2003年8月24日 午後9時

ナタリーが立ち止まってから、ずいぶんと時間が経った。
続きを書かなければ、永遠にナタリーは救われない気がした。
永遠に、昔の男に振り回されてドアを開けられない気がした。
ナタリーはあたし。
げんに、あたしは誰かを忘れてきれいさっぱり新しい世界に出ることを怖がり、そうならないことを望んでいた。

だけど、ナタリーが進まないのもあたしが誰かを忘れたくないのも、ただ一つの理由からだということがわかっていた。
私は恋をしていなければ何も書けないし、それは勿論世界に対する恋でもいいんだけど、
昔の世界とか、つまり昔の自分にリンクする何かを見つけて傷やら、自分の心やらがふと揺れ動く時に言葉が産まれるのだから、
彼を忘れたら昔のことも忘れてしまいそうになるのはよくわかる。
それは恐い。
それに、彼以外の人に恋するということは考えられないでいた。
その気になれば、誰だって好きになれそうな気もするけど、誰も信用できない。
つまり、ある一人の人に対して、どんなその人も受け入れるかと言われればそれは自信がないのだ。
その人の深い心のうちまで、もう入っていけるとは思えなかった。
こんなに歳を取ってしまったのだから。
その人の過去を想像でしか知らないというのは、私にとって恐いことだった。
早熟な私には、小さい頃とか十代の頃のことが、どんなにその人にとって影響があるか、それを想像すれば、それだけが重要だった。
どれだけ割合を占めるか。
それを過ぎてからの経験や世界なんて、大した影響はない、と信じている。
私の遺跡のことだって、とても大事な経験だったけど、単に忘れ物を取りに帰ったくらいの気分でいる。あまりに大きな忘れ物だったから、とても重要だけど。

ナタリーを上手に書けば、私はその通りに生きていけるかというとそうでもない。