本のお話 その3

警告

P.コーンウェル 講談社文庫

はい、コーンウェルですね。売れっ子女流推理小説家であります。リッチモンドの検死官ケイ・スカーペッタシリーズの10作目になります。シリーズの書名を並べますと、「検死官」「証拠死体」「遺留品」「真犯人」「死体農場」「私刑」「死因」「接触」そして本書、となります。その他、「スズメバチの巣」で始まった新シリーズもありますな。一作目の「検死官」は相当話題になりましたんで、読まれた方多いんではないかな。

シリーズ全部読んではいるのですが、どうも最近のは印象が薄い。「真犯人」くらいまでは、店頭で平積みになってると喜び勇んで購入して一気読み!だったんですが、「死体農場」あたりからおやおやと。本書なんか発売後かなりたってから買って、ほどよく本棚で発酵させてしまった・・・。で、ようやっと読んだんですが、あぁはい、やっぱりなぁって感じでした。

もちろん、好みの問題なんですけど。

極端な話になりますが、アガサ・クリスティーご存知ですか?オリエント急行殺人事件とか、フェアかアンフェアかで議論になったアクロイド殺人事件など、映画化されるなんてのはざらで、高校の英語のテキストになったりしてますから、知名度の高い女流推理作家ですよね。この人も、わたし、初期から中期の作品が好きであります。

どういう事かと言いますと。少なくともクリスティーの場合は、後期の作品で、プロットがマンネリ化してきたとか、そういう理由はないんです。もちろん女流作家に限ったことではないのですが、だんだん作者の人生経験深くなるにつれて、なぁんか私小説、はいって来る場合が多い。主人公に人間味がないのはどうかっていうのもよくわかりますが、主人公の生き方や人生観なんかがメインになってきて、それのエピソードにミステリ部分が使われてる・・・みたいな感じになるんですね。ただね、クリスティーの方は、時代的にもノリ的にも、あまりに読んでる自分とはかけ離れてるんで、まぁ、受容できる。

で。コーンウェルの場合は、話そのものが現在です。主人公ケイは、女性ながら検死局長、バリバリの有能なキャリアおばさんです。つらい恋愛もすれば、居たたまれない肉親愛にも悩む。そのせいでワーカホリックが悪化している。分かり合える友もいるけど、遠慮ない政治的圧力の矢面にも立たなきゃならない。同僚にプライドを傷つけられれば、部下に裏切られもする。作者の医学的およびコンピュータ関連の豊富な知識と、犯罪者を追い詰め、上層部に立ち向かう主人公の姿勢の潔さ、みたいのがはまったなぁ、と、シリーズ一冊目で思ったんですが、それがねぇ、そうですね、「真犯人」のころまでなのです。

作を重ねれば、ある程度の専門知識は一般読者側に移入されてしまう。めずらしくなくなってしまうわけです。かたや、主人公の潔さや力強さ、こっちは見えなくなってしまった。本書なんて、正当なやり方でやっつけてほしいと感じる登場人物が、話を思いっきり引っ張った末、ものすごくあっけなく退場してしまう(あ、ごめん。ねたばらしになるか・・・・?)。そのあたりよりも、コーンウェルはケイの新しい恋愛のデティルを優先してるような気がする。前の恋人を忘れられないのに、年下のNew彼氏と まじ はいって悩んじゃってるんだ、先生。

本書に関して、それもわたしの勝手な意見、とあえて注意書きしといて言わしてもらいますが、伏線らしい伏線はひかれていません。また、メイン(なんだと思うんだが)の事件そのものの解決も、そりゃまぁありなんだろうけど、別に文句はいわないけど、どうでもよかったのね、そっちのほうは・・・・、みたいな感じです。あとは、これすべて私小説。中年に突入したバリバリキャリアウーマンの心理の機微の一例(あくまでね、一例。)、なんての読んでみたい方にはぜひお奨めですわな。ただしめっちゃ疲れたな。わたしはね。

あ、忘れてたけど、検死を取り扱っているのは当然でありますので、その事象に対する非常に詳細な記載がかなり頻繁にでてきて、その上延々と続きます。わたしでもメシ食いながら読んでて、お、しまった、と思ったくらいですから、気弱なかたは十分に気合入れて読んでください♪

[雑談TOPへ] [HOME]