これもお勉強・・・ その3

敗者の運命

警告します!

お食事中のあなた!
食べたばっかりでまだ胃の落ち着かないあなた!
大変残念ですが,後ほどもういっぺんおいでください。
いえ,読んでも構わないんですが,気分の保証はいたしません。

今回のお話は,本シリーズその1およびその2から続いていますので,まだ読んでない方は先にそちらをどうぞ。専門用語を駆使してますので,いきなりここからだとわかりにくいです(笑)。

昼休みが終わった。監督の先生は無情にも,わたし達をあたたかい石油ストーブの前からひっぺがした。そして,ふるえながら牛舎へと追い立てられていくわたし達・・・。

二人ずつ組になり,牛舎中央にダウンジャケットを着て立った監督の先生にうながされるままにつなぎの上半分を脱ぎ,Tシャツをめくり上げ,石鹸水をつける。そして,割り振られた牛の前に行った。わたしと,組になった相方とは,しばし,牛の顔を見つめた。牛は黒目勝ちの目を不必要なくらい瞠ってわたし達を見返してくる。

気の早いペアはすでに獣医としての正しい選択をし,牛の頭ではなくけつ側に回ってちょっけんを開始している。わたし達もため息をついて牛のけつ側に移動し,覚悟を決めた相方がしっぽをつかんで持ち上げようとしたとき・・。

もぉぉぉぉぉぉ!」 と「うわぁぁぁあぁ!」という牛と人の叫びがユニゾンでこだました。

あきらめて作業に入りかけていた学生達がみんな動きを凍らせて叫びのほうを振り向く。さっきちょっけんされてもあんなにおとなしかった牛が,鼻輪をちぎらんばかりに暴れ,地団太を踏んでいる。はねとばされたらしい一人が,しりもちをついたまま呆然としていた。

しかし,ダウンジャケットを着た先生はかけつけるでもなく大笑いし,そして言った。

「お〜まえ あな間違えただろう。うえのほうよ,うえ。したのにてぇつっこんだら,そりゃ怒るよ」

この瞬間から,牛舎にいる約30人の学生の頭の中は,うえのあなうえのあなうえのあなうえのあなうえのあなうえのあなうえのあなうえのあなうえのあなうえのあなうえのあなうえのあなうえのあな・・・・・・・・・というリフレインで一杯になった。笑うなかれ,相手はでかい。あばれたらマジに怖いのである。

わたしの相方はびびってしりぞいてしまった。しかたなくわたしは歩みより,尻尾を持った。

汚いだのなんだのいったところで,ここにつまっているのは,所詮わらのよく発酵した後のかすである。こいつらは草食獣だ。肉食獣にくらべりゃぁ,こいつらの直腸内容物なんて,かわいいもんである。たいしたこっちゃない。わたしはそう自分に言い聞かせた。

そして尻尾を持ち上げ,しっかりとうえのあなを指差し確認して後,おもむろに右手を突っ込んだのである。

ああ・・・春のたんぼ。感触のキモチ悪さは別にして,鳥肌の立つ寒さの中では,なんと心地よいぬくもりだろうか・・・・。定期的に弱い締め付けを繰り返す(蠕動というやつですね),思ったより薄い感触の直腸の壁越しに,弾力にとんだ子宮が感知できる。ここをたどってちょっと脇にそれれば,卵巣が。卵巣が・・・・卵巣が・・・・卵巣がぁぁ?!

届かない。肩口まで突っ込んでも届かない。相方が尻尾持ちを引き受けてくれ,わたしは,必死で手をのばす。気がつけば,もう,牛のお尻にほおずり♪状態である。牛のお尻は当然ばっちい。だが,あったかい。右腕からほっぺを含む右上半身すべてを牛の内部あるいは表面に張り付けた状態でわたしは一瞬あまりのあたたかさに陶然とした。

しかし,悲劇は起きた。直腸内部に手を突っ込まれ,ぐりぐり直腸壁をいじりまわされたのだから牛のほうもたまらなかったのだろう。彼女が二三度足踏みをしたかと思うと,それまでの緩やかなものと一転した激しい締め付けが突然,指先からひじを襲った。そして春のたんぼは激流と化し,出口へ向かって噴出してくる。やばい,と思ったが,手を抜いて避難するには遅い。そうすばやく判断したわたしは押し出す力に抵抗して必死で腕を栓にするべくふんばった。激流が迫る。牛のただならぬ様子に尻尾つかみを放棄して相方が逃げたため,自由になった尻尾がわたしの顔面をはたく。いてぇぞ こんにゃろ・・・・・。それでもわたしは耐えた。

そして・・・・・・・

所詮ね,人間の腕の太さが牛のけつのあなに勝てるはず,ないのよ。ええ,ええ,肩まであなにつっこんだまま,腕周囲から噴出したものを,わたしはもろに浴びましたよ。なんてことないじゃん,よく発酵したわらのかすだよ。体に悪くも何ともないよ。

でもその日,わたしのお風呂の順番は一番最後だった。宿舎にも入れてもらえず,さむぅい風にふかれながら,玄関口でみんながお風呂を使い終わるのを一人さみしく待たざるをえなかったのである。

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