狩 猟 日 誌
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1999年10月→1999年11月

つじあやの 『君への気持ち』
(VICTOR ENTERTAINMENT/VICL60459)


 メジャーデビューです。万歳。

 つじあやのといえば、ウクレレ。しかし本作の第一印象は「ウクレレの音があんまり聞こえてこない」。しかし翳りある声とシンプルはソングライティングは変わることなく、また、「僕」・「君」のみで展開する素朴な歌詞(これがまた良いんだよな)も相変わらずです。

 6曲入りのミニアルバムにもかかわらず、曲ごとにプロデューサーが違います。斉藤誠のプロデュースする2・6曲目では、彼女の声とトレードマークのウクレレの魅力を十分に生かしつつ、斉藤自身のギターで奥行きを付けた曲に仕上がっています。いままでの彼女のスタイルを発展させた構成に、聴いていて安心感を覚えますね。あ、彼のプロデュース曲では、歌詞もよく聞こえてきますね。

 ホーンを大胆に取り込んだ めいな.co の1・4曲目、 バンジョーがフィーチャーされる本山晴一郎の3曲目は賛否両論といったところでしょうが、ウクレレが聞こえてこないので、逆にソングライターとしての彼女の才能が十分に伝わってきます。

 さて、今後彼女はどうなっていくんでしょうか?個人的にはあまり小細工しないで、斉藤誠プロデュースのような曲を集めたフルアルバムを作ってくれることを期待しますが、たぶんどのようなスタイルを取っても、彼女の本質は変わらないでしょう。だって、彼女にとってウクレレは、単に手段でしかないのだから、ね。



THE HIGH LLAMAS 『SNOWBUG』
(V2 RECORDS JAPAN/V2CL58)


 ヴァイブとマリンバが気持ちよく鳴り響く。漂うように緩やかなビートは、1/fゆらぎ(揺らいじゃいないけどさ)のように心地よい。

 good sleeping musicですね、これは。

 でも彼ら、アルバムを出すにごとに、STEREOLABとの音楽的な距離がどんどんと近くなっているような気がする。ほんとにこれでいいのでしょうか?まあ、個人的には好きだからさ、どっちでもいいんだけどさ。ちょっと違う動きも期待したりするんだよね 。



DOG HAIR DORESSERS 『オレンジジュース』
(So What? Records/ESCB2017)


 太田朝子のボーカルは炭酸水のようだ。決して美しいとは言えないんだけど、なぜかとても清々しい。

 デビューマキシをレビューしたとき、「Kelly Dealっぽい」なんて書いたけど、こうやって2作目を聴いていると、グランジ系女性ボーカルにありがちなフェミニズムというか「雌」的な雰囲気は微塵も感じられない。

 本作は基本的にデビューマキシから何も変わっていない。また、新しい発見もない。でも、ギターをかき鳴らしながら、軽やかに通り過ぎていくような彼女の声は、ウェットな日本のミュージックシーンの中ではとても貴重だと思う。



さかな 『welcome』
(TOKUMA JAPAN COMMUNICATIONS/TKCA-71673)


 昨年来、個人的にかなりはまっているさかな。

 さかなの曲って、あまりドラマティックな展開をみせないものの、一度填ると抜け出すことはできないものばかり。それは本作でも同様で、二人の作る曲はとても冴えている。全体的には『my dear』の流れを汲むバンドサウンドであるが、明らかに『Little Swalow』におけるコラボレーションを通過した音になっているような気がする。

 本作で最も驚いたのは1曲目。pocopenの書く哀愁を帯びた曲、それに絡むヴァイオリン。あたかもギターを弾くようにヴァイオリンを奏でる勝井祐二。これが凄い。うーん、ライブで聴いてみたい曲だ。



大正九年 『三つの世界』
(KIRAKIRA RECORD/KRDL-5)


 『パパパラブロマンス』から一変、マイナー調の曲が並びます。でも本質的には何ら変わってないので、ひとまず安心。

 しかしこういうスタイルを取ると、一気にナゴムチックになってしまうのが悲しいところ。どの曲も内省的でいい曲なんだけどね。

 CDのオビによれば、次はインスト物だそうで。今度は是非とも明るくいってもらいたいものです。



サニーデイ・サービス 『MUGEN』
(MIDI/MDCL1356)


 出ましたね、ついに。こんなに楽しみに待ったサニーデイは初めてです。

 『愛と笑いの夜』(正確にはマキシシングル『ここで逢いましょう』)から続いていたパキンとした緊張感が全く無くなっていて、非常に愛らしい作品群になってます。曽我部氏のエゴなんて皆無ですよ。

 今回の作品は聴く人への贈り物として、丁寧に、丁寧に作ったらしいですね。でも多分、曽我部氏の贈り先には野郎の顔は見えてないんでしょうけど。

 僕は男には興味がないので、「きゃー、曽我部さぁーん!いやーん、もう!」なーんて感覚は起きないのですが、この作品を聴いていると、好きな女の子に対して「変態」になっていく友達を見ているようで、なんとも不思議な気分になります。

 そうそう、そういう時って決まって、友達に対してある種の微笑ましさを感じるとともに、そんな行動がとれない自分が悔しかったりするんですよね。この作品を聴いていると、まさにそんな感覚を抱きます。

 ああ、正直、曽我部氏の「狂気」にジェラシーを感じてしまうなぁ。いやぁ、せきぐちもまだまだ青いっってことですかね。心の蒙古斑はまだ消えてないのかも。



坂本真綾 『プラチナ』
(VICTOR/VIDL-30450)


 小刻みなビートに、高揚感のあるストリングス。前作「走る」の流れを汲む曲です。まあ、リズム感が抜群で安定した歌唱力のある彼女だからこそ、この高揚感を生み出しているのでしょう。

 作曲・アレンジを手がける菅野よう子とのコラボレーションはいつ聴いても素晴らしいですね。坂本真綾、菅野よう子、どちらが欠けても成立しない、究極のアイドルポップス。



椎名林檎『本能』
(東芝EMI/TOCT-22010)

椎名林檎『幸福論』
(東芝EMI/TOCT-22011)


 かなり久々林檎嬢。

 『本能』は3曲目のジャズナンバー「輪廻ハイライト」が何かと話題になってますが、やはり表題曲「本能」の出来が素晴らしいと思います。「丸の内サディスティック」のリズミカルなピアノを踏襲しつつもさらにハード。そしてストリングスを絡めてさらにドラマティック。現在の林檎嬢の充実振りを表す、かなり完成度が高い曲。

 続く「あおぞら」は林檎版ソフトロック。ダブルトラックのボーカルとフリューゲルホルンが涅槃へと誘うピュアポップ。でも、ギミック的に挿入されるノイズは、別に無くても良かったんじゃないかな。あまりにイノセンスな音なので、亀田誠治も不安だったのかも。

 そして最後はCMでもおなじみのジャズナンバー「輪廻ハイライト」。マジですね、これは。それにしてもはまりすぎ。

 マキシ再発の『幸福論』は「時が暴走する」を追加。あ、あとデビューシングルと聴き比べてみるとちょっぴり音がでかくなってます(笑)。

 「時が暴走する」はピアノとドラムのブッ壊れスレスレの美しい曲。個人的には『本能』の3曲とあわせて最も好きな曲ですね。

 ところで、『無罪モラトリアム』でも<悦楽編>として「幸福論」を再録していましたが、この「デビューシングルの否定」ともとれる一連の行動は、果たして何を意味するのか。まあ作品群としての『幸福論』は、「時が暴走する」が追加されたことで、一応の完成形と考えてよいのでしょう。

 ただ林檎嬢の現在の充実ぶりからすれば、『幸福論』再リリースは明らかにロスタイム。後ろを振り返るなんて彼女らしくないと思うのは私だけ?



PARDON KIMURA  『Tunami Sounds presents The Series of LOCALS』
(BLEACH/YTPR-5805)


 「Tunami Sound Constructions」とありますが、ヤン富田の新しいプロジェクトなんでしょうか?ともかく、プロデュースはヤン富田。

 1曲目を聴いたときは、いかにもヤン富田らしい音だなと思いましたが、聴き進めていくにつれ、DJ shadowやHowie B.を彷彿させるものあり、シカゴ音響派っぽいものあり、お笑いコラージュありと、バラエティーに富んでいて、一連のAUDIO SCIENCE LABORATORYとはひと味違った印象を受けます。

 しかし、すべてに共通する独特の浮遊感は、ヤン富田にしか作り出せないものですね。ダウナーな感覚が一切排除されているのは、さすがとしか言いようがありません。

 こういう音楽は、たまに聴きたくなるから不思議。



空気公団 『「ここだよ」』
(Coa records/COAR-0002)

空気公団 『くうきこうだん』
(BUNBLEBEE RECORDS/BBCDE-004)


 サニーデイの新作よりも、椎名林檎の新曲よりも、実はヘビーローテーションの空気公団。

 デイジー、ストロオズと共にV.A『ジャパニーズ・ガールズ』に参加していた4人組です。『ジャパニーズ〜』はデイジーとの出会いが衝撃的過ぎて、他の参加アーチストは印象が薄かったのですが、ストロオズに続いてまたもや、という感じですね。

 楽しいことは日常にもあるはずというのが、このHP、whawedionourholidaysのテーマなんですが、『「ここだよ」』はそんな日常生活のサウンドトラックになりうる作品です。

 だけど、実際には楽しいことばかりじゃないんですよね。この作品ではそんな現実の生活が、「気が付けば嫌な言葉だけ増えていくばかり」(「退屈」)とか、「それは悲しいことなんだ/君がどんなに笑っても」(「ここだよ」)というような歌詞で正直に表現されたりもして、痛いながらもとても共感が持てます。そういった意味では市川準の作る映像と似ているかもしれません。

 全体的な印象としては、音質のモコモコ感や70年代的メロディーがサニーデイの新作に通じるような雰囲気((C)ムネカタさん)がありますが、サニーデイほどの気負いが感じられないのは、山崎ゆかりのボーカルによるところが大きいのでしょう。

 ただコーラスワークなどもかなり緻密で、どこかに芯の強さが感じられる音づくりはデイジーと共通します。力無いボーカルに騙されてはいけませんよ。

 『くうきこうだん』は今までカセットで発表していた作品を集めたアルバム。『「ここだよ」』に比べれば全体的な統一感はないのは当然ですが、2年分の日記を読ませてもらっているような感じがして、こちらもまた愛聴しています。

 2年前の曲などはかなり荒削りな印象もありますが、基本的には現在と変わらない姿勢が見受けられますね。どうやら彼女らはこの2年間、ライブをやってないらしいのですが、日々の生活を音で綴る彼女らにとっては、ライブといった表現方法は必要ないんだろうな。『くうきこうだん』を聴いていると、それがよくわかります。



Jim O'rourke 『halfway to a threeway』
(P-VINE RECORDS/PCD4256)


 なんか今年はこの人にヤラれっぱなしですね。4曲入りミニアルバム。

 音数が少ない曲ばかりのせいでしょうか、全体的な雰囲気としては『Eureka』より繊細な音になっているような感じがします。

 特に1曲目。彼の爪弾くギターはもちろんのこと、それ以上にドラム/パーカッションの表情の豊かさが素晴らしいです。

 ただちょっと苦言を一つ。「自分探し」っていうのは、やっぱり内省的な方向に行っちゃうんでしょうかね。もうちょっと『Eureka』の持っていたポジティブな音を進めて欲しかったような。そんな印象を拭えないのも事実。

 でも、次作を楽しみに待っている自分がいることも事実。