特別講演2:

 発汗異常のニューログラム解析

岩瀬 敏*,山本清人**,間野忠明*** 
名古屋大学環境医学研究所自律神経分野*
名古屋第一赤十字病院血管外科**
公立学校共済東海中央病院長***

 皮膚交感神経活動は,皮膚の汗腺および皮膚血管括約筋を支配する交感神経活動であり,ヒトの体温調節系に重要な役割を果たす.一方,ヒトに対する精神的ストレスにも反応し,精神的発汗,血管収縮をきたす.皮膚交感神経活動の性質について述べ,そのうちの発汗神経活動と発汗との関係について概説する.各種病態における皮膚交感神経活動の変化,特に,手掌・足底多汗症について紹介する.
 多汗症は体温調節に必要な量を超えて発汗する病的状態と定義される.特に手掌・足底多汗症は,手掌に多大な発汗が起こるため,社会的・職業的な困難を生ずる.本症は青年初期に発症し,手掌,腋窩,足底に「したたりおちるような」と表現される発汗を認める.疫学的には,人口の0.6〜1%程度の頻度だといわれる.
 さて,本症の起源は,胸部あるいは腰部の交感神経節切除により改善されるため,交感神経の過剰活動と考えられている.そこで本症における皮膚交感神経活動の記録を試み,各種賦活を行ってその反応性を解析した.手掌や足底のような無毛部とその他の有毛部を支配する皮膚交感神経活動は異なると考えられているため,無毛部支配の脛骨神経と有毛部支配の腓骨神経から皮膚交感神経活動を記録し,暗算(100から7を減算させる),スタート用ピストルによる音刺激,驚愕に必要なくらいの電気刺激,深呼吸の賦活化を負荷した.
 患者は平均年齢24.6±7.3歳の男性2名,女性3名で,ベッド上安静を保った後,皮膚交感神経活動を脛骨神経と腓骨神経から記録した.25℃の環境温にて安静後に上記の負荷を加えた後,環境温を35℃に上げ,温熱負荷に対する反応を観察した.
 その結果,安静時の脛骨神経における皮膚交感神経活動は,対照に比し有意に増加しており,さらに暗算,加温などに対する反応も亢進していた.腓骨神経における皮膚交感神経基礎活動は対照と差がなく,賦活化に対する反応も対照と差がなかった.発汗神経活動のみならず血管運動神経活動も亢進しており,蒸散と血管収縮のため,皮膚温に低下がみられた.
すなわち,手掌・足底多汗症においては,無毛部支配の皮膚交感神経安静時活動が亢進しているのみならず,精神的,物理的負荷に対する反応性が亢進していることが判明した.
 本症の治療は,古くから薬物療法,イオントフォレーシスなどが行われてきたが,最近になりペインクリニックが導入され,さらに胸腔鏡下胸部交感神経切除術が積極的に行われるようになってきた.本治療法についても述べる予定である.


前ページへ戻る

第8回日本発汗学会ホームページへ戻る