Review
Kinks / Soap Opera
キンクス流ロックオペラの千秋楽みたいな感じ。。 / ★★★★★★★★★ (9.0)
A面

1. Everybody's A Star (Starmaker)
2. Ordinary People
3. Rush Hour Blues
4. Nine to Five
5. When Work Is Over
6. Have Another Drink

B面

7. Underneath the Neon Sign
8. Holiday Romance
9. You Make it All Worthwhile
10. Ducks on The Wall
11. (A) Face in The Crowd
12. You Can't Stop The Music
キンクスの・・いや、レイ・デイヴィスの芸人魂が炸裂アルバム。
純粋な意味では本作が最後のロックオペラだし。オペラというかもはやTVドラマみたいな感じだけど。

ソープ・オペラ(石鹸歌劇)とはつまり日本でいうところの主婦のための昼メロドラマの事である。
昼メロのスポンサーは石鹸会社が多かったためそういう風に言われてるみたいだけど。

ストーリーはもう昼メロ、もしくはC級映画そのもの。
妄想家の男ノーマンと、その妻の物語。
自分はスターだし、誰でもスターに出来るんだ。という妄想を抱いている普通の男が
家でスターとして振舞って、妻はそれに付き合ってあげているけども、
そのうち自分が本気でスターだと思い出して、ノーマンではなくなっていく、そして妻は耐えれなくなる。
そして男はスターである事をやめて、ノーマンとして生きる事を選択する。

っていうものすごく小さなストーリーなんだけど
その中に、面白い要素をいくつも取り込んで、「ただの男の妄想」っていうテーマなのにそれを膨らませて
これだけのストーリーと楽曲を作り上げるレイ・デイヴィスの才能には驚くばかり。
レイ・デイヴィス扮するノーマンの語りは完璧だと思うし、相手役の女性の声も結構セクシー。

ストーリーが陳腐なだけに、曲も一聴すると陳腐っぽい。いわば場末のキャバレーサウンド。
1曲目は結構ハードなリフが印象的なんだけども、2曲目とかもうキャバレーそのもの。
「普通の人々」というタイトルをスターに変えれるんだよ・・・と耳元でささやいているような声に
ピアノ中心のまったりキャバレーサウンドがとても心地いい。
3曲目のはブルースといいながら、それほどブルース色はない。でもコレでハードになれば
ブルース・ブラザーズあたりが歌っててもおかしくないようなブラスとピアノが印象的な曲ある。
4曲目はタイトルどおり「お仕事の時間」。ノーマンは別に仕事とかどーでもいい系みたいなので
歌詞も特に凝ってはないし、曲も短い。
「仕事が終わってから・・」ってタイトルの曲がそれと対照的にやたらと明るいのはノーマンの心情そのものかも。
「仕事の後の一杯があるから幸せなんだよね」的なHave Another Drinkは超名曲。
覚えやすいメロディーに最高のアレンジ。ドラムが目立ってはいないけど、すごい良いリズムパターンを刻んでる。
A面の終りには最適な曲だ。

ムーディーなギターで幕を開けるB面だが、これはタイトルを見れば納得。
飲みの出て行った帰りのお話だと思う。「夜のネオンが幻想的だ」と。
しかし、この幻想的な部分がノーマンの妄想を余計に駆り立てているっていう複線な気も。
「ホリデイロマンス」を体験した気になって帰宅っていう妄想丸出しの8曲目
最強のバラード「すべて君のため」は美しいバラードだが、歌詞は微妙。
「すべて君のため」といいながら「ノーマンとのギャップ」を撒き散らす「スターとしてのノーマン」
そこに妻がついにキレるシーンで、オルガンがキュイーンって緊張感をあたえる所とか
ロックオペラとしては超一流な部分だと思う。素晴らしい曲だ。
「スターノーマン」が「普通のノーマン」に対する不満を爆発させる。
そして八つ当たり的に壁にかかってるアヒルがむかつくんだ!的な曲はアヒルの声が聞こえてきそうなギターに
本当にアヒルの声っぽいSEがリズムを刻んでて楽しい。
「〜〜ごっこ」はやめて、普通の群集の1人としての自分を受け入れるノーマンを描いた11曲目も美しい曲だ。
一応の物語の部分はココで終わるわけだがキンクス流のロック賛歌である最後の曲はエンド・クレジット的。
「多くのシンガーが登場しては消えていく。でも、音楽だけは永遠なんだ」
レイ・デイヴィスの名言の一つであろう。
スターぶっているノーマンの話とは関係なさげで、この曲がないと物語も終わらない気がするのが不思議な魅力。


まず物語あってそして音楽を作る。
そういうような作り方をしているのが聴けば明らかなアルバムだ。曲とストーリーが一致しまくりだし。
芸人レイ・デイヴィスのよさがフルに出たアルバムだし、とにかく楽しいアルバム。

一度聴いてみてはいかが?
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