作品紹介

著者:高里椎奈
あらすじ:「灰色の木を金色に戻す薬を下さい」——人知外れた妖しの、悪行に見舞われし迷子が、救いを求めて囁く呪文。1994年、秋がまだ火冬と名乗っていた頃、座木は高校に入学し言波という少年と出会い、火冬は一人の女子高生から呪文を告げられる。二人の裏に潜むのは、呵責の想いと空転する涙。桜花乱れ散る第8弾!(本書裏表紙より)

 キャラ :★★★★★
ストーリー:★★★★☆
 結 末 :★★★☆☆
 総 合 :★★★★☆


 まず、今作は今までとは一味違った、『過去』の話です。今までは時間順に並んでいましたが、今回はあらすじにもある通り、1994年で二人がまだリベザルと出会う前です。

 キャラクターは、前作までに登場していたキャラは火冬(秋)と座木のみ。(一応剴もいますが、まぁちょいキャラだし取り立てて言うほどでも無し)つまりはほとんどが新登場です。その完成度はかなりのものです。というのも、リドルと言波と桐子という新登場にして今回の重要キャラが、かなりいい味を出していて読んでいて興味を魅かれます。また、継続キャラとはいえ、座木は今回高校生で、今までに比べるとまだ完成していない感じが初々しくて◎カウンセラーなども「名脇役」と呼ぶにふさわしいキャラです。そして、今回は薬屋シリーズで初めて感じた、本当に憎たらしい悪役、が出てきました。ここもよかったのでキャラは最高評価をつけました。

 ストーリーは、火冬が受けた2つ(正確に言えば3つだが、もう一つは本筋とは大して関係無し)の事件を、火冬、リドルの二人と座木がそれぞれ分かれて調査していくもの。火冬、リドルは桐子の、座木は言波の問題を解決していくのですが、その内容がなんとも不気味な感じが出ていて、ほのぼのとした日常とのギャップがいい感じです。そして、リドルと小町の2人の関係が、二人とも妙に抜けていてほほえましくて笑えました。

 結末は、<ネタバレ>言波と桐子が兄弟というのは途中でわかりましたが、草佑の位置付けは少し驚きました。あと、皆死ななかった(死んでいなかった)という結末は嬉しいけれども少し甘いような気がしてなんとも微妙でした。しかし、『コカクチョウ』なんていうのは誰がどこらへんでわかれというのかが謎です。結末は本来、読者はそれをただ読むだけでなくてそれを予想させるところもあるので、それがないのは少し残念でした。ただ、ラストの桐子のセリフ「私すごく幸せだよ…」はかなりじんとくるものがあります。というわけで微妙な★3つ。

結論:なかなかお勧めです。私の場合、薬屋シリーズの中で一番最初に読んだのはこの本なので(電車に乗るときに暇だったので綺麗な表紙と幻想的な作品紹介に魅かれて。けど順番を知らなかった…^^;)リベザルが出ていないストーリーも、初々しい座木のよさもわからなかったので、「普通のいい話」のような印象を受けましたが、他の本を読んだあとにもう一度読んでみるとその良さがわかりました。また、「呵責の想いと空転する涙は、味わい尽くし果てたとき、シャボンとなって泡消えた。」という帯に書いてあった一文がなんとも言えず切なくて味わいがあります。


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