢からなる.
5.傍糸球体細胞juxtaglomerular cellsからレニンreninとアンギオテンシンが分泌される.
(問題7〕腸について正しいのはどれですか.
1. 大腸粘膜には腸絨毛が存在する.
2.大腸の腸腺にはリゾチームを分泌するパネート細胞Paneth's cellが存在する.
3. 虫垂の粘膜には好中球がリンパ球より多く存在する.
4.小腸陰窩には粘液を分泌する杯細胞Goblet cellが存在する.
5. 虫垂炎のときの圧痛点であるLanzの点は臍と右前腸骨棘を結ぶ線上の臍から2/3の位置である.
(問題8〕膵液pancreatic
juiceについて正しいのはどれですか.
1.弱アルカリ性で,膵液中の消化酵素はほぼ中性で酵素活性をよく示す.
2.水,重炭酸(炭酸水素ナトリウム)分泌はセクレチンsecretinにより抑制される.
3.膵液の消化酵素分泌はパンクレオザイミンpancreozymin/コレシストキニンcholecystokininにより抑制される.
4.トリプシンtrypsin,キモトリプシンchymotrypsinなどの蛋白分解酵素は活性型で分泌される.
5. 迷走神経刺激は膵液の分泌を抑制する.
看護形態機能学I答案用紙(解答例) 山田幸宏 平成9年(1997年)6月30日
問題1. 2 問題2. 3 問題3. 3 問題4. 2 問題5. 5 問題6. 4 問題7. 4 問題8.1
1.鉄欠乏性貧血iron deficiency anemiaはどのような機序(mechanism)で起こるのか記述(describe)して下さい. 赤血球erythrocyteは造血幹細胞hematopoietic stem cell(多能性幹細胞pluripotent
stem cell),赤芽球erythroblastからエリスロポエチンerythropoietinにより分化differentiationしてくる.血色素(ヘモグロビンhemoglobin)は鉄ironを含むヘムhemeとグロビンglobin蛋白質から構成されている.鉄欠乏性貧血は小球性(平均赤血球容積Mean corpuscular volume, MCVの低下), 低色素性(平均赤血球ヘモグロビンMean corpuscular hemoglobin, MCHの低下)の貧血で,貧血ではもっと最も多く認められる.血清鉄serum iron値は低下し,鉄を運搬する蛋白質トランスフェリンtransferrin(総鉄結合能total iron binding capacity, TIBC)値, 不飽和鉄結合能(unbound ironbinding
capacity, TIBC)値が増加する.食物中の鉄はFe3+であるが,胃酸gastric acidで還元reductionされてFe2+となって小腸から吸収される.ヘムの鉄は肝liverや骨髄bone marrowに蓄えられている.鉄はFe3+の形でフェリチンferritin蛋白質に結合している.体内に貯蔵されている鉄の量を反映する血清フェリチン値は低下する.食事中の鉄が少ない場合や発育に伴って鉄の需要が多い乳幼児や思春期に起こりやすい.牛乳cow's milkの飲みすぎにより,鉄の吸収障害がおこる,牛乳貧血cow's milk anemiaも存在する.関節リウマチrheumatoid
arthritis,慢性細菌感染症chronic bacterial
infection, 悪性腫瘍malignant tumorなどの慢性疾患による二次的secondaryな鉄欠乏性貧血では血清鉄,TIBCは低下しているが, 血清フェリチン値は正常あるいは増加している.これはトランスフェリンの産生の減少と消耗consumptionが起こり,細網内皮系細胞reticuloendothelial cellに取り込まれた鉄の放出が障害されたものと考えられる.
2.ホルモンの作用機序mode of action(作用機構action mechanism)について記述して下さい. ホルモンはそのホルモンに対する受容体レセプターreceptorを持っている標的細胞target cellにのみ結合し作用する.受容体には細胞膜表面にあるものと,細胞質,核にあるものとの2種類が知られている.水溶性であるペプチド型ホルモンは分子が大きく,細胞に入りにくい.細胞膜の表面にある受容体と結合し,G蛋白質(グアノシン三リン酸guanosine
triphosphate, GTP結合蛋白質)に情報が伝わり,a.アデニール酸シクラーゼadenylate cyclaseを活性化させ,細胞内にあるアデノシン三リン酸adenosine triphosphate , ATPを分解してサイクリックcyclic AMP,プロテインキナーゼprotein kinase Aを活性化させたり,b.ホスホリパーゼphospholipase C(PLC)を活性化させ,カルシウムイオンなどを増加させ,プロテインキナーゼprotein kinase
C(PKC)を活性化させたりする.サイクリックAMPあるいはカルシウムイオンなどはそれぞれホルモンの情報を伝える第2伝達体second messengerとして作用する.PLCは細胞膜にあるホスファチジルイノシトールニリン酸(phophatidylinositol-bisphosphate,
PIP2)に作用して,ノシトール三リン酸(inositol
triphosphate, IP3)とジアシルグリセロールdiacylglycerol(DAG)を生成する.IP3は細胞内のCa2+の貯蔵部位である小胞体やミトコンドリアにはたらいてCa2+を遊離させ,細胞内Ca2+濃度を高める.Ca2+はPKCを活性化させ,PKCは細胞内のさまざまな蛋白質をリン酸化し,代謝の調節を行う.またCa2+はカルシウム結合蛋白質であるカルモジュリン(calmodulin, CaM)と結合し,Ca2+ - CaM依存性プロテインキナーゼを活性化し,さまざまな蛋白質をリン酸化し,代謝の調節や物質輸送を制御している.ステロイドホルモンsteroid hormoneおよび甲状腺ホルモンthyroid hormoneであるチロキシンthyroxineは,脂溶性化合物であり標的細胞のリン脂質二重膜を通過することができる.ステロイドホルモン標的細胞の細胞質内にある受容体と,またチロキシンは核内の受容体とそれぞれ結合し,ホルモンと受容体の複合体が染色体の特異的遺伝子の転写を促進し,その結果,伝令messenger
ribonucleic acid (mRNA)の合成が高まり,新たに蛋白質proteinが合成される.
看護形態機能学I試験問題 山田幸宏 平成10年(1998年)9月21日
正解を一つ選び,その番号を看護形態機能学I答案用紙に記入して下さい.
〔問題1〕ホルモンhormoneについて正しいのはどれですか.
1.副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンcorticotropin releasing hormone(CRH)
は視床thalamusで産生される.
2. 甲状腺ホルモンであるサイロキシンthyroxine(T4)は肝などでトリヨードサイロニンtriiodothyronine(T3)に転換され, T4は T3よりも活性が高いので T4は T3の前駆物質(プロホルモン)である.
3.糖コルチコイドglucocorticoidは副腎皮質adrenal cortexの束状帯zona fasciculataで生成される.
4.ガストリンgastrinは幽門前庭pyloric antrumのG細胞から分泌されるホルモンで胃酸gastric acid分泌を抑制する.
5. 成長ホルモン放出ホルモンgrowth hormone releasing hormone,GHRHは下垂体後葉posterior lobeから分泌される.
(問題2)
脂質lipidの消化吸収について正しいのはどれですか.
1. コレシストキニンcholecystokininは胆嚢gall bladderを収縮させ,胆汁bileを分泌させるが,膵酵素の分泌は促進しない.
2.胆汁bile
juice中には蛋白質および脂肪分解酵素が多く含まれている.
3.胆汁酸bile
acidは脂肪成分と混合してミセルmicelleとなり消化吸収を助け,吸収された脂肪酸とモノグリセリドは中性脂肪triglycerideに合成され,脂肪小球, 乳糜(カイロミクロンchylomicron)として門脈portal veinから吸収される.
4.迷走神経vagus
nerve刺激は膵液pancreatic juiceの分泌を亢進させる.
5.ステアプシンsteapsin(膵リパーゼpancreatic lipase)は脂肪分解酵素であり,中性脂肪を脂肪酸fatty acidとグリセロールglycerolに分解するが,その作用は血色素(ビリルビンbilirubin)で増強される.
〔問題3〕泌尿器系urologic(urinary)
systemに関し正しいのはどれですか.
1.腎血管性高血圧では血中グルココルチコイドglucocorticoidが増加する.
2.腎性貧血renal
anemiaは骨髄から分泌secretionされるエリスロポエチンerythropoietinの過剰分泌が原因である.
3.交感神経sympathetic
nerve刺激により膀胱urinary bladder壁の筋が収縮contractionし,また膀胱括約筋urinary bladder
sphincterはゆるみ,排尿urinationがおこる.
4. 腎小体renal corpuscle(マルピギー小体Malpighian
corpuscle)は糸球体glomerulus,ボウマンBowman嚢および尿細管renal tubuleからなる.
5.糸球体濾過値glomerular filtration rateを測定するときにはクレアチニンクリアランスcreatinine clearance
を測定する.
〔問題4〕腎kidneyの機能に関し正しいのはどれですか.
1.副腎皮質adrenal
cortexから分泌されるアルドステロンaldosteroneはアンギオテンシンangiotensinの分泌を亢進させ,ナトリウムの再吸収reabsorptionを促進する.
2.副甲状腺parathyroid glandから分泌される副甲状腺ホルモンparathyroid hormoneは遠位尿細管distal renal tubuleにおけるカルシウムおよびリンの再吸収を促進する.
3.下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモンantidiuretic hormone, ADH(バゾプレッシンvasopressin)は近位尿細管proximal renal
tubuleおよび遠位尿細管での水の再吸収を促進する.
4.副腎皮質から分泌されるアルドステロンは遠位尿細管におけるナトリウムの再吸収を促進し,カリウムの分泌を促進する.
5.レニンreninは傍糸球体装置juxtaglomerular cellsから分泌され,アンギオテンシンangiotensinを生成し,血圧を上昇させ,アルドステロンの分泌を抑制する.
(問題5〕肝liverについて正しいのはどれですか.
1.マクロファージmacrophage系の細胞であるクッパー(Kupffer)細胞はビリルビンbilirubinの生成をおこなう.
2. 胆汁色素bile
pigmentは脾spleenなどで破壊された赤血球erythrocyteに由来する.
3.胆汁酸bile
acidは中性脂肪triglyceride, triacylglycerolをグリセロールglycerolと脂肪酸fatty acidとに分解する.
4.消化管で吸収された栄養素は中心乳糜管central chylous vesselおよび肝静脈liver
veinを通って肝に送られる.
5.小葉間結合組織(グリソンGlisson鞘)には肝細胞索と洞様毛細血管sinusoidal
capillary(類洞)および小葉間胆管が存在する.
〔問題6〕リンパ球lymphocyteについて正しいのはどれか.
l.B細胞(B lymphocyte)の表面には免疫グロブリンimmunoglobulinが存在し,抗体刺激antibody stimulationを受けると活性化activationし,免疫グロブリンを産生productionする.
2. リンパ球にはT細胞(T lymphocyte),B細胞およびNatural killer(NK)細胞の3種類があり,NK細胞は形態学的に大型でアズール顆粒azure granuleを持っているので,大顆粒リンパ球large granular lymphocytes, LGLと呼ばれる.
3.T細胞は骨髄芽球細胞myeloblastから分化differentiationし,胸腺thymusで教育educationを受ける.
4.T細胞はサイトカインcytokineおよびガンマグロブリンgamma globulinを産生する.
5.B細胞は形質細胞plasma cellから分化し,免疫グロブリンimmunoglobulin(抗体antibody)を産生する.
(問題7〕腸intestineについて正しいのはどれですか.
1.幽門pylorusのてまえには管状で内面のひだが縦に並行しており,幽門前庭pyloric
antrumとよばれる.
2.大腸large
intestineの腸腺には粘液mucusを分泌するパネート細胞Paneth's cellが存在する.
3. 虫垂appendixの粘膜にはリンパ節 lymph nodeがたくさん集合しており,リンパ球が好中球neutrophilより多く存在する.
4.小腸陰窩にはリゾチームlysozymeを分泌する杯細胞Goblet cellが多数存在する.
5.集合リンパ小節(パイエルPeyer板)は回腸より空腸に多くみられる.
(問題8〕膵液pancreatic juiceについて正しいのはどれですか.
1.十二指腸粘膜の酸による刺激はセクレチンsecretin分泌を抑制する.
2.水,重炭酸(炭酸水素)イオンHCO3-分泌はセクレチンにより抑制される.
3.膵液の消化酵素分泌はパンクレオザイミンpancreozymin/コレシストキニンcholecystokininにより抑制される.
4.トリプシンtrypsin,キモトリプシンchymotrypsinなどの蛋白質分解酵素はエクソペプチダーゼexopeptidaseであり,ポリペプチド結合polypeptide bondに作用する.
5.カルボキシペプチダーゼcaboxypeptidaseはエクソペプチダーゼであり, カルボキシル基(-COOH)およびアミノ基(-NH2)のついているポリペプチドpolypeptideの端のアミノ酸amino acidを加水分解する.
看護形態機能学I答案用紙(解答例) 山田幸宏 平成10年(1998年)9月21日
問題1. 3 問題2. 4 問題3. 5 問題4. 4 問題5. 2 問題6. 2 問題7. 1 問題8. 5
問題9. 貧血(anemia)はどのような機序(mechanism)で起こるのか記述(describe)して下さい.貧血は末梢血の赤血球(erythrocyte,red blood cell)数が3.5x106個/mm3以下あるいは血色素ヘモグロビンhemoglobin量が12.0g/dl以下に低下した状態であり,(1)鉄iron,ビタミンB12 vitamin B12 ,葉酸folic acidなどの材料の不足,(2)赤血球の寿命の短縮(溶血hemolysis),(3)骨髄bone marrowの機能の低下(再生不良性貧血aplastic
anemia), (4)出血性貧血bleeding anemiaなどの機序により起こる.(1)鉄欠乏性貧血iron deficiency anemiaは食事中の鉄が少ない場合や発育に伴って鉄の需要が多い乳幼児や思春期に起こりやすい.牛乳の飲みすぎにより,鉄の吸収障害がおこる,牛乳貧血cow's milk anemiaも存在する.小球性(平均赤血球容積Mean corpuscular volume,
MCVの低下)低色素性(平均赤血球ヘモグロビンMean corpuscular hemoglobin, MCHの低下)貧血を示す.血清鉄serum ironは低下する.ビタミンB12, 葉酸は核酸合成に必要な補酵素として働く.どちらか一方が欠乏してもDNA合成が遅れ,核分裂が行われず,細胞質は発育して大型の細胞となる.したがってビタミンB12, 葉酸などが不足の場合には巨赤芽球性貧血megaloblastic anemiaを起こし大球性高色素性貧血を示す.という.またビタミンB12 の吸収に必要な内因子intrinsic factorの欠乏する場合にもビタミンB12 の欠乏が起こる(悪性貧血pernicious anemia). 慢性腎不全など腎からのエリスロポエチンerythropoietin産生が障害されても赤芽球系細胞の分化が障害され貧血が起こる(二次性貧血). 二次性貧血として感染性貧血Anemia of infectionがある.感染により,骨髄の 赤血球産性の抑制,鉄の利用障害,
細網内皮系細胞reticuloendothelial cellsの機能亢進による 赤血球破壊,溶血など原因は多岐にわたる.(2)赤血球の寿命は120日であり,毎日その1%が脾,骨髄などのマクロファージmacrophages(細網内皮系細胞)で捕捉captureされ破壊されていく.溶血性貧血hemolytic anemiaは内的あるいは外的原因で赤血球の寿命の短縮をきたした場合におこる. 赤血球自体の異常によるものは先天的な膜異常による,遺伝性球状赤血球症hereditary spherocytosisが多い.外的原因によるものは後天的なもので,免疫学的機序で起こるものが多い.同種免疫性isoimmuneなものとして母子間血液型不適合fetomaternal ABO blood group
incompatibility(Rh式不適合 ABO式不適合),自己免疫性autoimmuneなものとして,寒冷凝集素などが関与することがある.網状赤血球の増加がみられる.後天的な免疫性溶血性貧血では,クームステスト陽性である.(3)再生不良性貧血では, 骨髄幹細胞bone marrow stem
cell (多能性幹細胞pluripotent stem cell)に異常が認められる. 赤血球系Erythroid lineage,顆粒球系granulocyte lineage,巨核球系megakaryo lineageのすべての系列においての産生が低下するため,末梢血において汎血球減少pancytopeniaが認められる.白血病leukemiaなど,骨髄が 白血病細胞などにより占拠されると造血の場が障害され,二次的に貧血が起こる(骨髄癆性貧血myelopathic
anemia).(4)出血性貧血としては,消化性潰瘍Alimentary tract ulcerなどによよって消化管出血がある場合などが原因となる.また新生児期あるいは乳児期にビタミンK依存性凝固因子の欠乏が起こり,ビタミンK欠乏性貧血vitamin
K deficiency anemiaが起こることがある.
問題10.ホルモンhormoneの産生production と分泌secretionの調節regulation
について記述(describe)して下さい.ホルモンhormoneの産生production と分泌secretionは生体の恒常性homeostasisを維持するためさまざまな機序mechanismにより調節regulationされている.第1には血中のホルモン濃度の変化による調節機序がある.副甲状腺ホルモンの分泌は血中カルシウム濃度が減少すると増加し,血中カルシウム濃度が増加すると減少する.インスリンの分泌は血糖が減少すると現症し,血糖が増加すると増加する.これらの調節をネガティブフィードバックnegative feedbackという.第2には自律神経による調節機序がある.膵臓のランゲルハンス島から分泌されるインスリンやグルカゴンの分泌は自律神経の影響を受ける.交感神経刺激によりグルカゴンの分泌は増加する.消化管ホルモンであるセクレチンsecretinやコレシストキニンパンクレオザイミンcholecystokinin/pancreozyminは迷走神経刺激により亢進する.カテコールアミンの分泌は交感神経刺激で亢進する.第3には上位ホルモンによる調節機序がある.下垂体前葉からは各種の刺激ホルモンが分泌される.それぞれの刺激ホルモンに対するレセプターreceptorを持った下位の内分泌腺からのホルモン産生が増大する.たとえば甲状腺刺激ホルモンにより甲状腺ホルモンの分泌が亢進する.第4 にはフィードバック feedback機構による調節機序がある.下垂体から分泌されるホルモンはそのホルモンが作用する下位のホルモンの血中濃度により調整される.たとえば血中の甲状腺ホルモン濃度が上昇すると甲状腺刺激ホルモンの分泌が抑制され,甲状腺ホルモン濃度が低下すると甲状腺刺激ホルモンの分泌が亢進する.これらの調節をネガティブフィードバックnegative feedbackという.第5には視床下部による調節機序がある.視床下部から各種の下垂体前葉ホルモンの分泌を刺激したり抑制したりする放出ホルモンreleasing hormoneが分泌されている.
看護形態機能学I試験問題 山田幸宏 平成11年(1999年)9月20日
正解を一つ選び,その番号を看護形態機能学I答案用紙に記入して下さい.
〔問題1〕ホルモンhormoneについて正しいのはどれですか.
1.副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンcorticotropin- releasing hormone, CRHは視床下部hypothalamusで分泌され,下垂体pituitary
gland(hypophysis)後葉posterior lobeからの副腎皮質刺激ホルモンadrenocorticotropic hormone, ACTH分泌を刺激する.
2. 甲状腺ホルモンthyroid hormoneは基礎代謝率basal metabolic
rate, BMRを上昇させたり,脂肪代謝を亢進させて,血中コレステロールcholesterol値を上昇させる.
3.糖コルチコイドglucocorticoidは好酸球eosinophil,好塩基球basophilおよびリンパ球lymphocyteの数を減少させるので,抗アレルギーanti-allergic作用,抗炎症anti-inflamatory作用を持つ.
4.ガストリンgastrinは十二指腸duodenumから分泌され,幽門前庭部pyrolic antrumの壁細胞parietal cellを刺激して,塩酸HCl分泌を促進させる.
5.エピネフリンepinephrineはα受容体に作用して末梢血管抵抗を増大させて血圧を上昇させ,ノル エピネフリンnorepinephrineはβ1受容体に作用して心拍出量cardiac outputを増大させる.
(問題2]消化吸収について正しいのはどれですか.
1.エンテロガストロンenterogastroneは, 胃液gastric juiceの分泌と胃の運動を増強する.
2.胆汁bile中には脂肪分解酵素lipaseが多く含まれている.
3.胆汁酸bile
acidは脂肪成分と混合してミセルmicelleとなり消化吸収を助け,刷子縁brush borderを持つ小腸円柱上皮細胞columnar epitherium cellから吸収された脂肪酸fatty acidとモノグリセリドmonoglycerideは中性脂肪triglycerideに合成され,脂肪小球(カイロミクロンchylomicron)として中心乳び管central chylous
vesselおよび毛細血管から吸収される.
4.小腸で吸収されたペプチドpeptideは門脈portal veinを経て肝に運ばれる.
5. ステアプシンsteapsin(膵臓リパーゼpancreatic lipase)は脂肪分解酵素であり,脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解するが,その作用は胆汁酸で阻害される.
〔問題3〕腎kidneyに対する作用で正しいのはどれですか.
1.副腎皮質adrenal
cortexから分泌されるアンギオテンシンangiotensinはカリウムの再吸収reabsorptionを促進する.
2.副甲状腺parathyroid
glandから分泌される副甲状腺ホルモンparathyroid hormoneは遠位尿細管distal tubuleにおけるカルシウムの再吸収を抑制する.
3.下垂体後葉posterior
lobeから分泌される抗利尿ホルモンantidiuretic
hormone(バゾプレッシンvasopressin)は遠位尿細管および集合管での水の再吸収を抑制する.
4.副腎皮質から分泌されるアルドステロンaldosteroneは遠位尿細管におけるナトリウムの排泄excretionを促進する.
5. アルドステロンは遠位尿細管でのカリウムの分泌secretionを促進する.
(問題4〕肝liverについて正しいのはどれですか.
1.胆汁bileはマクロファージmacrophage系の細胞であるクッパー(Kupffer)細胞によって作られる.
2.胆汁色素bile
pigment(ビリルビンbilirubin)の80-85%は血色素(ヘモグロビンhemoglobin)に由来し,胆汁酸bile acidとして働く.
3.胆汁酸は脂肪triglyserideをグリセロールglycerolと脂肪酸fatty acidとに分解する.
4.消化管で吸収された糖質carbohydrateは門脈portal veinを通って肝に送られる.
5.小葉間結合組織(グリソンGlisson鞘)には肝細胞索と洞様毛細血管sinusoidal capillaryが存在する.
〔問題5〕リンパ球lymphocyteについて正しいのはどれか.
l.B細胞B lymphocyteは胸腺thymus由来である.
2. リンパ球はT細胞,B細胞およびnatural killer細胞の3種類から構成されている.
3.T細胞T lymphocyteは骨髄芽球myeloblast細胞から分化differentiationする.
4.T細胞はガンマグロブリンgamma globulinを産生productionする.
5.B細胞は形質細胞plasma cellから分化し,免疫グロブリンimmunoglobulin(抗体antibody)を産生する.
〔問題6〕腎kidneyに関し正しいのはどれですか.
1.腎血管性高血圧renal hypertentionでは血中コルチゾールcortisolが増加する.
2.腎性貧血renal
anemiaの原因は腎から分泌されるエリスロポエチンerythropoietinの不足が原因である.
3.腎性蛋白尿renal
proteinuriaが認められるときには糸球体濾過値glomerular
filtration rate, GFRは増加している.
4. 腎小体renal corpuscle(マルピギー小体Malpighian
corpuscle)は糸球体glomerulusとボウマン嚢Bowman's capsuleおよび尿細管renal tubuleからなる.
5.傍糸球体細胞juxtaglomerular cellsからレニンreninとアンギオテンシンが分泌される.
(問題7〕腸intestineについて正しいのはどれですか.
1. 小腸粘膜の内面には輪状のひだ(ケルクリングの襞)や腸絨毛villiが存在する.
2.大腸の腸腺にはリゾチームlysozymeを分泌するパネート細胞Paneth's cellが存在する.
3. 虫垂appendixの粘膜には好中球がリンパ球より多く存在する.
4. 虫垂陰窩には粘液を分泌する杯細胞Goblet cellが多数存在する.
5.小腸の絨毛と腸陰窩(腸腺,リーベルキューン腺Lieberkuen's gland)の内面は単層扁平上皮squamous epitheriumでおおわれている
(問題8〕膵液pancreatic juiceについて正しいのはどれですか.
1.弱アルカリ性で,膵液中の消化酵素はほぼ中性で酵素活性を失う.
2.水,重炭酸(炭酸水素ナトリウム)分泌はセクレチンsecretinにより抑制される.
3.膵液の消化酵素分泌はパンクレオザイミンpancreozymin/コレシストキニンcholecystokininにより抑制される.
4.トリプシンtrypsin,キモトリプシンchymotrypsinなどの蛋白分解酵素は活性型で分泌される.
5. 迷走神経vagus nerve刺激は膵液の分泌を促進する.
看護形態機能学I答案用紙(解答例) 山田幸宏 平成11年(1999年)9月20日
問題1. 3 |
問題2. 4 |
問題3. 5 |
問題4. 4 |
問題5. 2 |
問題6. 2 |
問題7. 1 |
問題8. 5 |
問題9. 鉄欠乏性貧血iron deficiency
anemiaはどのような機序(mechanism)で起こるのか記述(describe)して下さい.赤血球erythrocyteは造血幹細胞hematopoietic stem cell(多能性幹細胞pluripotent
stem cell),赤芽球erythroblastからエリスロポエチンerythropoietinにより分化differentiationしてくる.血色素(ヘモグロビンhemoglobin)は鉄ironを含むヘムhemeとグロビンglobin蛋白質から構成されている.鉄欠乏性貧血は小球性(平均赤血球容積Mean corpuscular volume, MCVの低下), 低色素性(平均赤血球ヘモグロビンMean corpuscular hemoglobin, MCHの低下)の貧血で,貧血ではもっと最も多く認められる.血清鉄serum iron値は低下し,鉄を運搬する蛋白質トランスフェリンtransferrin(総鉄結合能total iron binding capacity, TIBC)値, 不飽和鉄結合能(unbound iron
binding capacity, TIBC)値が増加する.食物中の鉄はFe3+であるが,胃酸gastric acidで還元reductionされてFe2+となって小腸から吸収される.ヘムの鉄は肝liverや骨髄bone marrowに蓄えられている.鉄はFe3+の形でフェリチンferritin蛋白質に結合している.体内に貯蔵されている鉄の量を反映する血清フェリチン値は低下する.食事中の鉄が少ない場合や発育に伴って鉄の需要が多い乳幼児や思春期に起こりやすい.牛乳cow's milkの飲みすぎにより,鉄の吸収障害がおこる,牛乳貧血cow's milk anemiaも存在する.関節リウマチrheumatoid
arthritis,慢性細菌感染症chronic bacterial
infection, 悪性腫瘍malignant tumorなどの慢性疾患による二次的secondaryな鉄欠乏性貧血では血清鉄,TIBCは低下しているが, 血清フェリチン値は正常あるいは増加している.これはトランスフェリンの産生の減少と消耗consumptionが起こり,細網内皮系細胞reticuloendothelial cellに取り込まれた鉄の放出が障害されたものと考えられる.
問題10.甲状腺ホルモンthyroid hormoneの合成synthesis,分泌secretion,分泌調節regulation of secretionと生理作用physiologic
actionについて記述して下さい.サイログロブリンthyroglobulinにペプチド結合peptide bond(アミド結合amidobond-CO-NH-)しているチロシンtyrosineによう素iodineが結合し,縮合して,トリヨードサイロニンtriiodothyronine, T3とサイロキシンthyroxine, T4 が生成される.サイログロブリンは甲状腺濾胞細胞follicle cell内の粗面小胞体rough endoplasmic reticulumで合成され,コロイドcolloid内へ分泌,貯蔵されている.甲状腺ホルモンは分泌されるまでサイログロブリンに結合したままである,分泌されるとき,コロイドが濾胞細胞に取り込まれ,ペプチド結合が加水分解され,遊離のT3,T4 が血中に放出される.T3,T4 は血中では,サイロキシン結合グロブリンthyroxine binding
globulin(TBG)などの血漿蛋白質plasma proteinに結合している. 遊離freeのT3,T4 が甲状腺ホルモンとしての生理作用を示す.視床下部ホルモンhypothalamus hormoneである甲状腺ホルモン放出ホルモンthyrotropin- releasing hormone,
TRHは下垂体pituitary前葉anterior lobeを刺激stimulationして甲状腺ホルモン刺激ホルモンthyroid stimulating hormone,TSH分泌を促進する.TSHは甲状腺を刺激して 甲状腺ホルモンの合成,分泌を促進する. 甲状腺ホルモンの分泌はTSHおよびT3, T4による負のフィードバックnegative feedbackを受けている.生理作用として1.甲状腺ホルモンは基礎代謝率basal metabolic
rate, BMRを上昇させる.すなわち酸素消費oxygen consumptionを増加させて熱量を多く産生させる.2.糖質代謝carbohydrate
metabolismに対して,組織のエピネフリンepinephrine感受性を上昇させてグリコーゲンglycogen分解を促進させ,血糖blood sugarの上昇をおこす.またインスリンinsulinの感受性も上昇させ, グルコースglucoseの利用を増加させる.3.蛋白質protein代謝に対しては,成長期の 蛋白質代謝を活発にする.4.脂質lipid代謝に対しては脂肪代謝を亢進させて,血中遊離脂肪酸free fatty acidを増加させたり,血中コレステロールcholesterol値を低下させる.
看護形態機能学I試験問題 山田幸宏 平成12年(2000年)9月26日
正解を一つ選び,その番号を看護形態機能学I答案用紙に記入して下さい.
〔問題1〕呼吸respirationについて正しいのはどれですか.
1.左気管支の分岐はより垂直に分岐しており,誤嚥は左肺に多い.
2. 左肺は3葉に分かれており,右葉より呼吸面積が広い.
3.前縦隔anterior
mediastinumの位置に左肺および右肺が存在する.
4.気管支bronchusは呼吸細気管支から先の壁が半球状に多数ふくれ出たものである.
5. 肺葉を単位として生じている肺炎を大葉性肺炎lobar pneumoniaという.
(問題2)
脂質lipidの消化吸収について正しいのはどれですか.
1. コレシストキニンcholecystokininは胆嚢gall bladderを収縮させ,胆汁bileを分泌させるが,膵酵素の分泌は促進しない.
2.胆汁bile
juice中には蛋白質および脂肪分解酵素が多く含まれている.
3.胆汁酸bile
acidは脂肪成分と混合してミセルmicelleとなり消化吸収を助け,刷子縁brush borderを持つ小腸円柱上皮細胞columnar epithelium cellから吸収された脂肪酸とモノグリセリドは中性脂肪triglycerideに合成され,脂肪小球, 乳糜(カイロミクロンchylomicron)として門脈portal veinから吸収される.
4. 迷走神経vagus nerve刺激は膵液pancreatic juiceの分泌を亢進させる.
5. ステアプシンsteapsin(膵リパーゼpancreatic lipase)は脂肪分解酵素であり,中性脂肪を脂肪酸fatty acidとグリセロールglycerolに分解するが,その作用は血色素(ビリルビンbilirubin)で増強される.
〔問題3〕泌尿器系urologic(urinary)
systemに関し正しいのはどれですか.
1.腎血管性高血圧では血中グルココルチコイドglucocorticoidが増加する.
2.腎性貧血renal
anemiaは骨髄から分泌secretionされるエリスロポエチンerythropoietinの過剰分泌が原因である.
3.交感神経sympathetic
nerve刺激により膀胱urinary bladder壁の筋が収縮contractionし,また膀胱括約筋urinary bladder
sphincterはゆるみ,排尿urinationがおこる.
4. 腎小体renal corpuscle(マルピギー小体Malpighian
corpuscle)は糸球体glomerulus,ボウマンBowman嚢および尿細管renal tubuleからなる.
5. 糸球体濾過値glomerular filtration rateを測定するときにはクレアチニンクリアランスcreatinine clearance
を測定する.
〔問題4〕腎kidneyの機能に関し正しいのはどれですか.
1.副腎皮質adrenal
cortexから分泌されるアルドステロンaldosteroneはアンギオテンシンangiotensinの分泌を亢進させナトリウムの再吸収reabsorptionを促進する.
2.副甲状腺parathyroid glandから分泌される副甲状腺ホルモンparathyroid hormoneは遠位尿細管distal renal tubuleにおけるカルシウムおよびリンの再吸収を促進する.
3.下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモンantidiuretic hormone, ADH(バゾプレッシンvasopressin)は近位尿細管proximal renal
tubuleおよび遠位尿細管での水の再吸収を促進する.
4.副腎皮質から分泌されるアルドステロンは遠位尿細管におけるナトリウムの再吸収を促進し,カリウムの分泌を促進する.
5.レニンreninは傍糸球体装置juxtaglomerular cellsから分泌され,アンギオテンシンangiotensinを生成し,血圧を上昇させ,アルドステロンの分泌を抑制する.
(問題5〕肝liverについて正しいのはどれですか.
1.マクロファージmacrophage系の細胞であるクッパー(Kupffer)細胞はビリルビンbilirubinの生成をおこなう.
2. 胆汁色素bile
pigmentは脾spleenなどで破壊された赤血球erythrocyteに由来する.
3.胆汁酸bile
acidは中性脂肪triglyceride, triacylglycerolをグリセロールglycerolと脂肪酸fatty acidとに分解する.
4.消化管で吸収された栄養素は中心乳糜管central chylous vesselおよび肝静脈liver
veinを通って肝に送られる.
5.小葉間結合組織(グリソンGlisson鞘)には肝細胞索と洞様毛細血管sinusoidal
capillary(類洞)および小葉間胆管が存在する.
〔問題6〕リンパ球lymphocyteについて正しいのはどれか.
l.B細胞(B lymphocyte)の表面には免疫グロブリンimmunoglobulinが存在し,抗体刺激antibody stimulationを受けると活性化activationし,免疫グロブリンを産生productionする.
2. リンパ球にはT細胞(T lymphocyte),B細胞およびNatural killer(NK)細胞の3種類があり,NK細胞は形態学的に大型でアズール顆粒azure granuleを持っているので大顆粒リンパ球large granular lymphocytes, LGLと呼ばれ, 抗原特異的antigen specificに細胞障害性cytotoxicityを示す.
3.T細胞は骨髄芽球細胞myeloblastから分化differentiationし,胸腺thymusで教育educationを受ける.
4.ヘルパーT細胞(helper T lymphocyte)の活性化activationは,抗原ペプチドantigen peptideを自己self主要組織適合抗原major histocompatibility complex antigen(MHC) Class IIと結合した抗原提示細胞antigen presenting cellによって行われる.
5.B細胞は形質細胞plasma cellから分化し,免疫グロブリンimmunoglobulin(抗体antibody)を産生する.
(問題7〕腸intestineについて正しいのはどれですか.
1.幽門pylorusのてまえには管状で内面のひだが縦に並行しており幽門前庭pyloric
antrumとよばれる.
2.大腸large
intestineの腸腺には粘液mucusを分泌するパネート細胞Paneth's cellが存在する.
3. 虫垂appendixの粘膜にはリンパ節 lymph nodeがたくさん集合しており,リンパ球が好中球neutrophilより多く存在する.
4.小腸陰窩にはリゾチームlysozymeを分泌する杯細胞Goblet cellが多数存在する.
5.集合リンパ小節(パイエルPeyer板)は回腸より空腸に多くみられる.
(問題8〕膵液pancreatic juiceについて正しいのはどれですか.
1.十二指腸粘膜の酸による刺激はセクレチンsecretin分泌を抑制する.
2.水,重炭酸(炭酸水素)イオンHCO3-分泌はセクレチンにより抑制される.
3.膵液の消化酵素分泌はパンクレオザイミンpancreozymin/コレシストキニンcholecystokininにより抑制される.
4.トリプシンtrypsin,キモトリプシンchymotrypsinなどの蛋白質分解酵素はエクソペプチダーゼexopeptidaseであり,ポリペプチド結合polypeptide bondに作用する.
5.カルボキシペプチダーゼcaboxypeptidaseはエクソペプチダーゼであり, カルボキシル基(-COOH)およびアミノ基(-NH2)のついているポリペプチドpolypeptideの端のアミノ酸amino acidを加水分解する.
看護形態機能学I答案用紙(解答例) 山田幸宏平成12年(2000年)9月26日
問題1. 5 問題2. 4 問題3. 5 問題4. 4 問題5. 2 問題6. 4 問題7. 1 問題8. 5
問題9. 貧血(anemia)はどのような機序(mechanism)で起こるのか記述(describe)して下さい.貧血は末梢血の赤血球(erythrocyte,red blood cell)数が3.5x106個/mm3以下あるいは血色素ヘモグロビンhemoglobin量が12.0g/dl以下に低下した状態でり,(1)鉄iron,ビタミンB12 vitamin B12 ,葉酸folic acidなどの材料の不足,(2)赤血球の寿命の短縮(溶血hemolysis),(3)骨髄bone marrowの機能の低下(再生不良性貧血aplastic
anemia), (4)出血性貧血bleeding anemiaなどの機序により起こる.(1)鉄欠乏性貧血iron deficiency anemiaは食事中の鉄が少ない場合や発育に伴って鉄の需要が多い乳幼児や思春期に起こりやすい.牛乳の飲みすぎにより,鉄の吸収障害がおこる,牛乳貧血cow's milk anemiaも存在する.小球性(平均赤血球容積Mean corpuscular
volume, MCVの低下)低色素性(平均赤血球ヘモグロビンMean corpuscular hemoglobin, MCHの低下)貧血を示す.血清鉄serum ironは低下する.ビタミンB12, 葉酸は核酸合成に必要な補酵素として働く.どちらか一方が欠乏してもDNA合成が遅れ,核分裂が行われず,細胞質は発育して大型の細胞となる.したがってビタミンB12, 葉酸などが不足の場合には巨赤芽球性貧血megaloblastic anemiaを起こし大球性高色素性貧血を示す.またビタミンB12 の吸収に必要な内因子intrinsic factorの欠乏する場合にもビタミンB12 の欠乏が起こる(悪性貧pernicious anemia). 慢性腎不全など腎からのエリスロポエチンerythropoietin産生が障害されても赤芽球系細胞の分化が障害され貧血が起こる(二次性貧血). 二次性貧血として感染性貧血Anemia of infectionがある.感染により,骨髄の 赤血球産性の抑制,鉄の利用障害, 細網内皮系細胞reticuloendothelial cellsの機能亢進による 赤血球破壊,溶血など原因は多岐にわたる.(2)赤血球の寿命は120日であり,毎日その1%が脾,骨髄などのマクロファージmacrophages(細網内皮系細胞)で捕捉captureされ破壊されていく.溶血性貧血hemolytic anemiaは内的あるいは外的原因で赤血球の寿命の短縮をきたした場合におこる. 赤血球自体の異常によるものは先天的な膜異常による,遺伝性球状赤血球症hereditary spherocytosisが多い.外的原因によるものは後天的なもので,免疫学的機序で起こるものが多い.同種免疫性isoimmuneなものとして母子間血液型不適合fetomaternal ABO blood group
incompatibility(Rh式不適合 ABO式不適合),自己免疫性autoimmuneなものとして,寒冷凝集素などが関与することがある.網状赤血球の増加がみられる.後天的な免疫性溶血性貧血では,クームステスト陽性である.(3)再生不良性貧血では, 骨髄幹細胞bone marrow stem
cell (多能性幹細胞pluripotent stem cell)に異常が認められる. 赤血球系erythroid lineage,顆粒球系granulocyte lineage,巨核球系megakaryo lineageのすべての系列においての産生が低下するため,末梢血において汎血球減少pancytopeniaが認められる.白血病leukemiaなど,骨髄が 白血病細胞などにより占拠されると造血の場が障害され,二次的に貧血が起こる(骨髄癆性貧血myelopathic
anemia).(4)出血性貧血としては,消化性潰瘍Alimentary tract ulcerなどによよって消化管出血がある場合などが原因となる.また新生児期あるいは乳児期にビタミンK依存性凝固因子の欠乏が起こり,ビタミンK欠乏性貧血vitamin
K deficiency anemiaが起こることがある.
2. 血液ガスblood gasについて記述して下さい.血液中に含まれている気体の総称である.血液ガス圧は血液ガス圧測定器により分析される.これを血液ガス分析blood gas analysisという.動脈血100ml中には酸素20ml, 二酸化炭素49ml,窒素1mlを含んでいる.動脈血ガス分析では酸素分圧PO2は95-97mmHg,二酸化炭素分圧PCO2は40mmHgである.静脈血では酸素16ml, 二酸化炭素53ml,窒素1mlを含んでいる. 静脈血ガス分析では酸素分圧PO2は40mmHg,二酸化炭素分圧PCO2は46mmHgである.酸素はヘモグロビンと結合し,二酸化炭素は重炭酸塩やヘモグロビンと結合した形で存在するのが大部分で,物理的に溶解しているのはごくわずかである.肺胞と血液の間のガス交換は,分圧の高い方から低い方に向かって行われる.すなわち拡散現象によって行われる.肺胞気中の酸素は,肺胞上皮細胞の毛細血管を通して血液中にはいり,血液中の二酸化炭素は肺胞中に拡散される.肺の毛細血管を流れる赤血球のヘモグロビンは酸素と結合し,酸素ヘモグロビンoxyhemoglobinとなり,酸素分圧が高まる.一方二酸化炭素は肺胞中に放出されるため,二酸化炭素は低下する.末梢組織では毛細血管と組織の間で再びガス交換が行われる.毛細血管内の酸素分圧PO2は95mmHgなのに対して,組織での酸素分圧PO2は20mmHg程度であるので酸素は血液中から組織中へ移行する.また毛細血管内の二酸化炭素分圧は40mmHgであるのに対して,組織での二酸化炭素分圧は40-70mmHgであるので,二酸化炭は組織中から血液中へ移行する.
看護形態機能学I試験問題 山田幸宏 平成13年(2001年)9月25日
正解を一つ選び,その番号を看護形態機能学I答案用紙に記入して下さい.
〔問題1〕呼吸respirationについて正しいのはどれですか。
1.肺区域を単位として生じている肺炎を大葉性肺炎lobar pneumoniaという.
2. 気管支の枝の横紋筋が痙攣を起こすのが気管支喘息の発作であり,エピネフリンはこの筋の痙攣を改善する.
3.前縦隔anterior
mediastinumの位置に左肺および右肺が存在する.
4.気管支bronchusは呼吸細気管支から先の壁が半球状に多数ふくれ出たものである.
5. 右気管支の分岐はより垂直に分岐しており,誤嚥は右肺に多い.
(問題2)脂質lipidの消化吸収について正しいのはどれですか.
1.エンテロガストロンenterogastroneは, 胃液gastric juiceの分泌と胃の運動を増強する.
2.胆汁bile中には脂肪分解酵素lipaseが多く含まれている.
3.胆汁酸bile
acidは脂肪成分と混合してミセルmicelleとなり消化吸収を助け,刷子縁brush borderを持つ小腸円柱上皮細胞columnar epithelium cellから吸収された脂肪酸fatty acidとモノグリセリドmonoglycerideは中性脂肪triglycerideに合成され脂肪小球(カイロミクロンchylomicron)として中心乳び管central chylous vesselから吸収される.
4.小腸で吸収された脂肪は門脈portal veinを経て肝に運ばれる.
5. ステアプシンsteapsin(膵臓リパーゼpancreatic
lipase)は脂肪分解酵素であり,脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解するが,その作用は胆汁酸で阻害される.
〔問題3〕腎kidneyに対する作用で正しいのはどれですか.
1.副腎皮質adrenal
cortexから分泌されるアンギオテンシンangiotensinはカリウムの再吸収を促進する.
2.副甲状腺parathyroid
glandから分泌される副甲状腺ホルモンparathyroid hormoneは遠位尿細管distal
tubuleにおけるカルシウムの再吸収を抑制する.
3.下垂体後葉posterior
lobeから分泌される抗利尿ホルモンantidiuretic hormone(バゾプレッシンvasopressin)は遠位尿細管および集合管での水の再吸収を促進する.
4.副腎皮質から分泌されるアルドステロンaldosteroneは遠位尿細管におけるナトリウムの排泄excretionを促進する.
5. アルドステロンは遠位尿細管でのカリウムの再吸収reabsorptionを促進する.
(問題4)肝liverについて正しいのはどれですか.
1.胆汁bileはマクロファージmacrophage系の細胞であるクッパー(Kupffer)細胞によって作られる.
2.胆汁色素bile
pigment(ビリルビンbilirubin)の80-85%は血色素(ヘモグロビンhemoglobin)に由来する.
3.胆汁酸は脂肪triglyserideをグリセロールglycerolと脂肪酸fatty
acidとに分解する.
4.消化管で吸収された栄養素は肝静脈liver veinを通って肝に送られる.
5.小葉間結合組織(グリソンGlisson鞘)には肝細胞索と洞様毛細血管sinusoidal
capillaryが存在する.
〔問題5〕リンパ球lymphocyteについて正しいのはどれか.
l.T細胞T
lymphocyteおよびNatural killer細胞は胸腺thymus由来である.
2.
3.T細胞T lymphocyteは骨髄芽球myeloblast細胞から分化differentiationする.
4.T細胞はガンマグロブリンgamma globulinを産生productionする.
5.形質細胞plasma
cellはB細胞から分化し,免疫グロブリンimmunoglobulin(抗体antibody)およびサイトカインcytokineを産生productionする.
〔問題6〕腎kidneyに関し正しいのはどれですか.
1.腎血管性高血圧renal hypertentionでは血中コルチゾールcortisolが増加する.
2.腎性貧血renal
anemiaの原因は骨髄bone marrowから分泌されるエリスロポエチンerythropoietinの不足が原因である.
3.腎性蛋白尿renal
proteinuriaが認められるときには糸球体濾過値glomerular filtration rate, GFRは増加している.
4. 腎小体renal
corpuscle(マルピギー小体Malpighian corpuscle)は糸球体glomerulusとボウマン嚢Bowman’s
capsuleからなる.
5. 傍糸球体細胞juxtaglomerular
cellsからレニンreninとアンギオテンシンが分泌される.
(問題7)腸intestineについて正しいのはどれですか.
1. 小腸粘膜の内面には輪状のひだ(ケルクリングの襞)や腸絨毛villiが存在する.
2.大腸の腸腺にはリゾチームを分泌するパネート細胞Paneth’s cellが存在する.
3. 虫垂appendixの粘膜には好中球がリンパ球より多く存在する.
4. 虫垂陰窩には粘液を分泌する杯細胞Goblet cellが多数存在する.
5.小腸の絨毛と腸陰窩(腸腺,リーベルキューン腺Lieberkuen’s gland)の内面は単層扁平上皮squamous epitheriumでおおわれている
(問題8)膵液pancreatic
juiceについて正しいのはどれですか.
1.弱アルカリ性で,膵液中の消化酵素はほぼ中性で酵素活性をよく示す.
2.水,重炭酸(炭酸水素ナトリウム)分泌はセクレチンsecretinにより抑制される.
3.膵液の消化酵素分泌はパンクレオザイミンpancreozymin/コレシストキニンchole-
cystokininにより抑制される.
4.トリプシンtrypsin,キモトリプシンchymotrypsinなどの蛋白分解酵素は活性型で分泌される.
5. 迷走神経vagus
nerve刺激は膵液の分泌を抑制する.
看護形態機能学I答案用紙(解答例) 山田幸宏 平成13年(2001年)9月25日
問題1. 5 問題2. 3 問題3. 3 問題4. 2 問題5. 2 問題6. 4 問題7. 1 問題8. 1
問題9. 鉄欠乏性貧血iron deficiency anemiaはどのような機序(mechanism)で起こるのか記述(describe)して下さい.赤血球erythrocyteは造血幹細胞hematopoietic
stem cell(多能性幹細胞pluripotent stem cell),赤芽球erythroblastからエリスロポエチンerythropoietinにより分化differentiationしてくる.血色素(ヘモグロビンhemoglobin)は鉄ironを含むヘムhemeとグロビンglobin蛋白質から構成されている.鉄欠乏性貧血は小球性(平均赤血球容積Mean corpuscular volume, MCVの低下),
低色素性(平均赤血球ヘモグロビンMean corpuscular hemoglobin, MCHの低下)の貧血で,貧血ではもっと最も多く認められる。血清鉄serum iron値は低下し,鉄を運搬する蛋白質トランスフェリンtransferrin(総鉄結合能total
iron binding capacity, TIBC)値, 不飽和鉄結合能(unbound
iron binding capacity, TIBC)値が増加する。食物中の鉄はFe3+であるが,胃酸gastric
acidで還元reductionされてFe2+となって小腸から吸収される.ヘムの鉄は肝liverや骨髄bone
marrowに蓄えられている.鉄はFe3+の形でフェリチンferritin蛋白質に結合している.体内に貯蔵されている鉄の量を反映する血清フェリチン値は低下する。食事中の鉄が少ない場合や発育に伴って鉄の需要が多い乳幼児や思春期に起こりやすい.牛乳cow’s milkの飲みすぎにより,鉄の吸収障害がおこる,牛乳貧血cow’s milk anemiaも存在する.関節リウマチrheumatoid arthritis,慢性細菌感染症chronic
bacterial infection, 悪性腫瘍malignant tumorなどの慢性疾患による二次的secondaryな鉄欠乏性貧血では血清鉄,TIBCは低下しているが, 血清フェリチン値は正常あるいは増加している。これはトランスフェリンの産生の減少と消耗consumptionが起こり,細網内皮系細胞reticuloendothelial cellに取り込まれた鉄の放出が障害されたものと考えられる。
問題10.血液による酸素運搬機構oxygen transport mechanismについて記述して下さい. 生体が酸素を肺で取り込み,組織で栄養源物質の酸化に用いるまでの酸素供給機構をいう.酸素は,血液中では大部分が赤血球内のヘモグロビンhemoglobin(Hb)と化学的に結合した化学的溶解であり,物理的溶解は1%程度である.Hbが酸素と結合して酸素Hb(オキシヘモグロビンoxyhemoglobin)になる程度は酸素飽和度で示されるが,その価は血液が接する部位の酸素分圧に左右され,酸素分圧が高くなるほど酸素飽和度は100%に近づく.この関係を曲線で示したのだHbの酸素飽和曲線である.この曲線は二酸化炭素濃度の影響も受け,二酸化炭素濃度が高くなると,曲線は右方に偏位する.それは同じ酸素分圧であっても,二酸化炭素濃度の高いところの血液ほど酸素飽和度は低くなることを意味する.実際,二酸化炭素濃度の高い組織は二酸化炭素の生成の多い組織であり,活動の活発な組織である.このような組織ほど酸素の需要も大きいので,二酸化炭素濃度の高いところで,酸素Hbが酸素を放しやすくなっている.また血液pHの低下,組織温度の上昇,あるいは2,3DPG(diphosphoglycerate, bisphosphoglycerateともいう)の増加によっても酸素解離曲線は右方に偏位する.これらの現象をBohr効果(Bohr effect)という.2,3DPGは赤血球代謝の代謝産物であり,高所での慢性低酸素状態や,妊娠中にも増加する.妊娠中の増加は胎盤を通して胎児に酸素遊離を促進させている.組織への酸素供給は吸入酸素濃度,肺の換気条件,その組織への血流量,血液の酸素容量に左右される.組織への血流は心拍出量と血管床の収縮の程度により影響され,血液の酸素含有量は,溶存酸素,Hb量,Hbの酸素親和性により決定される.
看護形態機能学I試験問題 山田幸宏 平成14年(2002年)9月24日
正解を一つ選び,その番号を看護形態機能学I答案用紙に記入して下さい.
(問題1〕呼吸respirationについて正しいのはどれですか。
1.肺区域を単位として生じている肺炎を大葉性肺炎lobar pneumoniaという.
2. 気管支の枝の横紋筋が痙攣を起こすのが気管支喘息の発作であり,エピネフリンはこの筋の痙攣を改善する.
3.前縦隔anterior
mediastinumの位置に左肺および右肺が存在する.
4.気管支bronchusは呼吸細気管支から先の壁が半球状に多数ふくれ出たものである.
5. 右気管支の分岐はより垂直に分岐しており,誤嚥は右肺に多い.
(問題2)
呼吸respirationについて正しいのはどれですか。
1.ヘモグロビンhemoglobinのヘムheme部分は4個の銅原子が含まれており,この銅原子の部分に酸素が結合する.
2.ヘモグロビンに対する親和性は, 酸素O2は二酸化炭素CO2と比べて200倍強い.
3.70%のCO2は血漿中で重炭酸イオン(HCO3-)として運搬される.
4.二酸化炭素CO2がヘモグロビンhemoglobinのグロブリンglobulin部分と結合したものをカルバミノヘモグロビン(Hb-CO2)という.
5.組織の毛細血管と組織の細胞との酸素と二酸化炭素の移動を呼吸鎖respiratory chainという.
〔問題3〕腎kidneyに対する作用で正しいのはどれですか.
1.副腎皮質adrenal
cortexから分泌されるアンギオテンシンangiotensinはカリウムの再吸収を促進する.
2.副甲状腺parathyroid
glandから分泌される副甲状腺ホルモンparathyroid hormoneは遠位尿細管distal
tubuleにおけるカルシウムの再吸収を抑制する.
3.下垂体後葉posterior
lobeから分泌される抗利尿ホルモンantidiuretic hormone(バゾプレッシンvasopressin)は遠位尿細管および集合管での水の再吸収を促進する.
4.副腎皮質から分泌されるアルドステロンaldosteroneは遠位尿細管におけるナトリウムの排泄excretionを促進する.
5. アルドステロンは遠位尿細管でのカリウムの再吸収reabsorptionを促進する.
(問題4)炎症inflammationについて正しいのはどれですか.
1.炎症がある場合には,発赤redness,疼痛pain,発熱heat,腫脹swellingなどは通常伴わない.
2.炎症反応の場合,血管は収縮vasoconstrictionする.
3.炎症反応の場合,血管の透過性は亢進increased permeabilityする
4.炎症部位に好中球neutrophil, マクロファージmacrophage, 血小板plateletが遊走することを化学走化chemotaxisという.
5.ヒスタミン,免疫グロブリンは血管の拡張や透過性の亢進を引き起こすメディエーターmediatorである.
〔問題5〕リンパ球lymphocyteについて正しいのはどれですか.
l.T細胞T
lymphocyteおよびNatural killer細胞は胸腺thymus由来である.
2.ヘルパーT細胞(helper
T lymphocyte)の活性化activationは,抗原ペプチドantigen peptideを自己self主要組織適合抗原major histocompatibility complex antigen(MHC) Class IIと結合した抗原提示細胞antigen presenting cell, APCによって行われ,細胞障害性T細胞cytotoxic T
lymphocyte, CTLの活性化はMHC Class Iと結合した抗原提示細胞antigen presenting cellによって行われる.
3.T細胞T
lymphocyteは骨髄芽球myeloblast細胞から分化differentiationする.
4.T細胞はガンマグロブリンgamma globulinを産生productionする.
5.形質細胞plasma
cellはB細胞から分化し,免疫グロブリンimmunoglobulin(抗体antibody)およびサイトカインcytokineを産生productionする.
〔問題6〕血液について正しいのはどれですか.
1.造血幹細胞hemopoietic
stem cellである多能性幹細胞pluripotent stem cellは自己再生能self-renewal
potentialがある.
2.血小板が障害を受けた血管内皮細胞の下にある細網線維reticular fiberにくっつくことを血小板接着platelet
adhesionという
3.トロンボプラスチンthromboplastin(プロトロンビナーゼprothrombinase)はフィブリノーゲンfibrinogenをフィブリンfibrinにする.
4.組織因子tissue
factorの活性化による血液凝固経路を内因性経路intrinsic pathwayといい,血管内皮細胞が障害を受けた場合の血液凝固経路を外因性経路extrinsic pathwayという.
5.ABO式血液型blood
typeの同種赤血球凝集素isohemagglutininはIgG抗体であり,Rh式血液型の同種赤血球凝集素はIgM抗体である.
(問題7)
神経について正しいのはどれですか.
1.神経インパルスnerve impulseはシナプス間隙synaptic cleftを越えて伝わることができる.
2.化学シナプスでchemical synapseのシグナルはシナプス前ニューロンpresynaptic neuronからのシナプス小胞synaptic vesicleのエキソサイトーシスexocytosisで神経伝達物質neurotransmitterが放出され,シナプス後ニューロンpostsynaptic neuronの細胞膜上の受容体receptorに結合する.シナプス後ニューロンの再分極が閾値thresholdに達すれば,神経インパルスnerve impulseが発生する.
3.アセチルコリンエステラーゼacetylcholinesteraseは神経伝達物質である.
4.エンドロフィンendorphinなどの神経ペプチドは3-40個のアミノ酸がペプチド結合してできた神経伝達物質で,
疼痛を引き起こす物質である.
5.電位依存性voltage-gated
Na+チャネルは再分極相repolalizing phaseに開口し,電位依存性K+チャネルは脱分極depolalizing phaseに開口する.
(問題8)
細胞膜を通る物質の移動について正しいのはどれですか.
1.促進拡散facilitated
diffusionは,特定の物質を運ぶトランスポーターとして働く内在性蛋白質の助けを借りた物質の細胞膜を超える移動であり,ATPのエネルギーを必要とする.
2.Na+K+交換ポンプexchange
pumpはNa+の細胞外への汲み出しと細胞内へのK+の取り込みを行うポンプであり,ATPのエネルギーを必要とする.
3.シンポーターsymporterはNa+と二次物質が同じ方向に移動する場合の受動輸送passive transportを行う.
4.貪食作用phagocytosisが行われる場合,リソソームlysosomeと食胞phagosomeは融合せず,ファゴリソソームphagolysosomeは形成しない.
5.リンパ球lymphocyteとマクロファージmacrophageは貪食作用がある.
看護形態機能学I答案用紙(解答例) 山田幸宏 平成14年(2002年)9月24日
問題1. 5 問題2. 3 問題3. 3 問題4. 3 問題5. 2 問題6. 1 問題7. 2 問題8. 2
問題9.ホルモンhormoneの産生production と分泌secretionの調節regulation
について記述(describe)して下さい.ホルモンhormoneの産生production と分泌secretionは生体の恒常性homeostasisを維持するためさまざまな機序mechanismにより調節regulationされている.第1には血中のホルモン濃度の変化による調節機序がある.副甲状腺ホルモンの分泌は血中カルシウム濃度が減少すると増加し,血中カルシウム濃度が増加すると減少する.インスリンの分泌は血糖が減少すると現症し,血糖が増加すると増加する.これらの調節をネガティブフィードバックnegative feedbackという.第2には自律神経による調節機序がある.膵臓のランゲルハンス島から分泌されるインスリンやグルカゴンの分泌は自律神経の影響を受ける.交感神経刺激によりグルカゴンの分泌は増加する.消化管ホルモンであるセクレチンsecretinやコレシストキニン・パンクレオザイミンcholecystokinin/pancreozyminは迷走神経刺激により亢進する.カテコールアミンの分泌は交感神経刺激で亢進する.第3には上位ホルモンによる調節機序がある.下垂体前葉からは各種の刺激ホルモンが分泌される.それぞれの刺激ホルモンに対するレセプターreceptorを持った下位の内分泌腺からのホルモン産生が増大する.たとえば甲状腺刺激ホルモンにより甲状腺ホルモンの分泌が亢進する.第4 にはフィードバック feedback機構による調節機序がある.下垂体から分泌されるホルモンはそのホルモンが作用する下位のホルモンの血中濃度により調整される.たとえば血中の甲状腺ホルモン濃度が上昇すると甲状腺刺激ホルモンの分泌が抑制され,甲状腺ホルモン濃度が低下すると甲状腺刺激ホルモンの分泌が亢進する.これらの調節をネガティブフィードバックnegative feedbackという.第5には視床下部による調節機序がある.視床下部から各種の下垂体前葉ホルモンの分泌を刺激したり抑制したりする放出ホルモンreleasing hormoneが分泌されている.
問題10.抗原提示細胞antigen presenting cellによる抗原antigenの処理processingと提示presentationについて記述して下さい.免疫応答反応immune response reactionが惹起されるためには,外来抗原が存在することをT細胞とB細胞が認識する必要がある.B細胞は組織液tissue
fluidの抗原,すなわち,可溶性抗原soluble antigenを認識できるのに対して,T 細胞による抗原認識は抗原ペプチドantigen peptideを自己self主要組織適合抗原major histocompatibility complex (MHC)と結合した抗原提示細胞antigen presenting cell, APCによって行われる.すなわち,ヘルパーT細胞helper T cellの活性化activationは,抗原ペプチドをMHC Class IIと結合したAPCによって行われ,細胞障害性T細胞cytotoxic
T lymphocyte, CTLの活性化はMHC Class Iと結合したAPCによって行われる.
APCとしては,樹状細胞dendritic cell,マクロファージmacrophage,B細胞が存在する.樹状細胞は胸腺,リンパ節では,指状嵌入細胞interdigitating cell,表皮では,Langerhans細胞,脾では相互連結細胞interdigitating
cell, IDCあるいは濾胞樹状細胞follicular dendritic
cell,FDC, 輸入リンパ管ではベール細胞veiled cellと呼ばれている.APCは外来抗原を取り込み,抗原を断片に消化し,その断片をMHCに結合させ,自身の細胞膜cell membraneに2つの複合体を組み込む.その後,APCはリンパ管に入り,抗原と出会った部位からリンパ節へと移動する.APCは処理された抗原断片と一致する抗原レセプターを持つT細胞と結合し,T細胞は細胞媒介性免疫応答反応cell-mediated immune
response reactionを惹起する.
看護形態機能学I試験問題 山田幸宏 平成15年(2003年)9月30日
正解を一つ選び,その番号を看護形態機能学I答案用紙に記入して下さい.
(問題1)神経nerveについて正しいのはどれですか
1.脳神経cranial nervesは中枢神経系central
nervous systemに属する.
2.脊髄spinal cordは末梢神経系peripheral
nervous systemに属する.
3. 脊髄神経spinal nervesは中枢神経系central
nervous systemに属する.
4.間脳diencephalonは視床thalamusと視床下部hypothalamusから構成される.
5.大脳基底核basal gangliaは尾状核 caudate nucleus,被殻putamen淡蒼球globus pallidusおよび大脳辺縁系limbic systemにより構成される
(問題2)泌尿器系urologic(urinary) systemに関し正しいのはどれですか.
1.腎血管性高血圧では血中グルココルチコイドglucocorticoidが増加する.
2.腎性貧血renal
anemiaは骨髄から分泌secretionされるエリスロポエチンerythropoietinの過剰分泌が原因である.
3.交感神経sympathetic
nerve刺激により膀胱urinary bladder壁の筋が収縮contractionし,また膀胱括約筋urinary bladder
sphincterはゆるみ,排尿urinationが起こる.
4. 腎小体renal corpuscle(マルピギー小体Malpighian
corpuscle)は糸球体glomerulus,ボウマンBowman嚢および尿細管renal tubuleからなる.
5. 糸球体濾過値glomerular filtration rateを測定するときにはクレアチニンクリアランスcreatinine clearance
を測定する.
〔問題3〕腎kidneyに関連するホルモンの作用ついて,正しいのはどれですか.
1.副腎皮質adrenal cortexから分泌されるアンギオテンシンangiotensinはカリウムの再吸収を促進する.
2.副甲状腺parathyroid glandから分泌される副甲状腺ホルモンparathyroid hormoneは遠位尿細管distal
tubuleにおけるカルシウムの再吸収を抑制する.
3.下垂体後葉posterior lobeから分泌される抗利尿ホルモンantidiuretic hormone(バゾプレッシンvasopressin)は近位尿細管および遠位尿細管での水の再吸収を促進する.
4.副腎皮質から分泌されるアルドステロンaldosteroneは遠位尿細管におけるナトリウムの排泄excretionを促進する.
5. アルドステロンは遠位尿細管でのカリウムの再吸収reabsorptionを抑制する.
(問題4)炎症inflammationについて正しいのはどれですか.
1.炎症がある場合には,発赤redness,疼痛pain,発熱heat,腫脹swellingなどを通常伴う.
2.炎症反応の場合,血管は収縮vasoconstrictionする.
3.炎症反応の場合,血管の透過性は亢進increased permeabilityしない.
4.炎症部位に好中球neutrophil, マクロファージmacrophage, 血小板plateletが遊走migrationすることを化学走化chemotaxisという.
5.ヒスタミン,免疫グロブリンは血管の拡張や透過性の亢進を引き起こすメディエーターmediatorである.
〔問題5〕リンパ球lymphocyteについて正しいのはどれですか.
l.T細胞T lymphocyteは胸腺thymus由来である.
2.細胞障害性T細胞cytotoxic T
lymphocyte, CTLの活性化activationは,抗原ペプチドantigen peptideを自己self主要組織適合抗原major
histocompatibility complex antigen(MHC) Class IIと結合した抗原提示細胞antigen
presenting cell, APCによって行われ,ヘルパーT細胞(helper T lymphocyte)の活性化はMHC
Class Iと結合した抗原提示細胞antigen presenting cellによって行われる.
3.T細胞T lymphocyteは骨髄芽球myeloblast細胞から分化differentiationする.
4.T細胞はガンマグロブリンgamma
globulinを産生productionする.
5.形質細胞plasma cellはB細胞から分化し,免疫グロブリンimmunoglobulin(抗体antibody)およびサイトカインcytokineを産生productionする.
〔問題6〕血液bloodについて正しいのはどれですか.
1.造血幹細胞hemopoietic stem cellである多能性幹細胞pluripotent stem cellは自己再生能self-renewal potentialと分化能differentiation
potentialがある.
2.血小板が障害を受けた血管内皮細胞の下にある細網線維reticular fiberにくっつくことを血小板接着platelet adhesionという
3.トロンボプラスチンthromboplastin(プロトロンビナーゼprothrombinase)はフィブリノーゲンfibrinogenをフィブリンfibrinにする.
4.組織因子tissue factorの活性化による血液凝固経路を内因性経路intrinsic pathwayといい,血管内皮細胞が障害を受けた場合の血液凝固経路を外因性経路extrinsic pathwayという.
5.ABO式血液型blood typeの同種赤血球凝集素isohemagglutininはIgG抗体であり,Rh式血液型の同種赤血球凝集素はIgM抗体である.
(問題7) 神経について正しいのはどれですか.
1.神経インパルスnerve impulseはシナプス間隙synaptic cleftを越えて伝わることができる.
2.化学シナプスでchemical synapseのシグナルはシナプス前ニューロンpresynaptic neuronからのシナプス小胞synaptic
vesicleのエキソサイトーシスexocytosisで神経伝達物質neurotransmitterが放出され,シナプス後ニューロンpostsynaptic neuronの細胞膜上の受容体receptorに結合する.シナプス後ニューロンの再分極が閾値thresholdに達すれば,神経インパルスnerve impulseが発生する.
3.アセチルコリンエステラーゼacetylcholin esteraseは神経伝達物質である.
4.エンドロフィンendorphinなどの神経ペプチドは3-40個のアミノ酸がペプチド結合してできた神経伝達物質で, 疼痛を引き起こす物質である.
5.電位依存性voltage-gated Na+チャネルは再分極相repolalizing phaseに開口し,電位依存性K+チャネルは脱分極depolarizing phaseに開口する.
(問題8) 細胞膜を通る物質の移動について正しいのはどれですか.
1.促進拡散facilitated diffusionは,特定の物質を運ぶトランスポーターとして働く内在性蛋白質の助けを借りた物質の細胞膜を超える移動であり,ATPのエネルギーを必要とする.
2.Na+K+交換ポンプexchange
pumpはNa+の細胞外への汲み出しと細胞内へのK+の取り込みを行うポンプであり,ATPのエネルギーを必要とする.
3.シンポーターsymporterはNa+と二次物質が同じ方向に移動する場合の受動輸送passive transportを行う.
4.貪食作用phagocytosisが行われる場合,リソソームlysosomeと食胞phagosomeは融合せず,ファゴリソソームphagolysosomeは形成しない.
5.リンパ球lymphocyteとマクロファージmacrophageは貪食作用がある.
看護形態機能学I答案用紙 山田幸宏 平成15年(2003年)9月30日
学籍番号 氏名
問題1 4 問題2 5 問題3 5 問題4 1 問題5 1 問題6 1 問題7 2 問題8 2
問題9.鉄欠乏性貧血iron deficiency anemiaはどのような機序(mechanism)で起こるのか記述(describe)して下さい.赤血球erythrocyteは造血幹細胞hematopoietic
stem cell(多能性幹細胞pluripotent stem cell),赤芽球erythroblastからエリスロポエチンerythropoietinにより分化differentiationしてくる.血色素(ヘモグロビンhemoglobin)は鉄ironを含むヘムhemeとグロビンglobin蛋白質から構成されている.鉄欠乏性貧血は小球性(平均赤血球容積Mean corpuscular volume, MCVの低下),
低色素性(平均赤血球ヘモグロビンMean corpuscular hemoglobin, MCHの低下)の貧血で,貧血ではもっと最も多く認められる。血清鉄serum iron値は低下し,鉄を運搬する蛋白質トランスフェリンtransferrin(総鉄結合能total
iron binding capacity, TIBC)値, 不飽和鉄結合能(unbound
iron binding capacity, TIBC)値が増加する。食物中の鉄はFe3+であるが,胃酸gastric acidで還元reductionされてFe2+となって小腸から吸収される.ヘムの鉄は肝liverや骨髄bone marrowに蓄えられている.鉄はFe3+の形でフェリチンferritin蛋白質に結合している.体内に貯蔵されている鉄の量を反映する血清フェリチン値は低下する。食事中の鉄が少ない場合や発育に伴って鉄の需要が多い乳幼児や思春期に起こりやすい.牛乳cow’s milkの飲みすぎにより,鉄の吸収障害が起こる,牛乳貧血cow’s milk anemiaも存在する. 関節リウマチrheumatoid arthritis,慢性細菌感染症chronic
bacterial infection, 悪性腫瘍malignant tumorなどの慢性疾患による二次的secondaryな鉄欠乏性貧血では血清鉄,TIBCは低下しているが, 血清フェリチン値は正常あるいは増加している。これはトランスフェリンの産生の減少と消耗consumptionが起こり,細網内皮系細胞reticuloendothelial cellに取り込まれた鉄の放出が障害されたものと考えられる。
問題10.T細胞T
cellの細胞媒介性細胞障害cell-mediated cytotoxixityについて記述して下さい.
生体の免疫監視機構immunological
surveillance systemには免疫担当細胞immunocompetent cellが直接,ウイルス感染細胞,癌細胞を殺し,排除しようとする仕組みがあり,これを細胞媒介性細胞障害あるいは細胞媒介性細胞障害作用とよぶ.この反応を担当する免疫担当細胞はキラー細胞killer cellと呼ばれ,キラーT細胞killer T cell(細胞障害性T細胞cytotoxic
T cell, CTL),ナチュラルキラー細胞natural killer cells,LAK細胞lymphokine-activated
killer cells,マクロファージmacrophageなどが存在する.キラーT細胞は細胞媒介性細胞障害作用を持つT細胞であり,T細胞抗原レセプター(T cell antigen receptor, TCR)を介して,主要組織適合抗原複合体(major histocompatibility antigen complex,
MHC)を認識して標的細胞target cellsを破壊する.この過程は,標的細胞との結合過程,致死的一撃lethal hitを与える過程,標的細胞の破壊過程から成る.標的細胞との結合過程においてはT細胞抗原レセプターと,T細胞上のCD28分子と抗原提示細胞(antigen presenting cells, APC)上のCD80分子などの共刺激(副刺激)costimulationが必要である.致死を与える過程ではパーフォリンperforin,
グランザイムgranzymeなどの致死的一撃を与える因子がCTLから放出される.致死的一撃を加えられた標的細胞は死へのプログラムが完了programmed cell deathしており,CTLを反応系から除いても,標的細胞は死滅する(アポトーシスapoptosis).CTLはこの一連のサイクルが完了すると,次の標的細胞へ結合し,つぎつぎと細胞を破壊することができる.