d i a r y
b a c k



2001年3月30日

today is …

Leo Kottke 『6 AND 12 STRING GUITAR』
 (TAKOMA/TAKCD-6503-2 ['69])

 優しい雰囲気の曲もありますが、テンポの速い数曲では、聴いている者をトランス状態に陥れるような見事なフィンガーピッキングを聴くことができます。「あっちに連れて行かれる」という点ではJohn Faheyと同じかもしれません。でもLeoが「トランス」ならば、Johnは「チルアウト」といったところでしょうか。コレを聴いてそんなことを逆説的に思ったりもしました。

 もうすぐ4月。でも、昨日は雪が降ってました。

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 年度末ということもあって、最近は数字合わせの仕事ばかり。「こっちでこうすると足が出るから、ここをこう変えて、こっちからこれだけ持ってきて…」なぁんてことを一日中続ける毎日です。

 正直言ってアホらしい仕事ですよ。でもね、私がもともと理科系だからかもしれませんが、いつの間にかこの数字合わせに快感を覚えていたりするんですよ私。目の前に並んだ数字をさまざまな規則に基づき、求めるべき解答へ導いていく。すると解答に近づくにつれ、徐々に私の頭はトランス状態になっていくのです。これっていわば「数字のインプロビゼーション」なのかも、なーんて思ったり思わなかったり。まぁもちろん、こればっか続けていてはイヤになりますけどね、違う脳みそをたまに使うのもいいかもしれないなーと思いました。

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 CD NOWに注文していたKaren Dalton 『It's So Hard To Tell Who's Going To Love You The Best』Leo Kottke 『6 AND 12 STRING GUITAR』が届く。

 Karen Daltonは鈴木惣一朗他著「ひとり」や鈴木カツ著「フォーキーミュージック」で見たジャケットからアシッドサイケっぽいのを想像していたのですが、ふたを開けてみればシブーいシブーいブルーズフォーク。ビリーホリデイを彷彿とさせるKarenのヴォーカルはあたかも暗闇に灯された蝋燭の炎のように暖かく、耳を傾けているだけで力がスーッと抜けていくようです。もっとも、こんなこと書きながらも実は私、ビリーホリデイは「奇妙な果実」しか聴いたことないのですけどね(笑)。

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 椎名林檎待望の新曲『真夜中は純潔』。表題曲はスカパラと林檎嬢との真剣勝負といった感じ。1,2度聴いた限りでは若干スカパラが優勢かと思いましたが、聴き込むにつれ徐々に林檎嬢の声がパノラマのように私の前に広がり、気がつけば椎名林檎以外の何ものでもない世界。いやはや、やっぱ姫は凄いわ。個人的には、従来のイメージを踏襲しながら新たな局面を見せてくれた3曲目「愛妻家の朝食」がお気に入りです。

 あーでも、女性ヴォーカルものを聴いたのって、月初めのつじあやの以来かもしれない。今月は、らしくないといえばらしくない1ヶ月だったような気がします(笑)。



2001年3月25日

today is …

TUDOR LODGE 『TUDOR LODGE』
 (VERTIGO/UICY-9030 ['71])

 Duncan Browneあたりと並び称されても良いような、ファンタジックなアコースティックギターの音色。トラディショナルなソフトロックという形容がしっくりくる、なんとも心地よい作品です。今週はコレばかり聴いていましたが、来年の春待ちの季節にも欠かせない作品となりそうです。

 年度末ですので微妙に忙しいです。(しつこい)

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 ダラダラとネットをしていたら、「建築物ウクレレ化保存計画」というなかなか興味深いサイトを発見。この「ウクレレ保存」とは、人の暮らしと深く関わった建築の廃材をウクレレという姿に変えてその想いを蘇らせるというもので、サイトでは昨年の7月に京都で開かれた展覧会の様子を伝えています。

 建築廃材を別な姿に変えることで建築に新たな生命を与えるというこのプロジェクト。建築が小さなウクレレになることで、建築本来が持っていた「記憶」が作品に凝縮されており、それぞれの個性豊かな「記憶」がネット越しにも伝わってくるようです。ウクレレの形状をほぼ同一とし、新たな生命自体に個性を与えていないことにも好感が持てますね。

 展示の様子から察するに、もしかしたら制作者は建築の保存ということにあまり重きを置いていないかもしれません。しかし、「取り壊し反対!」と声高に叫ぶわけではなく、あくまでも現状をポジティヴに受け入れているその保存姿勢に、私は何か「潔さ」というものを感じずにはいられませんのです。

 近年文化庁では重要文化財よりも規制の緩い「登録有形文化財」という制度をつくり、古建築の消滅を最小限にくい止めようと努力していますが、そこには「外側だけでもいいから残しましょう」という妥協にも似た観念が見え隠れしており、建築保存の最良の解答が得られたとは決して言い切れません。逆にこの制度、私は「建築の剥製化」を押し進めているだけのような気がしてしまい、個人的にはちょっと賛同しかねる部分もあったりするのです。

 そんな中途半端な行政の姿勢に比べ、このウクレレ保存はなんとも潔いではありませんか!もしかしたら、こういう柔軟な考え方こそが今の建築保存活動に必要なのかもしれませんね。

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 MAD RIVER 『MAD RIVER / PARADISE BAR & GRILL』PENTANGLE 『PENTANGLE』を購入。

 MAD RIVERは68年の1stと69年の2ndの2in1。1stはフツーのハードサイケですが、2ndのほうはカントリーっぽい曲もあったりしてなかなかの内容。この手のサイケバンドで2ndのほうが面白いというのは結構めずらしいんじゃないかな?

 『PENTANGLE』はブリティッシュトラッドの名グループPENTANGLEの1st。ベスト盤で聴いていた曲も数曲ありましたが、こうやって1つの作品として聴くと、そのヒリヒリとするような緊張感がたまらなく心地良いですね。

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 あらら。John Faheyに続いてJohn Philipsですかー。むむぅ、合掌。



2001年3月18日

today is …

Jack Nitzsche 『The Lonely Surfer』
 (ULTRA DISTRIBUTION/UD2039 ['63])

 ジャケはダサいですが、内容は保証しますよ(笑)。




 年度末ですので微妙に忙しいです。

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 とはいえ、買うものは買ってるんですよねー。

・・・Jack Nitzsche 『The Lonely Surfer』
 Phill Spectorの片腕、Jack Nitzscheのソロ作。一聴すると明るいポップ・オーケストラなのですが、聴き込むほどに哀しみが見え隠れする、少しほろ苦い作品。『The Lonely Surfer』というタイトルがなんとも内容をよく示しています(ジャケットはダサいけど。)。

・・・John Fahey 『YELLOW PRINCESS』
 VANGURD/アメリカ音楽名盤道場10番勝負で再発された1枚。同時期の『AMERICA』『THE VOICE OF TURTLE』に比べ少し地味な印象がありますが、そのぶんリリカルでとても聴きやすいかも。

・・・PEARLS BEFORE SWINE 『ONE NATION UNDERGROUND』
 以前から「聴きたい聴きたい」思っていた、PEARLS〜のファースト。シンプルなアコースティックギターの曲と「ピロピロピー」と素っ頓狂なオルガンの曲が中心。いわゆる「アシッドフォーク」と呼ばれるものって雰囲気だけで終わっているものも多いですが、これは曲がしっかりしているので気持ちよく聴けます。うーんセカンドも探してみようかな。

・・・TUDOR LODGE 『TUDOR LODGE』
 ブリティッシュ・ロック・レジェンド・シリーズで再発の1枚。美しいアコースティックギター、そして牧歌的なフルートとホルン、とくれば私が嫌いなはずがないじゃないですか(笑)。プログレというよりはブリティッシュトラッドをファンタジックにしたような感じで、「ソフトロック」と呼ばれる音楽との親近性も感じられる作品です(ホントか?)。

・・・MELLOW CANDLE 『Swadding Songs』
 こちらもブリティッシュ・ロック・レジェンド・シリーズより。こちらはピアノをサウンドの中心に据えたエレクトリック・トラッド。しかしBLUES的な要素は皆無なので、同じく「エレクトリック・トラッド」と呼ばれるFAIRPORT CONVENTIONほどのときめきを私は感じることができませんでした。

・・・Peter Hammill 『FOOLS MATE』
 安かったので、なんか勢いで買ってしまいました。意外とポップなので驚きです。

 あ、あとCD NOWLeo Kottke 『Six & Twelve String Guitar』Karen Dalton 『It's To Hard To Tell Who's Going To Love You The Best』を注文。まったく、忙しい時ほど何かを聴きたくなるのはなぜなんでしょう?MOUSE ON MARSの新譜もまだ買ってないのに、もう懐が寂しくなってきましたよ。

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 携帯電話の機種変更を検討中です。しっかし最近のケータイは、画面を大きく見せようとしてるのか、カタチが「しゃもじ」みたいなものばっかりですね。必要以上の機能はいらないので、もう少しデザイン性の高いものってないのでしょうか。



2001年3月13日

today is …
 表
 裏
Geoff & Maria Muldaur 『POTTERY PIE』
 (Carthage Records/CGLP4428 ['70])

 2月の来日で過去の音源が再発されまくっているGeoff Muldaur。でもね、やはりまずはこれだと思いますよ。なお、上記のクレジットは再発レコードのもので、もともとはWarnerから。

 以前「レコードプレイヤーの調子悪い」と書きましたが、これは単にコンポを新調したときに「フォノイコライザー」とやらを調達していなかったからなのです。コンポの新調が一昨年の暮れ、そして「今そんなに聴きたいアナログ盤ないしなー別にいいや」と今の今まで放っておいたのですが、先週あたりからBonnie RaittとかPaul ButterfieldとかBob Dylanとか、ウッドストックあるいはブルーズフォーク的なものを耳が欲しはじめてしまったから、さあ困りました。実は私、ここら辺のものはアナログ盤で購入しているのが多いので、この状況では聴くに聴けないのですよ。

 これはイカンということで、「フォノイコライザー」とは何ぞや?という疑問を抱きながらも、買ってきましたヨドバシで。あーでも店員の対応がめちゃくちゃ酷かったなー。買う物が安いといろいろ聞いちゃいけないんでしょうかね…。むーん。

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 フォノイコライザーとやら(←まだよく分かってない)を経由するカタチでレコードプレイヤーとアンプを接続。さあそれでは、と私がまず針を落とすのはGeoff & Maria Muldaurの『POTTERY PIE』。GeoffとMaria、2人のソロ作ももちろん素晴らしいのですが、私は当時夫婦であった2人でつくられたこの作品が何とも愛おしくて大好きなのですよ。て、1年も聴いていないんじゃ、あまり説得力ないかな(笑)。

 ジャケットには、ベッドの中で寝そべりながら雑誌・新聞を読んでいる2人の姿。そして裏ジャケには、朝食(たぶん)を終えホッとするMariaとボーっと新聞を読むGeoffの姿。そこには仲睦まじいカップルのゆったりとした休日の様子が写し出されています。

 2人の出会いは1965年。当時Even Dozen Jug Bandに参加していたMariaは、バンド仲間であるJohn Sebastianに連れられてJim Kweskin And The Jug Bandのステージを見に行きます。そこで彼女はステージ上のGeoffに一目惚れ。そしてその後、彼を追ってケンブリッジへ向かい、そのまま結婚。この時、Geoff20歳、Maria22歳。このような事実を踏まえ、それから5年後の1970年に発表されたこの『POTTERY PIE』のジャケットをながめると、私は2人の間に生まれうる様々な物語を想像してしまうのですね。

 もちろん内容も、そんな2人の穏やかな休日を共有させてもらえるような曲ばかり。ジャズ、ブルース、オールドタイム、2人が奏でる心温まるグッドタイムミュージック。そんな収録曲に耳を傾けていると、「あーんもぅ」なんて嫉妬の言葉も出てくるっていうもんですよホント(なんつー感想だ…。)。

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 1972年、2人は突然に離婚。その後はお互いそれぞれに活動を続けています。Geoff Muldaurは今年、来日記念盤として『passward』をリリース。あれから30年、何と本作では娘さんがヴォーカルで参加。むむぅ、これまたいろんな物語を想像させますねぇ。

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 追記 : 3月7日、Geoff Muldaurが仙台でライブをやったらしいんですよ!会場はなんと小さなジャズ喫茶!うわー全然知らなかったー!いやーこれはホントショックだわ…。



2001年3月9日

today is …

The Rest Of Life 『Home Made Hell』
 (Hot-Cha Records/CUPCD009 ['00])

 西岡由美子さんの名前に惹かれなんとなく購入。しかし蓋を開けてみればクララサーカスとはまったく異なる、けだるいけだるいギターサイケ。こういう音楽は無条件にLOVEです。


 今週は出張の連続でしたー。月曜日は古川市で昭和初期につくられた水道施設の調査、火曜日は石巻市で同じく昭和初期に建てられた浄水場ポンプ室の調査、そして水曜日は泊まりがけで本吉町(気仙沼市のとなり)へ行き、この鉱山跡の調査。好きでやっているこの仕事ですが、いい加減お腹一杯になりますよホント。

 とは言うものの、この大谷鉱山には圧倒されました。すでに鉱脈が尽き、選鉱場の土台がむき出しとなって遺るのみのこの施設。しかし金が採掘されていた当時、この選鉱場には立派な覆屋が建ち、そしてさらにこの選鉱場の前には社宅・診療所・クラブハウスが建ち並び、一つの「街」のような賑わいをみせていたらしいです。おそらくこの周辺は、鉱山を「城主」にした「城下町」のような雰囲気だったのでしょう。しかし廃墟となった今、そんな当時の面影は微塵もなく、選鉱場跡がただ土に帰るために眠っているようでした。

 冷たいコンクリートだけが遺るこの廃墟、しかし不思議と我々を惹きつける何かがあるのです。汗水垂らして金を採掘し、仕事が終われば仲間と酒を酌み交わし、そして次の日も朝が来れば坑道の中に入っていく。もしかしたら、そんな坑夫たちの体温が今でも残り、人々を引き寄せる磁力となっているからかもしれませんね。

 だけど、こんな廃墟が現在私たちが生きている街以上に磁力があるなんて、なんだか皮肉な話です。とはいえ「それじゃ君は坑夫のように生きてみたいか」と問われれば、答えは「NO」なんですけどね。しかし、住んでいるような住んでいないような、そんな浮遊した人間(私も含めて)ばかりがいる街っていうのは決して面白くないよなーと、大谷鉱山を見て少しばかり反省したのは事実。根付く必要は決してないのだけれど、少なくとも蔦のように絡まってこの街に住む。とりあえずはそんな風に生きてみましょうか。

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 OZディスクから都市レコードの音源がリリースされるらしいです(詳細は不明)。でも喜んでいるのは私だけですか?



2001年3月3日

today is …

Bosco & Jorge 『Bosco & Jorge』
 (Blues Interactions/PDC-24053 ['01])

 BoscoことBill LowmanとJorgeことBrad Gallagherのアコースティックギターユニット。John Fahey(合掌)を彷彿とさせるフィンガーピッキングが心地よいM-1に始まり、その後も2人のギターをベースにフルート、チェロ、バンジョーなどを絡ませ、アメリカン・ルーツ・ミュージック的統一感を持たせつつもヴァラエティに富んだ作品に仕上げています。ALUMINUM GROUPやTORTOISEのメンバーが参加。

 sasakidelicさんトコのbbsでJohn Faheyが亡くなったことを知り、慌てていろいろ検索してみるも事実は掴めず。結局sasakidelicさんに教えてもらったトコを取っ掛かりとして、ココまでたどり着いたのですが、その過程で「PREFAB SPROUTの新作が5月にリリースされる」なんて情報を得たりして、嬉しいんだか悲しいんだか自分でもよく分からなくなったりしてます。

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 極端ってないと思うんです。侯賢孝の映画じゃないけど、人間には『嬉しいだけ』とか『悲しいだけ』の極端がないと思う。高校生のときの私は、すごく楽しい時期とすごく落ち込んでいる時期の差が激しかったんです。だから今は時間ごとにこうなるんやったら、生活の中に両方あると思うほうがラクというか。楽しいときは楽しいけど、でも悲しいときもある。両方あるのが普通やから。例えばすごく大事な人が亡くなって悲しいとき、一番辛いときなのに、不謹慎やけどその傍らにマンガ見て笑っている自分、テレビ見ておもろいと思っている自分がいる。好きな人のことを考えると楽しいとか…。だから渾沌としていると捉えたほうがいいというか、別に今悲しい、今楽しいとかじゃなくてその感情が常に渾沌としているほうが、自分の素直な気持ちだと思う。もちろん瞬間、瞬間で楽しいときも悲しいときもあるけど、でもそれがずっと同居していると考えれば一番いいかなと思ってます。

 以上、「SWITCH 2000年4月号」のつじあやのインタビューより抜粋。今の私はまさにこんな感じで、彼女の言葉を借りるなら「渾沌」ということになるのでしょう。そしてさらに「両方あるのが普通やから」と自分に言い聞かせていたりもするのです。

 「安心な僕らは旅に出ようぜ/思い切り泣いたり笑ったりしようぜ」とは、くるりの「ばらの花」の歌詞。つじあやのの言葉と立ち位置は同じであってもベクトルがまったく逆であるこの歌詞に、今更ながら自戒したりもする今日この頃。あやや、これこそまさに「渾沌」じゃないですか。

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 PREFAB SPROUTの新作はプロデュースがTony Viscontiとのこと。さぁて、どうなることやら。