これもお勉強・・・ その8

番外編・これもお仕事

これまで何度か触れてきましたが、わたしの現在の仕事はいわゆる安全性試験というモノです。どんなことをしているのかっていうと、何らかの化合物を毎日食べたとして、一日にどのくらい食べても体に悪くないか、ということを調べてるってなもんかな?。実際には、その化合物を餌に混ぜてねずみさんたちに食べていただくわけです。そして一定期間、彼らの体重とか健康状態とかを記録していき、最後にいろいろな検査をして、化学物質の影響が出ない最高投与量を求める、というのが一般的な流れになります。

扱う化学物質はいろいろなのですが、まぁ農薬が多い。これは環境ホルモン問題でかなりトピックになってますのでご存知の方も多いかと思いますが。

で、その環境ホルモン。こんなこというとしばきたおされるかもしれませんが、現在の動向はちょっとヒステリックですね。確かに大きな問題です。雄の雌性化、精子数減少など、人類の先行きが暗いのは確か。ただ、根源的でない議論も多くなされています。議論がされれば、どんなにくだらねぇと思っても調べをつけなければなりません。

今日のはその一例。

一月に岐阜に出張しましたが、このとき、久しぶりに会った同業者が盛んにぼやいておりました。彼いわく、

「大豆に、エストロゲン(雌性ホルモン)作用があるっての、知ってる?」

「あ、きいたことある。でもすごい微量なんでしょ?大体眉唾ちゃうの?」

「なんだけどさ、調べろっていわれてさ」

世間で言われている環境ホルモン、これ多くはエストロゲン様物質です。ですから雌性化が問題になるわけで。でもなんで大豆・・・?

かくして、この同業者は大豆の安全性試験をやるはめになった。ねずみに大豆食わせるのなら簡単だろうとお思いでしょうが、政府の指導指針にのっとってやるとなると、結構大変です。まず、大豆を均一にえさに混ぜて、ねずみが嗜好で選択して摂取量が偏らないようにしなきゃならない。一日にどのくらい食ったかもきちんとミリグラム単位で算出しなきゃならない。だから、まるのまんまの大豆をくれるわけにはいかないのです。大豆のどの成分が灰色なのかわかればそれを精製して飼料添加することも可能なのですが、残念ながらそれはわかっていない。

同業者は、仕方なく、きなこを用いることにしたそうです。日本中に、いくつきなこ生産者があるのか知りませんが、とにかく手に入れられるだけの種類のきなこを集め、化学分析して、農薬等の混在のないものを選択する。そして、栄養のバランスが崩れない一杯一杯の量で餌に混ぜて、ねずみに食わせる。たいていの化合物の場合、混入濃度はppmオーダーなんですが、相手はきなこですから、もちろんそうは行かない。へたすりゃ%オーダーだよ、とぼやいておりました。

思いっきし笑わせてもらったね。ねずみが大豆食べるのは自然でしょ、自然。それって安全性試験な、わけ?

昨日、この同業者から電話がありました。用件を聞いてから、わたしはどうしてもしたかった質問を口にしました。

「で、どお?例のきなこの試験。もう結構走ってるでしょ?なんか出た?」

うきうきしたわたしの口調と裏腹に、電話の向こうからはため息が伝わってきます。

「まぁな」

「え、なになに?きなこでどうなるの?教えてよ」

しずんだ声が答えました。

「聞きたい?」

「うん、すごく聞きたい」

「きなこのえさ混ぜ投与による明らかな影響はね」

すごいすごい。明らかな影響と来た。ほんとにエストロゲン作用がつかまったのか・・・!あれは眉唾じゃなかったのか。

盛り上がるわたしの耳に、彼の結論が聞こえました。

「ねずみがね、めちゃくちゃ、太る

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