落ち葉












「沖田先生……。」



「神谷さん……。」



昼の明るみも、もうそろそろ暗さを増すころで。



そんな淋しげな光の中、二人はじ、と見詰め合っていた。



セイが目を細めるように笑う。



まるで、今このときと、総司のその瞳を慈しむように。



総司はそんな微笑みに、困ったように笑って返した。



そして、二人が少しずつ暗がりに身を傾けた時。





「左ノ!!ちょっとこっちこいって!すっげえ蛙がよぅ!!」



「うおっ!!すげえ!!なんだそのでっけえの!食えっかな?!」



ドタドタドタドタ………



騒音が二人が潜んでいる部屋の床に浸透した。



「…………」



「…………」



二人は押し黙る。



「か、神谷さん、気にせずに」



総司が言うも言わないもそこそこに、また騒音が帰ってきた。



「おい!おまえら何してやがる!!!」



「あ!副長、今この蛙を焼いて食おうと思って」



「副長も食べてみます?」



「くだらんことしてねぇでとっとと稽古に戻りやがれ!!」



「うわっ!!そりゃないですよ副長イタタタタ」



ドダドダドダ………



再び沈黙が訪れる。







「…………沖田先生、無理ですよやっぱり」



「ええっ!!!今更そりゃないでしょう神谷さん!!」



総司の情けない声がセイにかけられる。



セイはそんな総司の顔にため息をつきながら、やれやれとそこに座った。



「まず、屯所っていうところが間違ってますって」



「だって土方さんたら『一番隊古株がこんなときに二人で休暇を取るだと?』ってすっごい睨むんですもん!!」



「…知ってますよ」



「もう、神谷さん私に何度我慢させれば気がすむんですか〜〜」



「そ、そんなこと言ったって」



セイは真っ赤で抗議するが、総司はがっくりと顔を机に落としている。









もう、二人の想いが通じ合ってからずいぶんの時が経っていた。



お里は、大切にされてるんやなぁとセイに言ったが、その通りであろう。



総司はずいぶん長い間をかけて待っていてくれた気がする。



…そう、はっきり言ってしまえば、睦み合うのを、である。





「だから皆が寝ている間にこっそりって…」



「だって夜中に二人で出ちゃったら脱走じゃないですか」



「部屋から出なきゃいいんでしょう?」



「部屋から出ないって?」



「皆が寝静まっているトコをこっそり…」



「絶対イヤです!!!」



「そんなバッサリ否定しなくても…う〜、ツライ…ね、いいでしょう?此処でも」



「ヤです!!!!」



「神谷さんヒドイ…」



なんと言おうとヤなんです!というようなセイの膨れる顔に、総司はため息をつくと、諦めて倉から出た。



セイが顔を真っ赤にしてずんずん歩く姿に、苦笑して、総司は話し掛ける。





「ね、神谷さんはどこがいいんです?」



総司は両腕を裾に入れ込んで、ゆっくり歩く。



「………」



セイはちろ、と総司を一瞥すると、恥ずかしそうにまた俯いた。



セイの歩調が総司に追いつく。



二人は井戸を通り越すと、庭へと入っていった。







総司が『ん?』というようにセイの顔を除く。



セイはそんな総司にたまりかねたようにぼそっとつぶやいた。



「…どっちかっていうと場所がどうのこうのっていうんじゃないんです」







「え?」



総司は目を丸くした。



「じゃぁ…何なんです?」



総司は思いもつかなかった、というような顔で、セイの隣をゆっくりと歩く。



「…あの」



「ハイ」



「せ、先生は嫌じゃないんですか?」



「……何をです?」



紅葉はもう散っていってしまったようで、肌寒そうな木々達が庭を取り囲んでいた。





「わ、私のこの格好をです」



「ハイ?」



総司は間抜けな声を上げた。



さっぱりわからないと言いたげにセイを見る。



「で、ですから」



「???」



総司は首をひねる。



セイは、そんな総司に、肩を震わせてやっと、まくしたてた。



「沖田先生はこんな月代もある、男の格好をしている人と、なんて、嫌じゃないんですか?」





「………ああ………!」



総司はやっと納得のいったような声をあげた。



「ああってやっぱり先生……!」



「い、いやそうじゃないですよ、そうじゃなくて」





セイの泣きそうな顔に、総司は慌てて両手を顔の前で振った。



「そうじゃなくて、困りましたねぇ貴方、」



あはは、と総司は笑いながら、また両手を懐に収めた。



「格好は関係ないですって、いつでも変わりませんよ、神谷さんへの私の気持ちは」



「嘘です!」



「どうしてです?」



「見ました!」



「何を?」



「先生が春画本の奇麗な女の人見てヒトリで……!!」



「うっわ神谷さん声おおきい!!」



総司はがばりとセイを抱き込むとその口を塞いだ。



そうしてから、困ったな、と頭を掻いてセイを覗き込む。



「…見てたんなら参加してくださいよ」



「はっ?!」



セイのまっかな顔をおもしろがるように、総司はこつん、と額と額を当てた。







「…神谷さんの助平」



「それは沖田先生のほうでしょふぐ!!」



「だから大きいですって!!」



セイの口はまた総司の大きな手に塞がれるが、いまだふぐふぐと怒っている。



接吻で塞がないだけましだと思ってくださいと伝えてやりたいが、それではまた怒らせるだけなので総司はまたため息をついた。



そうしてそっと手をどけてやる。



それと同時にセイは怒り爆発というように、口を開けた。



「だって!あんなにいろっぽいヒト!どう考えても今の格好じゃ勝てないですもん!先生の馬鹿!」



「いろっぽいヒトって…あんなのただの絵じゃないですか」



総司はそんな可愛いセイを腕の中に収めたまま、それを離すこともできず、頭を掻いた。



「…っていうか…あんなに色っぽい人って神谷さんも見たんですか?アレ」



そう疑問に思って率直に聞いてからしまったと思う。





そうだ。次の日。









「沖田先生が酔っ払って私に見せたんでしょう〜〜?!?!」







「だからあんなに恥ずかしがったんですねぇ」



総司は二度目の納得と言わんばかりにうながした。





そんな総司の飄々とした態度に、セイはうんざりといったような呆れ顔を作った。



「あ、ヒドイそんな顔しなくても」



総司はセイのその表情を見てとって言う。



「あれは神谷さんがあんまり野暮だから手を打とうと私なりの…」



「それだけは先生に言われたくありません」





もうこれ以上の口論は無駄だとわかったセイは、総司の胸に顔をうずめた。



「ちょ、神谷さん?」



総司の慌てたような声が聞こえる。



「…別に泣いてる訳じゃないですよ」



「いや、そうじゃなくて…」







セイはその暖かい懐に顔を埋めながら、ゆっくりと話す。



「私だって、ああいう格好で沖田先生を喜ばせたいです」



「………」



総司は無言だ。



それも無視して、セイは話す。



「だから、なんだかこの格好じゃ、いやっていうか…」





総司はいまだ黙ったままだ。





「沖田先生?聞いてます?」



セイが総司の顔を見上げた時だった。















「…ん………っ!!」



総司はいきなり口を塞いで来た。



なめらかな舌のはだざわりもぬるりとセイの口内に酔いしれる。









ゆっくりと離れた総司の顔を、セイはまんまるな目で見つめた。



「そういえば、こういう接吻もしたこと無かったですね」





そういう総司の瞳は、なんだか恐くて、セイはあとずさろうとした。







そんなセイの体はしっかり総司に抱き留められていて。











「さすがに、今回悪いのは神谷さんですよ?」





総司が、にこりと、笑った。



「お、沖田せんせい…?」









「お望み通り、たっぷり喜ばせていただきますv」



「人の悩み、聞いてました〜〜〜?!」







ひょいと抱き上げられ、セイは絶叫に近い叫びを、放った。













落ち切った紅葉が、風に揺れる。





そうして、ひゅうと風に吹かれて一枚離れてゆく。













春画本に見ているのは、貴方のそのままの姿ですよと、総司のにっこりとしたその悪魔の微笑みを、













皆から離れた一枚の落ち葉がするりと一瞥すると、











ほくそ笑むように、遠くへと、どこまでも、飛んでいった。

















秋は、儚く、甘い。




























え?

表に置くもんじゃない?

ですよね?(オイオイオイ)

なんか…どっちにしようか迷ってたら…

どうでもよくなり…

ごにょごにょ…

すいませんでした!!!(謝っちゃったよ!!)