作品紹介

あらすじ:生まれ落ちたばかりのキンカンと、彼を見つけた少女リラ。料理上手なヴィオラと、人懐こいピアニカに、双子の兄弟シンとバル。家(ホーム)に住む6人を含めても、世界中で31人の”小さくて大きな密室”。一つの悲劇が、このドルチェ・ヴィスタ(甘い景色)に潜む驚天動地の真実を暴き、世界の輪郭を変える!20周年特別書き下ろし作品!!(本書裏表紙より)

 キャラ :★★★★★
ストーリー:★★★★★
 結 末 :★★☆☆☆
 総 合 :★★★★☆


 まず、この本は密室ミステリーとファンタジーの折衷、という触れ込みを聞いたのですが、実は密室とファンタジーは1:9くらいです。これを読む場合、ファンタジーを読むような感覚で読んだほうがいいでしょう。

 そして、キャラクターですが、今回しか出てこないのが惜しいくらいの出来栄えです。主人公のキンカン、世話焼きのリラ、口は悪いけれども心根は優しいバル、大人っぽいバルの兄貴シン、優しい母親のようなヴィオラ、思いやり深いピアニカ、の6人が中心となる独特な世界観で描くこの作品は根底となるキャラクターの個性に溢れています。これは薬屋シリーズにも言えることですが、高里さんは魅力に溢れたキャラを創るのに優れています。どの本でもそれだけは期待できるといっても過言ではないでしょう。

 ストーリーも抜群。私たちが普段生活している『地球』という場所とは色々な点で違って、それだけでも読む価値はあります。例えば、キンカンの発見から物語は始まるわけですが、キンカンが既に少年程度の体格を持っていて、そしてなぜか丘にいる、という普通に考えればとても奇妙な話。それをリラが、「あたし、生まれたばかりの子を見つけたの初めて!」と言ったりして、「ん?それって普通じゃないのか?」と思ったのは私だけではないでしょう。読み進めていくうちにそれが私たちの世界とは違うのだ、と気づくことになりますが。また、『雨』というものが水ではなく石が降ってきたり、出会ってから間もなく、話したことさえないキンカンを、生まれたときを発見して同じ家に住んでいるというだけの理由で心の底から信じているバルには驚かされました。その様な独特の世界観に、いきなり先制パンチを喰らったような感じでした。そして、高里さんしか出せない、美しい情景描写などもこのファンタジーにはばっちりと合っていました。

 え〜…そして、結末ですが…なんともお粗末な気がしました><この手の結末は大分昔から見られます。人それぞれなので一人一人が読んでみないことにはわかりませんが、少なくとも私はこれは「逃げ」だなぁ、と。また、キンカンが犯人ではないという証拠もちょっと乱暴ではないかな、と思いました。他にもいくらでもあったと思います。ただ、リラのエピソードに関してはとても興味深いです。カフォンの死に方に関して伝説を連想するまではできたのですが、さすがにあそこまで来るとは…と、驚かされました。リラの「世界の裏側なんて汚いことばかり。できればキンカンには知って欲しくないんだけど」というセリフも考えさせられると同時に、何かくるものがありました。かわいそうなリラの境遇も全てが『驚天動地』であって、『小さな密室』と言われる所以ではないかという感想でした。

結論:良かったと思います。美しい景色(ドルチェ・ヴィスタ)に独特の世界観、個性溢れるキャラクター達はそれだけで読者を魅了します。結局、村人達に悪人はいなかった、ただ考えが足らなかっただけなのだ、というのもよかったと思います。まぁ、結末に関してはそれまでが良かった為に正直私は落胆しましたが、あれに関しては人それぞれなので読んでみるのもいいでしょう。とりあえず、ストーリーとキャラクターのよさだけは保証できます。


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