サバイバル・イン・アメリカ  その11
01/11/19

ビクトリアの秘密

クリスマスまであと一ヶ月と一週間を切った。
まだまだ先ではあるのだが,というよりはもはやクリスマスなんぞどうでもええわいという域に達しているのでまったくぜんぜんどうでもよいのだが,しかし世間は遠慮会釈もなくクリスマスシーズン到来を謳いまくっている。
コンビニに行けばケーキの予約をしろと言われるし,デパートに行けばプレゼントの用意をしろといわれる。
例年のことになってしまっているため,両親どもからはいつものレストランのクリスマスディナーの催促を食らう。
クルマでラジオを聴いていれば山下達郎だのワムだの。
今年は山下達郎の曲のラップカバーバージョンがよくかかる。
一度目は面白がって聞いていたが,何度か耳にするとこれはこれで耳につく。
・・・鼻歌にできないからラップはあまり好きではない。

いや,そういう話ではなくてね。

ラジオで言っていたのだが,クリスマスといえば女の子は勝負なんだそうである。
プレゼントとかディナーとかそういう話かと思ったら,どうも勝負はそのアトのようである。
何がどう勝負なのかは人によってもいろいろなんだろうが,そのアイテムとして今現在需要・供給ともに上昇しているのが,まぁその,インナー?アンダーウエア?

・・・いわゆる勝負パンツってやつさね。はいはい。

ラジオのDJ(女性)がいうには,やっぱり素敵な彼に一番素敵に見えるインナーを選ぶべきであり,さらに,日常と一線を引く色っぽさを漂わせるものを選ぶべき,なんだそうである。
彼女のお勧めは,「ビクトリア・シークレット」なんだそうである。
ビクトリア・シークレット?どっかで聞いたことがあるな。
アメリカの下着ブランドだそうである。
アメリカ?下着?・・・・あ,アレだ・・・。
アレだよ・・・・。

アメリカに行って一月ばかりもすると,さすがにいろいろと必要なものができてくる。
パンツしかりである。
アパートの乾燥機はものすごくパワフルで,洗濯機一杯分の洗濯物をわずか15分で乾燥しきるんだが,ものすごく布地が傷むのである。
同居人のパンツはそれこそKマートでかってくりゃいいのだが,やっぱり自分のものはちゃんとしたところで買いたい。
わたしは休みの日に同居人とともにモールに出かけた。
そして発見したのが「Victoria's Secret」というお店である。
チェーン店なので知っており,ちょっと高級なお店であるという認識があったので入りにくかったのだが,今日は絶対パンツを買うぞと決意していた勢いで店に突入した。
当然同居人はびびって隣の本屋に退却している。

日本の普通の下着やさんと思って入って,非常に後悔した。
店の陳列などの感じは日本のデパートなどとさほど変わらない。
ただし,三枚1000円ワゴンとかはなかったが。
何が後悔するかというと。
なんかすごいのである。
色といい,形といい,見てるこっちが照れちゃうような代物ばかりなのである。
これはちがう,と思ったんだが,入って速攻Uターンというのもなにやら悔しいものがあり,平静を装って店を一周した。
そしてやっとのことで割りと普通目の,まぁこれならどうにかイケるであろうというブツを発見してほっとしたのであるが。

ブツをもって店員さんを探すと,ゴージャスな金髪のお姉ちゃん一人だけのようである。
それも接客中。
ブツ片手にそちらを見ると,おいでおいでをしてくれるので寄っていった。
接客の合間にレジ売ってくれるんだろうと予想されたからである。
寄っていくと,客二人もこちらを振り向いて待っているのである。
なんだこれは?客のうち一人は女性,多分わたしより少し上くらい,んでもう一人は男である。彼女と同じくらいか,そんなもんだろう。外人の年齢見当はつけにくいんだけど。
こちらもナイスバディな女性客がわたしに微笑みかけてこういった(と思う)。
「あなたはこれとこれとどちらが好きだと思いますか」
言われてショーケースの上を見た。見てびびった。
上と下のセットである。二つ置いてある。高そうである。布地も,レースも高そうである。
きっと高いのかもしれない。だけど安いのかもしれない。

布が,激少であるから。

片方はワインレッド,片方は白いんだが,白いほうは全部,はいもう全部,レースである。
・・・レースなのよ。スケスケ,なのよ。
ワインレッドのほうは,すけちゃいないが,ほぼヒモ,である。
一歩退いたわたしに,男性客のほうがこう言った(と思う)。
「ぼくはね,こっちの(レースすけすけ)がいいと思うんだけど。これ着たら,彼女ものすごくセクシーだよね。」
うげ・・・。男性客は満面の笑みで女性客を見つめる。
女性客はにこやかに笑い返すとワインレッドのほうを手に持った。男性客はその肩を抱き寄せつつ,こう言った(と思う)。
「それもセクシーだけど,きみのエキサイティングな胸(どんな胸ぢゃい!)をサポートするには華奢すぎだよ」
「そうかしら」
と女性客が店員に目をやり,ついでわたしのほうに三人が目を向ける。
わたしは異次元にでも迷い込んだような気がした。
あんたらがどんな下着を買おうと知ったこっちゃない。
知ったこっちゃないが,この状況は相当気持ち悪いぞ?これがアメリカでは普通なのか?
沈黙したまま(たぶんきっとむやみに照れていて赤面していたかもしれない)わたしはしばし立ちすくんでいた。
もともと英語に難点がある上,状況がコレなので混乱している。何か言わなきゃ,どうにかしなきゃ。だいたいこの状況下で照れているこのわたしが一番恥ずかしい人種になっているのではないだろうか。
必死で考えまくった挙句,この場にもっともふさわしいと思われるのはこの言葉しかない,という言葉を思いついた。
多少気が引けるのだがそれもまた,真実である。
わたしはその言葉を口にした。

 

「スイマセン,アタシ エイゴ ワカリマシェン」

あいまいなジャパニーズスマイルをうかべたどたどしく英語をしゃべる日本人に店員はどこか同情するかのような笑顔を見せ,ようやくわたしの手にしたすごく地味なパンツのレジを打ってくれたのである。

この出来事から,わたしはすっかりこのお店が恐ろしくなり,それ以降必要に迫られてもパンツは別の経路で手にいれるようになってしまったのだが。

 

今の日本の事情は,どうなんだろう。
Victoria's Secretが日本に出店したのは結構前なんだろうな。
わたしは行った事がないんだが,ひょっとして日本店舗でも,カップルが肩を寄せ合いながら布地をぎりぎりまで節約したブツをあれこれ選んでるのかもしれないな。
「どぉ〜〜,これ,超よくなぁい?」みたいに。

どうなのだろう,男性諸君。彼女のセクシー下着はやっぱり選んであげたいもんですかね?

 

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