月夜に闇夜





月夜に闇夜










「ふきゃあああああ!!!」



「か、神谷さん?!」







幕末、京都。



勇ましい浅葱色の羽織を袖に通し、今宵も仕事に精を出す若者が二人居た。



所は、新撰組屯所、土方副長の個室にて。











小さな窓から見える空は真っ黒に闇に包まれ、灰色の雲をはやばやと流していく。



満月は光の一筋も映すことを許されず、ただ沈黙している。



そこへ我もと降りてゆく雨粒は、すでに出来上がっていた水溜まりに大きく波紋を残してゆく。



庭に尻を据えている野良猫も、闇夜を鬱陶しく感じるのか、姿を消していた。











「あのー…………かみ…や、さん?」



総司は、これでもかという程こわばった体を支えていた。



沖田総司、この歳にして、恋をしたのは初めてであった。



初めてであるからこそ、伝えられない想いがある。



この青春が、壊れるのが恐ろしくて。





そんな想いも遂げられぬまま、日は過ぎていったが、ある日その想い相手が、



「土方副長の部屋は、汚すぎです!!少しは埃をはらわないと!!沖田先生、行きますよ!!」



と言い出したのであった。



沖田は甘味ならばもちろん喜んで行きたいものだが、掃除は嫌いなのでしぶったすえ、無理矢理連行というかたちとなった。



















が。



なんと、考えてみれば、この密室に二人きり。



はやる心も押さえる事ができぬままの総司に、なんと。





少女神谷清三郎ことセイが、飛びついてきたのであった。

















がたがたと震えるセイ。



「〜〜〜〜か、神谷さんってば!!聞いてます?!」





総司は必死の形相でセイに叫ぶ。



が、答えない。





そこへ、一筋の閃光が窓の外に走った。



と同時に、割れるような音。



ガラガラ…ッドン…………!!!!





「うわわわわわ!!神谷さんってば!!!!」



そう、その音と共に、セイは総司の腕を掴んだ力を増して、擦りつくように体を縮めたのだ。











「………………」



「………………」





ゴロゴロゴロ…



びくッ!!!





セイの体がはねる。

















「…………もしかして、カミナリですかね………?」



セイのぶんぶんと縦に振る頭を確かめると、総司は重く息を吐いた。







雷はいまだそこらに停滞しているようで、低い濁音が空に響いていた。





総司は思い直したように、セイに話し掛けた。



「いいですか、神谷さん」







セイは震えて答えない。









「まず、その手を離してください」













セイはその言葉にばっと顔を上げると、これでもかという程潤ませた目を総司に向けた。



頬は紅潮し、情けない顔をして。





「う"っ!!!!!そそ、そんな可愛い顔しても駄目です!!は、離しなさい!!」



ふるふると首を振って、セイはやっと答える。







「あの、ほ、ほんとに…だめなんですカミナリ様……」



「(ズキューン!!)だ、ダメです!『カミナリ様』だなんてかわいいニホンゴ使っても駄目!!」



何故かその『カミナリ様』というセイの言葉に、総司の心の琴線が触れたらしく、総司はぐっ、と唾を飲み込んでみせた。







しかし、セイはいっこうに離れようとしない。







総司はあきらめず、説得に精を出す。





「………あのですね、神谷さん」





セイは潤んだ目をうるうると向けてくるが、総司は必死だ。





「どうしても神谷さんに離れて頂かなければならないのっぴきならない事情がですね……」











そこへ、雷鳴。





ガシャーーーーーーーン!!!!



大きいカミナリがあまりに近くに落ちると、こういう音がするが、それどころではない。











「〜〜〜ふ、ふぅぅぅ……ッ!!」



セイはとうとう泣き出して、総司の腕によりいっそう体をからめた。







「ちょ、か、かみやさ、あの、うわ!!」



総司は、それと同時にものすごい冷や汗を流して身をできる限り引いて見せた。



が、それにひっついているセイを離すのには効果無し。







「〜〜〜〜神谷さん!!ほんとに!!もう駄目!!疼いてきちゃうんですって!!!!」











総司は顔を真っ赤にして、やっとというように叫んだ。





「……………?」



セイはうるうるとした瞳を不思議そうに揺らす。





「ですから、は、離してください」





総司は、真っ赤な顔をセイに向けて、言い切った。













が、ここは神谷清三郎、流石と言うべきか、とっても不思議そうな顔をして総司の顔色を伺うのみ。









…………わかってない。







絶望的なその状況に、総司は顔色を青くした。





(も、もしやココははっきり言ったほうがいいという状況なんでしょうか…)



総司はもっとも苦手とする考え事をしはじめなければならない羽目となった。



(…はっきりというと…『神谷さんのアレが当たるので』とか?……………なんだか微妙………



それとも『神谷さんの柔らかいモノがですね…』とか?……………)























……………?









総司は、異変に気付いた。







よくよく見てみると、もうその腕にはセイがいないではないか。









「あれ?神谷さ………」



















「沖田先生のど助平!!」







なんと、いつのまにかセイは、部屋のはじっこの隅へと移動していたのである。







「……………へ?」







ぜんぶ声に出てましたけど!!!!」







「…………(気付いた)あ、そうでしたか……」











………無言。











「え、で、逃げた訳ですか?」



当たり前です!!!!





「だからってそんな隅に逃げ込まなくても…ちょっと傷付くじゃないですかぁ」





「も、もう沖田先生となんか口聞きませんから!!!」









真っ赤な顔で抗議するその姿はかわいくて。







「ん〜〜〜〜………」









総司はうなった。















「神谷さん」





「な、な、なんです!!!」





セイははじっこに縮こまって警戒しまくりである。

















「あのですね、今新しい発見を」









「……は?」











「逃げられると追いたくなるんですねぇ」











「は?イミがよく……って何近づいてきてんですか!!ちょッ…!!」





















「え、だって私にしては結構な発見ですよ、考えるの苦手なんですから」















にこり。









総司は微笑む。







「ね」















そう言って。















カミナリと、闇夜。









それは、騒々しく、わめきたてては去ってゆく。

















月が、のぞき、光もこぼれる。























「…あいつら、ヒトの部屋で何してやがる………」





鬼副長、部屋に入れず。









月夜、廊下に一人たたずんでいた。































煩悩笑笑通りて…かなりおひさかたぶりですなぁ…

何故かこの通りだけ作品が増えてゆく。

しっかし寒い!!

寒すぎる!!

ストーブの灯油がもう切れます。

あとわずかの命……

これからどうやって生きてゆけば……(おおげさな)