さて前回に引き続き、年末のモロッコ旅行を、役に立つ解説付きでお送りしていますが、一行が次に目指したのは、南の大都市マラケシュ。モロッコで一番エキサイティングと称されるこの街には、年末をこの国で過ごそうとするツーリストがあふれていました。今回の旅行のメインイベントの1つでもあるマラケシュでのカウントダウン。はてさてその結末やいかに。
朝のジャマエルフナ広場(マラケシュ)
1.極寒CTM、そして早朝5時のマラケシュへ
マラケシュ(注1)で年を越すために、夜行のCTM(注2)でマラケシュに向かうことにする。列車でもよかったのだが、いろんな交通機関を体験しておいてもよいだろうということで。思えばこれが大きな間違いだった。途中2000mクラスの山越えもあるのだが、暖房も効いているので大丈夫だろうと思っていた。
出発して1時間ほど。バスは順調に走る。山間部の街を抜けて走り続けるが、どうもおかしい。急に寒くなってきたのである。出発のときに効いていた暖房が止まったようである。しかしここはモロッコ。こんなことで文句を言っても仕方がない。寒さに震え寝付けない様子の2人。途中の休憩ポイントでの夕食もいらないとの返事。何か食べておいたほうがいいと思ったが、とてもきつそうなのでそのままにしておく。外の気温は明らかに氷点下。車内の気温は冷蔵庫並み。こんな状態で寝ろというのも無理な話だが、バスはそのまま車内の気温を下げ続け、マラケシュへ向けてひた走る。
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(注1)マラケシュ
昔の首都。おそらくモロッコでもっとも観光客の多い人気スポット。国際会議や国際映画祭などもすべてこの街で行われる。僕の町からとても遠いのでそれほど多く行ったわけではないが、訪れた人を魅了してやまない魅力はわかるような気がする。最近は、メディナの中にヨーロッパ人オーナーのメゾン・ドットという形式のホテルが建設ラッシュで、喧騒を離れてのんびりと過ごしたい人にはお勧め。ただし夏場は気温が50℃近くなることもしばしばなので、夏の旅行は帽子を忘れないように。
(注2)CTM
国営の長距離バス会社。モロッコの公共交通機関の中ではかなりトップクラス。運行時間も正確だが、今回のように真冬に暖房が壊れていることもしばしば。ちなみに夏は逆にクーラーが壊れていることもしばしば。長距離バスにはCTMと別に、プリヴェという民営のバスもあるが、こちらはモロッコの公共交通機関の中でも最低レベル。途中でどんどん人を乗せるので時間が遅れるのは当たり前。雨漏り隙間風は当たり前。座席は岩のように硬く、冷暖房は当然ない。ただプリヴェのバスのほうが、なんとなく旅行ではなくて旅をしているという気分になることは確か。お勧めはしませんが・・・・・ |
2.コンパスの指す方角へ向かって歩く
マラケシュへ到着したのは早朝5時。街が動き出すまで3時間ほどあるので、バス乗り場の横のカフェで日が昇るのを待つ。かなりお疲れの様子の2人は口数も少ない。運ばれてきたカフェオレの温かさがありがたい。フェズを出発してはや9時間。思えばこの時の睡眠不足が、本日のカウントダウンに大きな影響を及ぼすことになるのだが・・・・・
お疲れのおふたり
日の出を待ってタクシーでホテルへ移動する。ホテルはジャマエルフナ(注3)の近く。とりあえずチェックインの時間まで荷物を置かせてもらい、疲れた身体に鞭打ち観光へ出かける。
まずは朝ごはんだが、昨晩夕食をとってない2人はガツっと食べたい様子。しかしながらこの時間は、あいにくパンとコーヒーという軽い食事しかない。そこで思いついたのは、日本でもおなじみマクドナルド。朝マックというやつである。ここモロッコではマクドナルドは非常に高価な食事。マラケシュのマクドナルドは店舗も非常に広くてきれいなのであるが、大晦日の開店時間早々に客などいるわけもなく、日本人3人でバリューセットを黙々と食べる。
最初に新市街をぶらりと歩き、マジョレル庭園へ向かう。言ってしまえばここはなんのことはないサボテン公園なのだが、住宅地のど真ん中に位置しており、観光地の喧騒を忘れさせてくれるので、結構ツーリストに人気のスポットである。
※写真「ジャルダン・マジョレル(左)」「バヒーヤ宮殿(右)」
ところで普通皆さんは旅行に出るときに必ず携行するものといって真っ先に思い浮かぶものはなんですか?着替え、飲みなれた薬、ガイドブック、トラベラーズチェック。いえいえ違います。大事そうにトンちゃんが取り出したのはなんとコンパス(笑)方位磁針です。最初は川口浩じゃないっちゃけん、とバカにしていたのですが、意外とこれが役に立って、次はどこに行こうか、あそこにしよう、地図を見て、いまいちわからん、じゃあこれで、という感じで(笑)旅行の携行品リストに入れておくと役に立つかもしれません。ただ周りのヨーロッパ人ツーリストたちは失笑していたけどね・・・・
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(注3)ジャマエルフナ
マラケシュの写真を見たことのある人は、この広場に並ぶ屋台の写真を見ているのではないだろうか。日が沈む頃までは、オレンジジュースの屋台が並び、中央では蛇使いや大道芸人が技を披露している。夕方になると広場には屋台が立ち並び、様々なモロッコ料理を楽しむことができる。中には羊の脳みそを食べさせてくれるところやカタツムリの屋台などもある。これはなかなか強烈なので物好きな人はチャレンジしてみては。そのほかにもタジンやケフタなどの串焼き、クスクスなどもあるが、味のほうはそこそこといった感じ。要するに味よりもその雰囲気を味わうと割り切って楽しんだほうがいいと思う。ここも日本語で客引きをしてくるモロッコ人多し。しかも意味不明のものが多く「秋葉原、秋葉原」っていうのが、今回一番笑えたかな(笑)
3.スークで買い物を楽しむ方法
午後はお土産を購入するためにスーク(注4)へ繰り出す。ここマラケシュのスークは品揃えという点ではモロッコで一番。また最初の価格もモロッコで一番。そこで重要になってくるのが値段交渉というわけ。前編にも書いたけど、アラブ商法っていうのは、基本的に高い値段を言ってきて、そこから交渉で値段を下げていくというところに面白さがあるけど、たまにとんでもない値段を言ってくるオヤジがいるので、それはそれであきれたり苦笑いしたりで楽しいもの。
さて、2人が購入したい物を目指してスークを歩く。まずはバブーシュを物色。フェズのバブーシュスークに比べると、マラケシュのほうが色々なデザインのものが揃っており、見ていても楽しい。とりあえずは値段交渉。せっかくなので僕は口を出さないでおく。
2人「これ、ハウマッチ」
オヤジ「ベリー・チープ、ナイス・プライス、トゥー・ハンドレッド・ディルハム」
2人「うぇー、高ぇよ。プリーズ・プライスダウン」
オヤジ「ノー、ノー。イッツ・フレンドリー・プライス」
2人「って言いよるけど、どげんとや、この値段」
俺「いやぁ、高すぎでしょ(笑)」
このように、値段交渉は根気が必要である。2人も英語を駆使して、店のオヤジと熱いバトルを展開。最初のうちは戸惑っていたが、そのうち慣れてくると、いくらなら買うんだというオヤジの声にとんでもない値段を言い出す2人。
オヤジ「これはハンドメイドだぞ。だから500だ」
2人「うぇー、高ぇよ」
オヤジ「じゃあいくらなら買うんだ」
2人「2つで50ディルハム」
オヤジと俺「・・・・・・・・・・」
徐々にたくましくなっていく2人を温かい目で見守ったのであった。
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(注4)スーク
スークとは一般的に市場のことをいいます。お土産物屋が立ち並んでいる通りもスークといいます。バブーシュ屋が並んでいるところはバブーシュスーク。アッチャイのポットなんかが並んでいるところは真鍮金物のスークという風に、同じ店が固まっているのが普通です。また観光客が訪れない、日用雑貨や食料品などを売っているスークもあり、時間があればこういったモロッコ人が日常利用するスークを覗いてみるのもいいかもしれません。メディナの外にもスークはあります。こちらのスークはノミの市をイメージしてもらえるといいかもしれません。ちなみに僕の街の場合は、街の外れの広場に、毎週木曜日と金曜日に生活雑貨のスークが出ます。たまに掘り出し物なんかがあって、見ているだけでも楽しいです。 |
4.ジャマエルフナの熱気とカウントダウン
買い物を終え、疲れは最高潮に達しようとしていた。スークを抜けてジャマエルフナに戻ると、食べ物の屋台が既に並んで、異様な熱気に包まれ始めていた。大晦日ということもあり、右を向いても左を向いてもツーリストだらけ。とりあえずホテルに荷物を置き、夕食にする。僕としてはカタツムリや羊の脳みそは是非とも食べてもらいたかったのだが、やはりこれには抵抗があるらしい。それほど美味いものではないので、無理して食べさせて嫌な気分になるよりは普通のものを食べようということに。ここの屋台は特に美味しい店が揃っているというわけではない。むしろ、あれ?って思う味のほうが多いのだが、雰囲気に飲み込まれてなんだか色々と食べてしまうという感じ。多分、縁日の時にイカ焼きやりんご飴など、ついついいろんなものを食べてしまう感覚と似てるんじゃないかって思う。
最初に食べたのはハリラ。これは定番なのでとりあえず押さえておかないといけない。続いて行ったのはレバー煮込みとソーセージの店。この店のレバー煮込みはちょっとよそでは食べられないお味で、ここへ来たなら是非とも食べておきたい一品だ。
お腹のほうは結構膨れてきたのだけど、もうちょっと食べてみようということで、串焼き、揚げ物など何でも置いている店へ。結構お腹は膨れていたので、少しだけ頼むことに。オヤジと話しているうちに、僕がモロッコに住んでいるという話をすると、なにやらとても喜んで、支払いの時におまけまでしてくれた。いいやつだなと思っていると、どうやら勝手に安くしたことを、店の店主に怒られている様子。おつりを渡すその姿があまりにもかわいそうだったので、日本製のアメ玉を1つあげた。
時間は20時を回ったところ。カウントダウンをどうするか考えていたが、いったんホテルに戻り、新市街のバーへ行こうということで話はまとまる。いったんホテルへ戻って、これが失敗だった。いやもっと言えば、フェズからのCTMの暖房が壊れていたことも、ホテルで休憩をとらなかったことも、すべてが失敗だったのだ。
ホテルへ戻りなんとなくベッドに横になった僕たちに、再び起き上がる力は残っているはずもなく、こうして2003年は静かに幕を下ろした。
ジャマエルフナの屋台」
5.新年を迎えて、買い物三昧、別れのとき
部屋の窓から差し込む光に気がついたときは、既に朝の8時だった。シマッタと思うも時既に遅し。モロッコで新年を迎えるという最大のイベントを寝過ごしてしまった。ちなみに僕は去年の年末も、日本からの来客と旅行しており、その時も度重なる移動の疲れで、寝て新年を迎えるという失態を犯していたのであるから、これで2年連続寝て年越しという・・・・なんだかなぁ(笑)
新年ということで気持ちを新たに、今日も買い物に励む。昨日大体の値段がわかったところで、今日は率先して値段交渉をする2人。あれよあれよという間に両手イッパイのお土産を抱えて、ご満悦の様子。最初のうちは僕が交渉していたが、やはりこういったことは言葉がわからなくても自分でやったほうが楽しいものである。アラビア語で交渉すればすんなりと安くなるが、別にそれだけが目的ではないので、つまりオヤジとの一連のやり取りが面白かったりするわけだから、片言の英語や筆談でも、本当に欲しいものを希望の値段で変えたときは、喜びもヒトシオ。値札のついてるお土産屋で購入するのとは、また違う喜びがあるのだ。
長かった珍道中も今日が最後の日である、ヨシタケは3日の早朝の飛行機で断つため、明日はカサブランカに行っておかないといけない。トンちゃんは再びタンジェからフェリーでスペインに渡り、次の目的地イタリアへ向かう。僕はまたあのクソ寒いCTMで自分の街へ戻るのだ。
夜は新市街の酒を置いてるレストランで、モロッコ料理とモロッコビールとモロッコワインで旅の思い出話に花を咲かせる。まさか来ることはないだろうと思っていた大学同期の突然の来訪は、モロッコで味わうことのできない年末年始の慌しさを僕に思い出させてくれた。多分満喫してくれただろう。僕のガイドは完璧だったのだから。ただ唯一、寝て新年を迎えた点を除いては。
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