Review
Kinks / Schoolboy in Disgrace
キンクス歌劇団の終り。 / ★★★★★★★★☆ (8.5)
1. Schooldays
2. Jack The Idiot Dance
3. Education
4. The First Time We Fall in Love
5. I'm In Disgrace
6. Headmaster
7. The Hard Way
8. The Last Assembly
9. No More Looking Back
10. Finale
前作までの歌劇思考は薄れたのか、普通のコンセプトアルバムとなった今作はRCA期最後の作品だ。
サウンドも割とシンプルになった印象はうける。もちろん「キンクス度」がやたら高いのは言うまでもないが。
キンクスは非常に野心的なグループだ。
過剰になりすぎた表現(もちろん過剰だが素晴らしい)を振り返って、次はそれを茶化す事に挑戦。
それが本作だと思う。ジャケを見れば分かるが、なんとも馬鹿なジャケだし
内側には、学生の制服を着て、ハーフパンツをはいて、パチンコを持ってヒネクレた微笑みをしているレイがいるし
他のメンバーもみんな学生の制服を着ている。音楽そのものも質は向上すると同時に過去のパロディーだらけ。
それのせいで「ふざけたアルバム」な印象があるのかもしれないけど、そんな事はない。
本気で取り組んだ作品だと個人的には思う。

テーマは1曲目を聴けばすぐに分かるだろう。
ずばり「若き日の回想」 それをテーマにした曲を10曲並べたような感じで、物語そのものは特にはないのだが。
このテーマがなかなか面白くて、レイ・デイヴィスの嗜好をのものを回想したかのようなサウンドが
あちらこちらにちりばめられているから面白い。
もしかしたらデイヴの嗜好もあったかもしれないけども。

ドゥー・ワップや、初期のロックンロールみたいなサウンドを取り込んで、非常に「ふるくさい音」を意識的に作りつつも
この時代でしか作れないような見事なブレンド具合。そこが「シンプルになった印象」なのかもしれないけど。


学校生活を一度でも振り返った事がある人は、涙せずには居られないかもしれない、1曲目は名曲だ。
陽気でふざけたおろかなジャックはピアノが踊りまくってて楽しすぎるし、
「教育が大事なのは分かるけど、どうして教育教育っていうのかな?」的な思春期の悩みと
教育至上主義体制への反抗の歌とも考える事が出来る。うーむ・・さすが英国人。
ドゥー・ワップ調の中間部が非常に美しい、初恋を思い出す歌には思わず胸キュンだ。
誰もが覚えたであろう、どうしようもない気持ちをこの30過ぎくらいのオッサンが歌うと美しいのは何故だろう・・。
その子に裏切られた!みたいな曲である「不良の烙印」もなかなか面白い。
「校長先生絶対主義」みたいな・・子供は校長先生怖いし、そういうどよーんってした曲も素晴らしい。

「涙の送別会」も涙だ。俺は転校した事とかないからわかんないけど、
友達がいっぱい集まってくれるのって嬉しいもんかなぁ? なんにせよ曲は1曲目並に美しい。
フォトアルバムをパタンと閉じるかのような思い出を振り返って、でももうふりかえってもしょうがない。
思い出は思い出で、現在のそれとは違うのさ・・的な過去への決別ともいえる曲、#9の「振り返ったりはしないのだ」
全部を総括してフィナーレって曲をつくっちゃうのはレイさんらしいけど、なかなか勢いがある曲で面白い。


この時期のバンドは売れなさ過ぎてアルバムを作るためにものすごくタイトなスケジュールでライブしてたようだし
バンド自体も大所帯だったから、もう火の車状態だったらしい。

バンドからの不満もあったのか、キンクスの歌劇団状態はココでオシマイ。
レイのワガママで集大成的なコンセプトアルバムを作りたかったのだろうが、オペラではないところが重要。
妥協しあって作ったアルバムじゃないかなぁー・・と。バンドサウンドもガッチリ固まってるし。
No More Looking Backという言葉も象徴的だ。
この後キンクスはレイがどう希望してようとも一枚もコンセプトアルバムを作っていない。
いろんな意味で区切り的アルバムで、だからこその「回想」で、だからこその傑作になった。
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