d i a r y
b a c k



2000年9月27日

today is …

都市レコード 『都市ブルーズ』
 (Poet Portraits/PPR-11CD ['00])

 建物の窓を並べたジャケット。それだけで私の琴線に触れまくりなんですが、内容もこの上なく私好み。
 音数が少ないスカスカの演奏は「アシッドフォーク」という括りで語ることもできるでしょう(実際サウンド的にはDamon & Naomiあたりと似ていたりはします。)。一言で言えば「暗い」音楽なのですが、どこかに仄かな暖かさがあるからか聴いていてもまったくダウナーな気分になりません(少なくとも私は)。いやむしろ日本的叙情性が見え隠れする曲に呟くような男声のユニゾンが乗るそのスタイルに、今まで体験したことのないノスタルジーを感じることができ、なぜかとても幸せな気分になったりします(少なくとも私は)。

 日常生活はサウンドトラックにのせて…。

   *

 昼。空気公団の『くうきこうだん』。

 -楽しく悲しい毎日は穏やかに
 -君の声はいつもさみしげで
 -僕はそれがとてもいいと思うよ
 -いいと思うんだ

           「僕らのひみつ」

 モコモコとした音色に乗せて、背伸びをしない女性ヴォーカルが優しく響いてくる。何もないようでいても必ず何かがある日々の生活。いいことばかりじゃないし、わるいことばかりでもない。今日もそんな一日が過ぎていく。

   *

 夕方。都市レコードの『都市ブルーズ』。

 -膝を抱えながら
 -しだいにその目を閉じっていった
 -夕暮れのような顔をして
 -涙が落ちたら
 -昼の光でぬぐえばいいから

          「笑いを」

 ギター・ベース・ドラム・ピアノというシンプルな構成。テンポの緩い叙情的な曲。呟くような男声のユニゾン。静けさの中に仄かな暖かい雰囲気をもつその音は、聴いているだけで空が茜色になっていくよう。まもなく夜は訪れる。

   *

 夜。サニーデイ・サービスの『LOVE ALBUM』。

 -ねぇ 世界がもう目の前にあるような そんな夜ってないかい?
 -もう何もかも飽きてしまってもまだ終わらない夢のよう

          「夜のメロディー」

 流れていくようなグルーヴ感は、引っ張られるというよりはむしろ手をさしのべられるかのように優しく暖かい。夢とも現実ともつかない幸せな気分。「溜息を吐くと幸せが逃げていく」なんて嘘さ。この作品を聴くたびに私は何度も溜息を吐いてしまうんだから。

   *

 仕事が一段落したら、こんな一日を過ごしてみましょうかね。



2000年9月23日

today is …

Plush 『MORE YOU BECOMES YOU』
 (DRAG CITY/DC70CD ['98])

 Liam Hayesという輩のソロプロジェクト。全編ピアノの弾き語りであるが、ピアノにのせて聴かせる彼の声は、繊細というよりむしろ頼りなさげ。ちょうどSyd BarretがTony Kosinec『Bad Girl Song』のような作品を作ったらこんな風になる、と言ったら分かりやすいかな(←分かりづらいよ)。

 「僕がプロデュースするにあたりスピリチュアルな参考にしたのはPatty WatersやPlushのアルバムです。」
 (松田マヨ『夏』のオビに書かれた曽我部恵一氏のコメント(一部抜粋))

 そんな言葉に触発されてか、ここ最近Plush『MORE YOU BECOMES YOU』を改めて聴いていたりします。

 スピーカーから流れてくる彼の声そしてピアノの音は非常に細く儚く、それはもう開け放した窓から聞こえてくる虫の鳴き声にさえ掻き消されそうなほど。いや、むしろこの作品を聴いていると、遠くで聞こえる電車の音や犬の鳴き声、部屋の片隅で静かに唸っている冷蔵庫の音など、普段気にしていないノイズが不思議と耳に入ってくるのです。もしかしたらこの作品には、そのようなノイズを取り込んで一つの音楽として聴かせてしまう魔力があるのかもしれません。そう、ある意味でこれは「危うい」音楽だと思います。

 ということで、今日も窓を全開にし、この静かなノイズに溶けていくせきぐちなのでした(ちょっと寒いけど。)。


   *

 松田マヨも確かに危うい。しかしPlushのそれとはまた違っているような気がします。この話はまた後日書くかも。



2000年9月20日

today is …

soy 『soy 2』
 (polydor/UPCH-1001 ['00])

 佐橋佳幸(s)・小倉博和(o)・平松八千代(y)のトリオによる2ndは、70年代ポップスのフレイヴァーがたっぷりと詰まった好盤。変にマニアックな音に走っていないところに、大人の余裕が感じられます。この休暇、移動中にはこればかり聴いていました。

 僕の夏休み。

   *

■16日■

 休日初日から生憎の天気。しかしTGV@マーブルトロンは、雷鳴をふきとばせとばかり熱い男たちが会場を沸かせてくれました。

 「磯臭い」というよりはむしろ「涅槃」を描くような選曲で気持ちよかったムネカタさん。男泣きソウルの連発で女の子も泣かせた(?)まちださん。1st setではソフトだったものの2ndではまたもや大爆発のハルヲさん。「聴かせる」DJ&女性ヴォーカルモノの挿入の仕方がなんとも絶妙だったMASAさん。それが本人の狙いかはともかく、なぜか震えながら聴き入ってしまったオザワさん。そして相変わらず心憎い選曲を聴かせてくれたゲストの岸野社長。

 各人のプレイで沸いた会場でしたが、お祭りと言うよりはむしろサロンのような雰囲気で非常に心地よかったです。TGVの皆様、本当にご苦労さまでした。そしてお会いできたHOPEちゃんまちさんまるめろさんにも感謝感謝。

 横浜にある弟の家についたのは0:30。久しぶりに会ったにもかかわらず、話もそこそこに就寝。


■17日■

 雨が激しく降ったりやんだりと忙しないお天気。午前中渋谷のタワーで、渚にて『太陽の世界』『本当の世界』・都市レコード『都市ブルーズ』・cobalt『水の夢』・加藤千晶『ライラックアパート一〇三』を購入。その後Yと落ち合い、ホテルオークラ隣の大倉集古館へ。虎ノ門には似つかわしいキッチュな外観は何度見ても笑いを誘います。しかし建物に秘めたるそのパワーは、築後数十年経った今もまったく衰えておりませんね。いやむしろ近代的なビルに囲まれることによって、その力はどんどん増強しているとさえ思えてきます。

 集古館の展示物を一通り見た後、近くの東京タワーへも足を運ぶ。展望台にのぼり、東京という都市の小ささに今更ながら驚いたり、「世界のろう人形館」に入って、あまりのばかばかしさに大笑いしたり、気分はすでに東京観光。

 夜はYとあんなことこんなことを話しながら、杯を交わす。そんなこんなでこの日も弟の家についたのは0:00近く。


■18日■

 一人でお散歩@横浜。ドッグヤードでボーっとし、伊勢佐木町でブラブラし、鶴見線国道駅界隈でまったりとした、ある意味めちゃくちゃな一日。夕刻になって仕事から帰ってきた弟と一杯やった後、彼の部屋でいろいろとCDを聴かせてもらいました。

   *

 以上、フツーの日記でございました。



2000年9月15日

today is …

YO LA TENGO 『You Can Have It All』
 (Matador/Ole439-2 ['00])

 『Nothing Turned Itself Inside Out』からのシングルカット。何はともあれ、カップリングされているBONZO DOG BANDのカバー「Ready-Mades」に感動。原曲の美しさに決して負けていません。

 宮城大学で行われている連続シンポジュウム「都市・建築空間の場所性−居住空間を巡るオギュスタン・ベルグ連続対談−」を聴講してきました。第4回の今日は「郊外という空間」と題した三浦展との対談。…そうです。私が「郊外」というキーワードにそそられたことは言うまでもありません。

 話はまず三浦氏の郊外論に始まり、それにベルグ氏がコメントを付ける形態でした。どんな話になるのだろうと胸躍らせて会場へ向かったのですが、残念なことに「対談」というタイトルが付いているにも関わらず、それらしいものはほとんど行われませんでした。

   *

 『戦後、アメリカを手本に作られた郊外空間は、「新しさ」「清潔感」「財産の私有化」「上昇志向」の結晶であり、近代的価値を担った空間である。』と、多摩ニュータウン等のスライドとともに三浦氏はまずこう述べました。そして話は公園デビューに触れながら、『郊外は窮屈な状態になっている』と続けます。そしてその後、高円寺・下北沢に集う若者たちを例に挙げ(わざわざそれらスライドを用意して)、バブル崩壊後より起こり始めた「郊外を作り出した価値観」からの脱却についての説明が続きました。

 時折「私はこんなにトレンドを知っているんですよ」的な言動も見られましたが、様々なデータを元に分析したと思われる三浦氏の発言は、私を「なるほどねぇ」と頷かせるものばかり。ただ穿った見方をすれば、「なるほどそういう言い方ができるのね」という「弁明」の域を脱しないものが多かったと言えるかもしれません。しかしこういう批判は、彼の著作を読んでからにすべきことなので、この辺でやめておきましょうね。

 うーん。そういった意味では、あまり大きな発見のないシンポジュウムだったかな。ベルグ氏もあまり興味なさそうだったしね。ただ私よりも上の世代の聴講者の皆さんが高円寺・下北沢の現状を写したスライドに驚きの声をあげていたことが、なんともおもしろかったりもしましたけど。

 もっとも一番愉快だったのは、こんな話をこんな郊外でやっていること、ですけどね。

   *

 明日から遅すぎる夏休みで東京に行ってまいりやす。お会いする方々、ドーゾヨロシク。



2000年9月11日

today is …

モーニング娘。 『I WISH』
 (zetima/EPCE-5070 ['00])

 「ハッピーサマーウェディング」に続くシングル。夏の終わりに届けられたこの極上のポップソングは、いわば「ハッピーサマーエンディング」といったところか。彼女たちの声の素晴らしさはもちろんのこと、河野伸氏によるアレンジも非常に冴えてます。ああ、人生って素晴らしい…。


 暇なんで塩釜港に行って来ました。でもって、工場・コンビナートが立ち並ぶ埠頭に行って、↑こんな写真ばっかり撮ってきました。撮りながら、「うわぁ!」とか「うぉぉ!」とか独り言を言ってました。そんな自分をちょっとあぶないかもと思いました。でもそんな自分が可愛いとも思いました。

   *

 帰り道、塩釜駅前のふれあいエスプ塩竃(長谷川逸子設計)に立ち寄り、受験生を横目にちょっと一服(なぜか優越感に浸りながら。)。一休みした後、同建物内にある長井勝一漫画美術館に入ってみましたが、美術館というより資料室と言ったほうが妥当であろう広さにちょっと面食らいました(もっとも生前の彼の活動を考えれば、石巻市における石ノ森章太郎のようなものを期待するのはお門違いではありますけどね。)。

 小綺麗に作られたその空間は、彼の本質を伝えているとは決して言えないかもしれない(「本質」とは何かということはひとまず置いといて。)。しかし「長井勝一」という人間を公共施設にぶち込んでしまうというパンク(?)な姿勢、そして彼の活動を過大評価しない程良い規模、これらは十分評価に値するんじゃないか。そんなことを考えながら、白土三平・花輪和一・たむらしげるなどの原画をぼぉーっと眺めてきました。

   *

 以上、先週の日曜日のこと。「日記」じゃないけど、まぁ許せ。



2000年9月8日

today is …

サンガツ 『サンガツ』
 (WEATHER/PCD-5811 ['00])

 佐々木敦氏が立ち上げたWEATHERレーベルの第一弾アーチスト。ギター2人・ベース・ドラム2人の5人編成。いわゆる音響系のカテゴリーに入る音楽ではあるものの、一つ一つの楽器が織りなす音の重なりが絶妙で、凡庸な音響系とは一線を画す。プロデュースはJim O'rourke。気になる方はココをチェックしましょう。

 午後9時。仕事で疲れきった僕は自宅の玄関の前にいた。早くベッドにもぐり込みたい。僕はそんな一心で駅からの道程を足早に帰ってきたのだった。
 ポケットから鍵を取り出し、急いでドアを開ける。あぁこれで眠ることができる。今日はどんな夢をみるのだろうか。そんなことを考えると、自然に笑みがこぼれてきた。しかしそんなことを考えたのもつかの間、突然部屋の中から得体の知れない重たい空気が私めがけて襲ってきた。

「なっ!?」

一瞬ドアノブを放しそうになったものの、部屋の中に早く入りたいという気持ちがそれに抗する力となった。しかし部屋に充満したその空気は逃げ場を求めるように、玄関の私へ向かって否応なしにのしかかってくる。生暖かく湿り気を帯びた気体。冷静な僕の嗅覚はそれが何かの湯気であることに気付いていた。

 数秒後、流れがフッと止まった。僕は湯気の正体を突き止めようと、目を凝らして部屋の中を覗いてみた。

「は?…へ!?」

なんとその湯気は床一面に敷き詰められた白飯から発せられるものだった。炊かれたばかりと思しきその白飯は吐き気がするほど白く煌々と光を放っていた。

「ま…参ったな。」

僕はなぜか冷静にそう呟いた。人間は信じられない光景を目の当たりにした時に意外と冷静でいられるのかもしれない。そんなこと考える余裕すらあった。しかし、ハッと我に返えり、自分が置かれた状況を再度整理してみた。白飯。白飯。白飯。目の前に広がるこの現状にどう対応すべきか。

「あ、そうだ!!」

私は鞄の中に桜田麩があることに気付き、徐にその袋を取り出した。そして急いで封を切り、床に広がる白飯めがけて一気にふりかけた。桜田麩は勢いよく袋から飛び散り、一瞬にして辺り一面は桜田麩で埋め尽くされていた。

「…よし。」

桜色の絨毯を敷いたようなその空間を前に、なぜか僕は一つの仕事を終えた満足感に包まれていた。

 …しかし。数秒後、僕はこれが夢であることに気付くのであった。

   *

 浅い眠りは夢をいざなう。昼休みに昼寝なんかするもんじゃないね。



2000年9月6日

today is …

渚にて 『渚にて』
 (オルグレコード/ORG-007 ['95])

 柴山伸二と竹田雅子によるユニットの1stアルバム。私が聴いているのは、Pヴァインから再発されたCDです。羅針盤然り、LABCRY然り、まったくこの辺のバンドにはやられっぱなしです。

 ただいま。…結局今の私はこの世界から抜け出すことはできない、ということを再認識した3週間でした。ていうか、「早いよ」なんて言うのはナシね。

   *

 休止の間よく聴いていたのが、渚にての『渚にて』。「アシッドフォーク」というカテゴリーに納めてしまうことなんてとてもできない、ピュアな音楽。耳を傾けるだけでスゥーっと力が抜けていきます。羅針盤の『ソングライン』に涙した人だったら、この気持ちは分かっていただけると思うんだけどな。
 あ、あと松田マヨの『夏』と坂本真綾の新曲『しっぽのうた』も良かったですね。

   *

 dustというカタチで過去ログをまとめてみました。あと勢い余ってデイジーのページを作ったりもして(かなりヨレヨレですが…。)。デイジーのページにはゲストブックも付けましたので、宜しかったら足跡を残していってくださいな。