サバイバル・イン・アメリカ  その10
01/01/02

・・・食うか?

グランドキャニオンでの出来事です。

アメリカ西側の観光ツアーなんかだと、ラスベガスと並んで人気のグランドキャニオンですから、行ったことがある方も多いでしょうね。

わたしたちはクルマではいったのですが、ワシントンDCから車で走り始めて4日目、結構なお疲れ状態での到着でした。
アメリカも中部から西へ向かうルートはほとんど風景が変わりません。峡谷がないグランドキャニオンみたいなもんであります。
季節柄かもしれませんがほこりっぽくてなんとなく赤茶けた、ばかっぴろい風景が広がっています。まったく広い。不必要に広い。そしてヒトがいない。

ですから、グランドキャニオンについたときには、駐車場やヘリポートに大勢のヒトがいるのを見て、そちらのほうが新鮮だったような思い出があります。

そしてそのアメリカが誇る大峡谷に入るわけですが。
お金次第ではいりようも違ってくるんですよ、これが。

ふつーの人々は歩いてはいる。登山道のような道をへいこら歩いていくわけです。気をつけなきゃいけないのは、当然なんですが行きはくだりで帰りが登り。もちろんふつうの靴でも十分歩けるんですが、傾斜は結構にあるし、じゃりまじりの土の乾燥した道ですからかなり疲れます。そして、峡谷の一番下(なのかな)の休憩所まで往復したら、一日がかりになるんじゃなかったかな…。
んで、しつこく繰り返しますが、帰りがのぼりなんですよ。

足に自信がない方、あるいは小金もちの方(笑)は、ロバさんを用います。ひょっとしたらラバさんだったかもしれません。とにかく小型の奇蹄目の動物の背に揺られて往復するわけですね。
ただしこれ、かなり揺れる。そのうえ傾斜がきついから、またがって、下り始めるともうラバさんの首にしがみつく姿勢になります。さらに、道は細く、谷側は絶壁であります。なかなかスリルがありますよね。

そして、お金持ち。多くの日本人観光客はこの部類に属するようですが(ツアーのパックにはいってるのかな)、この人たちは、ヘリをチャーターするわけです。小型ジェット機もあったよなぁ。
そして上空から壮大な峡谷を俯瞰する、とこういう事になるんですね。

貧乏旅行のわたしたちです。せっかく来たからには峡谷を肌で満喫すべきである、という建て前のもと、果敢に自分の足で峡谷を下り始めたのです。

そこここに看板があり、ここからずっと水がないから水を買っとけとか、足の調子が悪かったら降りるなとか注意書きがあります。

でもわたしたちはなめ腐っておりました。

全長の三分の一ほど降りたところで、これ以上おりたら戻りで死ぬぞと悟り、のどが渇いてしょうがないが飲むものがないという悲劇的な状態で、来た道をまた戻る羽目になったのです。

めちゃくちゃしんどかった。足は痛いし、道はそれなりに急だし、ラバさんが来たらよけなきゃだし、体中ほこりだらけになるし。上空を飛ぶヘリの爆音があれほど恨めしかったことはありません。景色を眺めて楽しむのなんて行きだけ。帰りはひたすら登ることだけ考えて足元しか見ていない。何でこんなしんどいことしちまったんだろうとしみじみ後悔しておりました。

ちょっと道が広くなって、休憩できるような石があるところでわたしはネを上げて、腰をおろしました。一息ついて見下ろせば、やはり峡谷はきれいです。あ、やっぱきてよかったなぁ、と自分に言い聞かせているとき、ふと視野の端を横切ったものがありました。

あれ、と思って脇を見ると、リスです。
リスといいましても、ペットショップにいるようなシマリスくんではありません。ハイイロリスっていったっけな。体はそれこそ灰色で、サイズはシマリスの2倍くらいある、堂々たる風格のリスであります。アメリカにはこのリス結構おりまして、DCとかNYとかでも良く見かけました。同じ種類か知らないですが、街中の野良リスに比べ、こちらは完璧に野生リスなので少々スリムな感じです。

リスは、わたしの腰掛けている石の上に来て、じっとこっちをうかがっています。
でかいといっても造作はリスですから、ちょっと小首を傾げて見せられるとそれなりに可愛い。
よく慣れてます。観光地にいますから、人なれしてるんでしょう。これだけなれてるってことは、観光客が餌なんぞやったりするのでしょう。
・・・ということは、こいつも多分わたしに餌を期待しているに違いない。

申し訳ないが何もありません。何もないのだけど、でかい図体に不似合いに可愛らしく小首をかしげているリスを見ていると、どうしてもちょっかいを出したくなるのが人情ってヤツです。

わたしは人差し指をそっと差し出しました。
逃げるか?逃げるか?

リスは、ちょっと後ずさりしましたが、またすぐよってきて、鼻ずらを指先に寄せます。
ごめんね。ただの指なんだな。何もおいしいものは持ってないんだよ。
そのしぐさを見てわたしは思わず微笑んだのですが、そのとき。

リスはいきなりむんずとわたしの指をつかんだのです。それも両手でしっかりと。
リスに指つかまれたのは初体験だったんですが、意外に力が強い。つめのあたるところなんて痛いくらいです。白くなってるし。なにやら妙に力をこめてつかんでいるんですね。
そして次にリスがとった行動は、れろっ、と指先をなめるということでした。ちなみにリスになめられたのも初体験です。

つかんでなめる?。これ、絶対味見だろう。味見ってことは・・・次は、次は?
ちょっとまて。きっと不味いよ?ほこりだらけの上に汗まみれ。絶対、絶対食いもんを髣髴とさせるにおいも味もしないはずだ。噛むな、食うな、それはわたしの指だ!わかってるのかおい・・・?

そうは思っても、なぜかリスを振り払うことができません。リスに指をつかまれて固まってるぞ状態です。

そして、ついにリスは行動を起こしました。れろれろれろっともう一度指先をなめまわしたかと思うと、がりっ、とかじったのです。

つめを。

時間にして5分くらい、リスはわたしのつめをかじりつづけました。それ以上やると深爪になっちゃう、ってところでようやくかじるのをやめ、ぽいっ、と指を離してくれたのです。そして、軽く顔を洗うしぐさをしてから、するするっ、と石の上から去っていきました。

リスって、つめ、食うんですね?そらまぁたんぱく質だとは思うけど。

ってゆうかそれ以前に…

おいしいんか?つめって…

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